第18話 ニーナの過去2
「みなさんに素晴らしい報告があります。」シスターマリアが嬉しそうに言った。
「この度、グレイシアに里親が見つかりました!」そう言ってシスターマリアは拍手をした。
周りの子供達もわぁ!と盛り上がりマリアに続いて拍手をする。
もちろん私は本から目も離さないし、拍手もしない。
「みんな!今までありがとう!みんなも元気でね!」
グレイシアは輝いて見えた。まるでこれから自分は絶対幸せになるのだと確信があるようだった。
「グレイシア!私のこと忘れないでね!」
「手紙ちょうだいね!」
「ずっと友達だからねー」
子供達は次々とグレイシアに群がってグレイシアに別れの言葉を投げかけていた。
私は本当にそれを思って言っているのか?と疑問に思い、なんだか薄っぺらい。そのように感じていたのだ。
「グレイシア、新しいお父さんやお母さんはどんな人なの?」
女の子の一人が聞いた。
「んーとねぇ、お母さんはわからないけどお父さんはすごいお金持ちなんだって!」グレイシア目を輝かせていた。
「えぇー!いいなぁ!」
「羨ましい!」子供達の羨む声を聞いてグレイシアは本当に嬉しそうだった。
「グレイシア、みんなとお別れはすんだ?そろそろ行きますよ。」
シスターテレサが荷物を持ってでてきた。
「はーい!………っと」グレイシアは大きく返事をした後テレサの方へ向かう途中立ち止まった。
「そうだっ!」
なぜかグレイシアはぐるっと振り向いて私の元へやってきた。
(……何?なんなの?)
「ニーナ!あなたも頑張ってね!」
グレイシアはそう言うとまたぐるっと回ってシスターテレサの元へ行き、そのまま施設から出ていった。
私はグレイシアがどうして私に声をかけたのかわからなかった。
だけど心が寂しくなるような妙な気持ちがした。
それからしばらくたったある日。またシスターテレサに呼ばれた。
「おめでとうニーナ、あなたを引き取りたいと言う人達が来てくれたわ。」
私は驚いた。
え……なんで?
「心配しないで。とてもいい人達よ。あなたのことを一目見て気にいったらしいわね。さあ、早く準備をしてきなさい。」
私は持っていく荷物なんてほとんどなかった。
あるのは本だけ。
「やぁ、ニーナだね?これから家族になるんだ。仲良くしよう!」
施設のすぐ前には馬車が止まっていて、馬車の前には中年の男性と女性がいた。男性の方が積極的に話しかけてきた。
「ニーナ!挨拶なさい!」シスターテレサが私の肩を叩いて言った。
「……。」私は何も言わない。
「まあまあシスター。きっと緊張しているのね。大丈夫。ゆっくり仲良くなりましょう?」中年の女性の方が言った。
「……。」私は何も言わない。
「…まったくこの子は…。ごめんなさいね。ではこんな子ですがよろしくお願いします。」シスターテレサが頭を下げた。
「いえいえ。」そう中年夫婦は笑顔で返していた。
「ではニーナ、そろそろ行こうか?」
中年夫婦は馬車の中でも私に話しかけ続けていた。なにか趣味はあるのか。好きな食べ物はあるのか。苦手な食べ物はあるのか。夢はあるのか。
私には尋問にしか聞こえなかった。
やがて大きな屋敷の前に馬車が止まった。
「さあ、つきましたよ。ここが今日からニーナの家だ。どうだい?大きくて素晴らしいだろ?」
「……。」
「……まあ、とにかく部屋を見せてやろう。ニーナの部屋を作ったんだ。」
そう言って中年夫婦は屋敷の中を案内してくれた。
屋敷の中はとても綺麗だった。色々な物があり、普通の子供なら興味津々ではしゃぎ回っていただろう。中年夫婦もそんな想像を膨らましていたはずだ。
私は違ったのだ。
「さぁ、ここがニーナの部屋だ。」
部屋はとても広く、ぬいぐるみやおもちゃがそこら中にあってベッドもフワフワでとても寝心地が良さそうだった。
「ニーナを引き取ると決めた時にね、ベッドやオモチャを買い揃えたんだ。気に入ってくれたかい?」
「……。」
私は無表情のまま部屋を見た。
なんだか、落ちつかなかった。
「……そうだ!腹が減っているだろう?夕食にしよう!」
大きな部屋に案内された。そこには大きなテーブルがあり、テーブルの上には花瓶が置かれて華やかな雰囲気だった。
屋敷のメイドが料理を運んできた。私は空腹には勝てなかったので黙々と料理を口に運んだ。
その間も中年夫婦は私に何か語りかけていたが私は返事をしなかった。
「さて、今日は疲れただろう?明日また話をしようじゃないか。ゆっくりおやすみ」
私は二人からようやく解放され、一人になれた。だけど新しい部屋は落ちつかず、フワフワなベッドも初めてで中々寝付けなかった。
次の日、夫婦の奥さんの方が私に服を買ってくれた。
「あらぁやっぱりお顔が可愛いとなんでも似合うわね!とっても可愛いわ!」そう言って色々な服を私に着せてくる。私は人形のようだった。
美味しい物を食べても、綺麗な服を着ても私の心は空白のまま。
そんな日が一週間ほど続いた後、私は中年夫婦に呼ばれた。
「ニーナ、私たちは君のことを本当の子供だと思って接した。愛情を捧げてきたつもりだ。だが君はどうも私たちとは合わなかったみたいだね……残念だよ。また施設へ戻りたいかい?」
私は初めてコクりと頷いた。
この人達はいい人だった。でも私にはこの人達の理想の子供になることはできない。
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