第29話 地下での戦い3

ニーナはテングと対峙していた。


「クックック…どう食ってやるかな?子供の肉は柔らかくて俺ぁ大好物でな。」

 テングは涎を滴しながらニーナに迫っていた。


「……。」

ニーナは無言で小刀を構えている。


「チッ。ちょっとは怯えたらどうなんだ?気味の悪いガキめ。」


ニーナは一瞬の隙をついてテングの懐に入り小刀を振った。


「おっと!あぶねぇなクソガキ!!……だぁ!?切れてやがる!」

 テングの手のひらからは血が出ていた。


 ニーナは更に前へ進みテングに向かって何度も切りつけた。

「あぶ……あぶねっ!おい、ちょっと待て!……舐めんなガキぃ!!!」


 テングがニーナを鋭い爪で切り裂いた。


「いっ……!!」


「痛いのはこっちだ!何度も切りつけやがって!」

 (こいつちょこまかとすばしっこい奴だな………)

 テングは少し考えた後ニヤリとした。


ニーナは首の辺りにヒリヒリと痛みを感じた。

 (………危ない。もう少し深かったらやられてた。爪に気をつけないと…。)首からは少し血がでている。


「動きは中々なもんだなぁ。だがなぁあまり魔物を……」

 ニーナはまた一瞬で懐に入り小刀を振るおうとした。

 「舐めない方がいいぜぇ!」しかしガシッとニーナの腕が掴まれてしまった。


「おぉ!?」掴まれた瞬間ニーナも体を反転しテングの顔に蹴りをいれる。


 ガリィッッ!!


「うっっ….!!!」


 テングがニーナの足に噛みついた。


「いっ……はなっ…して!」


ニーナがジタバタするとテングの口からニーナの足が離れた。


「………。」ニーナの足にはテングの歯形が付き、血が出ていた。


「これでお前はもうちょこまかと動けないだろう?くっくっ。さぁて…もう諦めるんだなぁ。」


「……!?」ニーナが小刀を取って起き上がろうとした時、テングがニーナの上に飛び乗ってきた。


「ジタバタすんじゃねぇ!!!もうお前は終わりだ!ここでお前は俺に食われて死ぬんだ!」


 テングがニーナの首に手をかけた。

「生きたまま食うのもいいが……めんどくせぇ。先に首をシメ落とすか…」


 テングの手に力が入っていく。


 ミシミシッ

「うっ……くっ」苦しい……。


ニーナはサト子のことを思い出していた。


 (サト子……大丈夫かな?

 ……私が死んだらサト子は泣いてくれるかな?怒ってくれるかな。サト子は私に初めて言ってくれた。)


『私もニーナが死んだら辛い』

『私はニーナと一緒にいたい。』

『ニーナと友達でいたい。』

『私はニーナが大好きになっちゃったんだから。』

『私はニーナが必要だし、幸せになってほしいんだよ。』


 サト子の言葉一つ一つが私の心を揺さぶり、刺激した。サト子の言葉があったから私は生きて行こうと思った。ウォーカーさんの最後の言葉を、ウォーカーさんの願いを改めて思い出すことができた。



 私はまだ死ねない。



「いい加減…諦めろ!」テングが力を込めてニーナを更に押さえつけた。

 ニーナは力を込めて何とか首元に少し空間を作り叫んだ。


「…私はもう二度と!!生きることを諦めないっ!!」


「いってぇ!!」ニーナがテングの手を噛んだ。


テングの体がニーナと離れた隙にニーナは洞窟の奥へと走った。


「ちくしょう!!待ちやがれ!!」

 テングも後を追う。






「あいつ……足に怪我をしてるくせにまだ走れたのか??」テングはニーナを探しながら洞窟の奥を進んでいた。


「しかしバカな奴め…血が点々として地面に落ちているからどこにいるかバレバレじゃねぇか…」


 テングが血の後を辿ると血は大きい岩影に向かっていった。


 (そこかぁ………バカな人間め…)


「……人間ごときが、魔物に歯向かうからだ。もう分かっただろ?俺達に目を付けられた人間はただ、死を待っていればいい。人間はただ、怯えて死ぬのを待つだけなんだよ。それがぁぁお前達人間の運命だぁぁぁ!!」


 テングが勢いよく岩影に入った。

「……あらぁ?いないぃぃ??」


「ギャァァァ!」


 テングがビクッとして足元を見た。


 奇妙な物を踏みつけている。それは全体的にピンクで口の辺りから内臓を吐き出しながら断末魔の叫びを上げている。


「な、なんだこの気味の悪い物は……!?」


 テングが足元のそれを取ろうとした。

その時、

「お前の、負けだぁぁぁ!!」


 岩の上からニーナが小刀を振り上げて飛び出した。


 かがみこんだテングはいきなり出てきたニーナに対応できず、小刀がモロに頭の皿にぶち当たった。


「ひぎぃぃぃぃぃ!!!」


 テングは泡を吹きながら後ろに倒れた。


「はぁ……はぁ。……人間を舐めるな!!」


 私を必要としてくれている人がいる。それだけでこんなに生きる気力が湧いてくるんだ。

 

 ニーナは足元に落ちているランラビを拾い上げた。

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