第46話 パーティー会場
エルダとダイアと別れ、改めてジョージの店に向かった四人は、馬を連れ、ジョージの店の前にたどり着いた。
「はぁ……なんだかここまでたどり着くのにいろいろなことがありすぎてパンクしそうよ」
「そうだな……」
ネネとスーが息をつく。メリアは三日前からどこか心あらずといった様子で上の空だった。ネネやスーが声をかけても反応が遅い。そんなメリアを心配しながらジョージの店にたどり着いたスーとネネは、なんだかよくわからない倦怠感に襲われていたのだった。
「とりあえず、ここまで無事にたどり着けて良かったわ。だいぶ時間がかかったし、色々なところに連れて行ってしまったけれど、この子もようやくお家に帰れたわね」
ネネが手綱を引いていた馬の頭を撫でる。スーが扉に手をかけようとした瞬間、店の扉が唐突に開いた。
「⁈」
「ひゃあっ⁈」
慌てて扉を避けたスーとともに、驚いたのかルルが声を上げる。ルルの声にどこか上の空だったメリアがようやくスーたちの方を向いた。
「あら? あらあら! あなたたち!」
扉を開けて店から出てきたのはジョージで、ジョージはスーたちに気が付くと目を輝かせた。嫌な予感がして、スーが顔をしかめる。
「ちょうどよかった! いいタイミングで来てくれたわ! 最高! あら?」
ジョージがメリアに気が付いた。
「あなたがメリア? お話はかねがね……ってそんなこと言っている場合じゃないわ。あなたたち‼」
ジョージの声に四人がビクリと肩を震わせる。ジョージは四人を見て、満面の笑みを浮かべた。
「着替えるわよ」
◇
それから数分後、スーたちはクローズド・ロウェル・シティ中層にある貴族の大きな家のパーティー会場の隅で呆然としていた。
視界に広がるのはあまりにも縁がない煌びやかな空間だ。汚れ一つない白い壁と天井。頭上には豪華なシャンデリアがかけられ、美しい装飾品が部屋の各地に並んでいる。そして、その息が詰まりそうなほどに洗礼された空間に、スーたちと変わらないぐらいの子供や、スーたちよりも小さい子供たちがたくさんいて、思い思いの行動をしていた。
「……ねぇ……ここ……私たちがいるべき場所じゃないわよね……?」
不安そうに問いかけたネネは、数日前に試作品としてジョージに着せてもらった黄色いドレスの完成品を身に着け、身だしなみを整えて髪を編み込んでいた。ネネの後ろに隠れているルルも同様に琥珀のコサージュがついた白いブラウスとサスペンダーのついたかぼちゃパンツを身に着け、眼鏡をはずして前髪をピンでとめて身だしなみを整えている。
「……俺たちは……なにに巻き込まれたんだ……」
呆然と呟いたスーは白い燕尾服を身に着けていた。ネネのドレスとルルのブラウスとお揃いの金色の刺繍が施されたその服は、前回、スーが見せるのを渋った服だ。
「ううん……よくわからないけど……みんな似合ってるね……?」
苦笑いを浮かべながら言ったメリアもみんなと同様に着飾っており、夜空色の膝丈ほどのドレスを着ていた。腰に巻かれたリボンが印象的で、メリアが動くたびにリボンがヒラヒラとたなびく。他の三人と同様に、そのドレスの胸元金色の刺繍が施されていた。薄紫色の髪をおろし、星型の髪飾りを付けたメリアはとても大人っぽく見える。
「ありがとう、メリア。メリアもよく似合ってるわ。ね? スー」
ネネの圧に押され、スーが小さな声で「うん……」と呟く。メリアがとても嬉しそうに「ありがとう」と笑った。
「ところで、ここはいったい何なの?」
「えっと……」
スーが頭を掻きながら数分前のジョージの言葉を思い出す。ジョージはテキパキと四人の身だしなみを整えながら、言った。
