第8話 予言者

「友?」


 スティファニーの言葉に、ネネが問いかけた。


「下層に突如現れたドゥドルは、メカニックアニマルの白い魔鉱石を汚く、黒く染めあげ暴走化させる。私の友も、ずっと一緒に生きて来た唯一無二の友も、その惨劇に見舞われ苦しんでいる」


「もしかして、友ってメカニックアニマルなの?」


 ネネの問いかけにスティファニーが「うむ」と頷く。


「私の友は黒猫のメカニックアニマル。名をステラという。ステラは私が小さい頃に下層にやって来た愛玩用のメカニックアニマルで、私と波長があったのか、どこに行くにもふらりと現れるおかしなやつだ。そんな奴が、初めて私に牙を向いた」


 スティファニーがローブの袖をめくり、細い腕が露出する。その腕には包帯が巻かれていた。


「我を失い、暴れ狂っている。あんなものは、私の友ではない。助けてくれないだろうか」


「もちろん、助けたいのは山々だし、スティファニーの頼み以外にもドゥドルを駆除してほしいっていう依頼は入っているのよ。でも、ドゥドルには銀の武器以外は効かない。銀なんてそんな高価なもの、下層にホイホイ落ちているわけがないもの。私たちもどうしたらいいかわからないのよ」


「それなら、問題ない」


 そう言うとスティファニーはローブの中から黒い袋を取り出した。スティファニーのローブの中は異次元なのではないかと思うほど、なんでも出てくる。


 スティファニーは取り出した袋をそばにいたルルに押し付けた。ルルが恐る恐る袋を開け、「わあ!」と驚いて袋を取り落しそうになり、スーが慌てて袋を受け止める。袋を開けてスーが袋に手を突っ込み、中に入っていたもの取り出すと、それは鞘に収まったナイフのようだった。


「銀の武器だ。とはいえ、ネネが言う通り高価なものだからな。そんなに数はない」


 スーがナイフの鞘を抜くと、そのナイフの刀身は銀色に光り輝いており、スティファニーの言う通り、銀で出来ているようだった。


「それを無償で与えよう。だから、どうか、私の友を救ってほしい」


「う~ん……確かに、銀の武器さえあれば、ドゥドルはなんとかなるわ。でも……ドゥドルに暴走させられたメカニックアニマルがどうにかなるのかは……ごめんなさい。わからないわ。いまのところ、暴走化したメカニックアニマルを止めるには、メカニックアニマルの核である魔鉱石を壊して、破壊する以外に方法がないの」


「わかっている。それでも……かまわない」


「え?」


 スティファニーの返答に、ネネが目を見開く。スティファニーは少し悲しそうな表情を浮かべ、腕に巻かれた包帯をさすった。


「友は苦しんでいる。苦しみから解放してあげたい。ずっと一緒にいたんだ。あんな苦しそうな友を見たことがない。我を忘れているのだろう」


「でも……」


「所詮はただの機械なのだ。作られた命なのだ。生きていないのだ。だが、それでも、私の大切な友なのだ」


「……わかったわ」


 ネネがスティファニーの手を握った。


「助けるわ。スティファニーのお友達。ただの機械なんかじゃない。メカニックアニマルだって生きているもの」


「……ありがとう」


 ネネの力強い返答にスティファニーが柔らかく微笑む。


 その時、部屋の奥で話を聞いていたメリアが玄関に顔を出した。不思議そうな表情を浮かべて、みんなの様子を見に来たらしい。


 そのメリアの姿を見て、スティファニーが目を見開く。その様子に気が付いたネネとスー、ルルがメリアの方を見た。唐突に全員の視線を浴びたメリアが困惑した様子でたじろぐ。スティファニーは何も言わず、目を見開いてメリアを見つめている。


「どうしたの? スティファニー?」


「……空……」


 スティファニーは薄いグリーンの瞳を見開き、メリアの金色の瞳を凝視している。だが、スティファニーの瞳はメリアを介して、別のものを見ているようだった。


「……空からいでし少女……その理を知らず……世界の創造……破壊……ゆえに……少女は舞い降りる……」


 スティファニーが理解できない言葉の羅列を小さな声で呟く。


「ちょっとスティファニー⁈ 大丈夫⁈」


 ネネがスティファニーの肩を掴んで激しく揺さぶると、スティファニーがはっと我に返り「ああ……」と呟いた。


「すまない……彼女は?」


「え? ああ、メリアのこと?」


「メリア?」


「ええ。なんか、落ちて来たらしいわ。記憶喪失で素性もわからないけど、いい子よ」


「……そうか。いや、なんでもない。それでは友の件、頼んだぞ。それから、そのメリアという少女、バアヤに紹介しておくべきだな。問題はないだろうが、一応な」


 スティファニーはじっとメリアを見つめると去っていった。

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