第25話 子供たちの長
スーが眠っていた部屋は、居住区の中でも上の方にある部屋だ。路地の壁に沿うようにして作られた四角い形の部屋は、子供が増えるたびに増設を繰り返し、地面の上に作りきれなくなったものは、壁にくっついたまま宙に浮いている。昇り降りをするための梯子など存在せず、部屋に行くためには壁を登り、外に出るためには、部屋の出入り口から下に飛び降りるしかないのだ。そして子供たちは、それを難なくこなしてみせる。
スーが出入口に近づき、下を見ると、子供たちに囲まれたネネが「おーい!」と手を振っているのが見える。ネネも出入り口から飛び降りて、着地したのだ。
「……元気だなぁ」
スーは小さく呟くと、部屋から飛び降りた。地面に着地すると、子供たちがわらわらと群がって来る。
「スー! 遊ぼ!」
「昨日の話聞かせてー!」
「セリル・イントレイミを見たって本当?」
「はいはい、また後でなー」
「そうよ~。私たちはメリアを連れ戻さなきゃいけないの」
「ええ~⁈ 二人とも帰っちゃうの⁈」
子供たちはそう言うと、ネネとスーの腕を掴んできた。二人は身動きが取れなくなり、苦笑いを浮かべる。
「ちょ、ちょっと離してくれない? 私たちもずっとここにいるわけにはいかないのよ」
「ほら。また来てやるから」
「やだぁ‼ もうちょっと一緒にいようよ‼」
「まだお話聞いてない~!」
「帰らないでー!」
子供たちは次々と二人の腕や足に縋り付き、絶対に二人を帰さないという強い意思が感じられる。騒ぎを聞きつけてやってきた子供たちも、理由は知らないが面白そうだ、という理由で二人に群がり、押し合い圧し合いになっていって、二人はついに一歩も動けなくなった。
「ちょっと、離して~!」
「おいおい。マジで帰れないぞ、これ」
子供たちは楽しそうに笑いながら、おしくらまんじゅうを続ける。困り果てた二人はなすすべもなく、スーがネネの方を見ると、ネネは「どうしよう……」と呟いて眉を下げた。
「やめないか、お前たち」
聞こえて来た声に、子供たちがピタリと動きを止めた。子供たちがサッと道を開け、二人の元から離れる。開けられた道から歩いて来るのは、黒猫のステラを引きつれたスティファニーだ。
「客人を困らせてはいけない。遊ぶなら他の場所で遊んでおいで。やるべきことがある者もいるだろう。下層が物騒になっている。一人で行動せず、なすべきことをするんだぞ」
スティファニーにたしなめられ、子供たちは「はーい」と元気よく返事をすると、散りぢりになって去っていった。二人の前に歩いてきたスティファニーは、呆れたように息をついた。
「不用意なことを口にするでない。子供たちは好奇心の塊なのだから」
「ありがとう、スティファニー。助かったわ」
「かまわん。ここの長は私だからな」
「バアヤは自分の後継をスティファニーにしたのね。当たり前と言えば、そうなのだけど」
「もう歳だといって私に役目を押し付けたが、いつまでたってもピンピンしている。元気すぎるほどにな。まあ、血の繋がりも何もない私を拾い、ここまで育ててくれたことには感謝している。くたばってしまうのも困る、というものだ」
その時、スティファニーの足元でステラが「ニャア」と鳴いた。スティファニーがステラを見て「ああ、そうだった」と答える。
「メリアなら、奥の部屋の中にいる。
「まあ、大変。スー。助けに行きましょ」
「スティファニー!」
向こう側から子供たちがスティファニーを呼ぶ声が聞こえ、スティファニーはふぅと小さく息をつくと「ではな」と言って二人の前から去っていった。
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