「ちょっと困ったことが起こってね。中層貴族が開くあるパーティーに行かなきゃならないんだけど、そのパーティーが子供同伴じゃないと入れないのよ~。貴族の子供同士の親睦を深めようっていうパーティーらしくてね」
ジョージはスーたちが質問する暇も与えず、慌ただしく四人の準備を終わらせると、店のすぐそばにある中層に続く門の鍵を開け、四人を連れて階段を登って中層の大きな家の前にたどり着き、家の玄関の前に立っていた門番に「マダム・マリリンの子供たちです」と四人を門番に引き渡したのだった。そして、スーの耳元で囁いた。
「先に入っていて。私もすぐに行くわ。誰かになにか言われたら、自分たちはマダム・マリリンの子供だと言っておきなさい」
そう言うとジョージは四人に手を振って去っていき、門番は四人を家の中のパーティー会場に連れて行っ
て、今に至る。
「マダム・マリリンって誰? とか」
「なんのためにパーティーに行くのか、とか」
「そもそも、なんでミス・フェルベールが門の鍵を持っているのか、とか」
「そこらへん、なんにも説明しないまま、あいつ俺たちを置いていきやがった……‼」
スーたちが大きなため息をつく。この空間は下層に住むスーたちにとって酷く居心地が悪く、ルルにいたっては、ネネの後ろに隠れたまま出てこない。
「……よくわからないけど、門番の人にここから出るなって言われたし……」
「……ここにいるしかないよな」
メリアとスーが目を見合わせ、またため息をつく。ネネもどこか不安そうな表情をしていた。
「私……早く帰りたいのだけど……」
「ジョージが来るまではどうしようもないな」
「君たち」
その時、少し離れたところで話していた、スーたちと同じ歳ぐらいの男子三人組がやって来た。どこか悪意のある表情を浮かべており、スーがメリアたちを庇うように前に出る。
「見ない顔だが、どこの子供かな?」
「このパーティーは弱小貴族は入れないぞ!」
「そうだ! そうだ!」
中央で得意げな顔をしているそばかすの男子の取り巻きなのか、後ろの男子二人が声をそろえて言う。スーは酷く面倒くさそうな表情を浮かべながら、ジョージに言われた通りのことを言った。
「マダム・マリリン」
「マダム・マリリン⁈」
三人組が驚愕の声を上げる。だが、中央の男子はすぐになにかに気が付いた様子で笑った。
「ま、マダム・マリリンには子供はいないはずだ! お前たち、嘘つきだな! 上層貴族の名前を借りて見栄を張ろうなんて、卑しいぞ!」
よくわからないが、マダム・マリリンに子供はいないらしい。心の中でジョージに悪態をつきながら、スーがなんて言おうか悩んでいると、スーの後ろからネネが顔を出した。
「養子をとったのよ」
「は?」
「私たちはマダム・マリリンの養子よ。これで文句ないでしょう?」
「な、な、そんな証拠どこにもないだろ‼」
「私たちがマダム・マリリンの子供ではない証拠もないでしょう。いいの? 上層貴族の子供にそんな態度を取って」
ネネの気迫に押され、男子たちは顔を真っ赤にしながら悔しそうに肩を震わせると、小さく舌打ちをして去っていった。
「上層貴族ってなあに?」
「貴族にも位があるのよ。王族に認められ、上層に近い位置に住んでいる貴族ほど位が高いの。マダム・マリリンは知らないし、ミス・フェルベールとどんな繋がりがあるのかは知らないけれど、とりあえず今は名前を借りておきましょう」
メリアの質問にネネが平然と答える。
「というか、こういう場合って下手に騒ぎを起こさない方がいいはずなのに、怒らせてしまってよかったのかしら……」
「いいんじゃねーか。ああいうムカつく輩は追っ払っても」
「かっこよかったよ、ネネ!」
「ありがとう……?」
すると、会場の中がざわめき出した。
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