第26話 小屋を目指して…
三人はリプトンの北にある小屋を探していた。
「ノペル、そろそろあの人が誰か教えてくれない?」サト子が草木を掻き分けながらノペルに聞いた。
「……そうですね。細かく話してしまうと長くなるので簡潔に…。僕はここからずーっと南にあるガムと言う村で生まれ育ちました。そこは村人が100人ほどの小さな村でした。」
「ガム……何だか噛めば噛むほど味がしそうね…」
「…えぇ。ガムの村はそれは毎日平和で、村人達もみんな笑顔で幸せに暮らしていたのです。そう、みんないい人でした。」
一瞬ノペルの声が小さくなった。
「先程会ったゼパードと言う方は村の戦士だったのです。まあ、あの方がいたから村が平和だったと言っても過言ではありません。ゼパードさんはそれはとても強く、時々王国から助っ人を頼まれるほどでした。それからゼパードさんは村の若い人達を集めてグループを作り、魔物から村を守ってくれてもいたのです。」
ノペルも草木を掻き分けて進みながら話を続けた。
「しかし数年前のある日、事件が起こったのです。なんと村に何十……いや、百はいたであろう数の魔物が攻めてきたのです。小さな村です。村は魔物達にすぐに囲まれてしまいました。」
「えぇ…そんな…。でもノペルは魔法が使えるしゼパードさんもいたんでしょ?」サト子はヒヤヒヤしながら聞いた。
「僕はまだ幼く、生まれつきオーラは見えましたが魔法は使えませんでした。ゼパードさんはいましたが……あの時、ある出来事がきっかけでゼパードさんは変わってしまっていました。とても強く……僕の憧れだったゼパードさんは…脱け殻のように…。」
歯を食い縛りながら話すノペルの後ろ姿はとても力が入り、怒りを感じた。
「そして、幼かった僕は奇跡的に………いや、僕は祖父のおかげで助かりました。祖父が逃がしてくれたのです。そしてその時逃げ切った僕は数年間一人で旅をし、ガムの村に戻ってみる決心がつきました。そして戻ってみると村には見知らぬ新たな村人が住み着いていました。僕は村人の一人に聞きました。昔あった村はどうなったのかと。」
サト子はゴクリとツバを飲み込んだ。
「その村人は言いました。自分たちが来た時には既に村は朽ち果て、何人もの死体があった。」
「そんな……」
「しかしその村人が言うには死体だけではなく一人の男がまだ生きていたのです。その男はたった一人で何十もの死体の墓を掘っていたと。新しく来た村人はその男を手伝い、一緒に新しい村を作って暮らそうと誘ったみたいなんですが断られたそうです。」
「それが、ゼパードさん?」
「そうです。ガムの村で唯一生き残ったゼパードさん。僕は彼を探していました。」
(まさかノペルは…ゼパードさんが村を守れなかったから、それを恨んで復讐する気なんじゃ)
「ちょっとノペル…」
「着いたみたいですよ」
ノペルの視線の先には小さな小屋があった。
「あの中にゼパードさんが…」
「ちょっと待ってください。誰かいます。」
小屋の前には一人の若者がいた。
「ゼパードさん…?いや、違う。ゼパードさんよりだいぶ若い…私達と同じくらい?」
その若者は頭にターバンを巻き、小屋の前で暇そうにアクビをしている。
「ノペル、あの人にゼパードさんが来たか聞いてみようよ。」
「ちょっと待ってください。」
ノペルが若者を凝視している。
「……あれは……人間じゃない。魔物です。」
「え?!」
サト子がニーナと目を合わすとニーナも驚いたようだ。
「あれ、どう見ても人間でしょ??」
「魔物には見た目が人間に近い種族もいるのですよ!ゼパードさんが魔物と……やはり何かありますね。」
驚いた。どう見ても人間にしか見えない。顔は悪くないがどことなく不良に憧れて悪ぶった青年に見えた。サト子の世界であればサト子の苦手なタイプだ。
「ノペル…どうするの?戦うの?」ニーナが聞いた。
「……いえ、きっと大丈夫です。」
そう言ってノペルは草影から出て小屋まで歩きだした。
「ちょっとノペル!」サト子達も付いていく。
「ん??」小屋の前の魔物がこちらに気づいた。
「すいません。そちらの小屋にゼパードと言う方はおられませんか?」ノペルが聞くと魔物は一瞬渋い顔をして答えた。
「……お前らゼパードに何か用か?あれか?金儲けの話を聞きに来たのか?」
「いえ、違います。金儲けには全く興味がありませんがゼパードさんと知り合いなんですよ。そこを通してもらえませんか?」
魔物がまた渋い顔をした。
「金儲けは興味がないか……。ほぅ。」魔物は渋い顔から少しニヤリとした。その時一瞬魔物の口からキバが見えてサト子はやはり魔物なんだと思った。
「知り合いか何か知らねぇが……ここはお前らのようなもんが来るとこじゃねぇ。帰んな。」魔物はシッシッと手で追い払う仕草をしている。
「…すいません。どうしても会いたいんですよ。ゼパードさんに。退いてもらえますか?」ノペルは食い下がらない。
「……お前ら、死にてぇのか?」魔物の目がギラリと光りサト子は一瞬ゾワッとした。
(やばい、戦いになる!)
しかし対象的にノペルはニコッとして答えた。
「いえ、死にたくありませんし死にません。僕は強いので。」
(ちょっとノペル!!煽っちゃってない!?大丈夫!?)サト子はガタガタと震えながらニーナに抱きついた。
しかしノペルのその顔を見た魔物は呆気に取られたのかキョトンとしている。そして
「くっくっ」と笑いだした。
「あぁ、そうかい。まあ行きたきゃ勝手に行けよ。オススメはしないがな。」そう言って魔物は小屋の前から離れた。
「さあ、行きましょう。」ノペルは小屋のドアを開けて入っていく。
「えぇ!?えぇ?」サト子達二人も続いた。
小屋に入ると小屋の中は中央にテーブルがあり、隅にベッドがあるだけで誰もいなかった。
「……誰もいない。」ニーナがボソッと言った。
「………いえ、ここですね。」ノペルがテーブルを退かし、床下に穴が開いているのを見つけた。人一人入れる大きさで階段が下まで続いている。
「ここから風の流れを感じました。さて、降りましょうか」
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