第19話 ニーナの過去3
中年夫婦に気に入られなかった私は施設に物のように返品された。
私が自分の部屋に入ってベッドに腰掛けると部屋の外から声がした。「せっかくいいところに引き取ってもらえたのに帰ってくるなんてなんて子だよ」シスターの一人が言った。
「あの夫婦いい人達だったのにね、最後私達にあんな気味の悪い子育てられないよってさ」別のシスターの声がした。
「やっぱりあの子はどこかおかしいのかもね…そう言えば子供達があの子のことを魔物の子だと言ってたよ」
「まさかっ」
「あながち間違いじゃないかもねぇ」その後少しクスッと笑ったような声が聞こえた。
私は魔物の子なのかもしれない。
それから2、3日経った後またシスターテレサに呼ばれた。
「ニーナ、あなたにお客様ですよ。」
私にお客様?
居間に通されると椅子に座っている一人の男の人が見えた。
誰だろう?と思っているとシスターテレサが言った。
「こちらの方はね、あなたを森で見つけてこの教会までつれてきてくれた旅の方ですよ。ほら、あいさつなさい。」
この人が私をここに??
男の人は頭までフードを被って髭を生やしていた。
「……やあ、ニーナだね?……覚えてるかな?……いや、覚えてるわけないか。君はまだ赤ちゃんだったしね…。いやぁこんなに大きくなって!」
男の人は私を見て話だした。
私にはこの人の記憶はないがなんだか懐かしい感じがした。
「ニーナ、あなたもあいさつなさい。後言わないといけないことがあるでしょ?まったくこの子ったら……」
「……。」私は何も言わず男の人を見ていた。
「いや!シスター、いいんですよ!そんなことより少し話がしたいんですが……」
「あら、ごめんなさいね。ニーナ、ちゃんとお礼を言うのよ?じゃあ何かあれば呼んでくださいね。」
そう言ってシスターテレサは部屋からでていった。
「……。」
「…………。」
お互い気まずい時間が流れ、私から口を開くことにした。聞きたいことがあったのだ。
「………どうして……?」
「ん?」旅人は私を見た。
「…いや…私を見つけたとき、私はどんなでしたか?」
「え?……っと…。どういうことだい?」
「……私は。例えば魔物が来ても大丈夫なように木の上にいたとか……見えないようにしていたとか」
なんで私はこんなことを聞いているのだろう。
「えーっと……普通に…見つけたかな?」旅人は宙を見上げながら言った。
私はガッカリしたようか気持ちになった。
「そうですか。」
「あ、でも…君はタオルで大事に包まれていたよ!」旅人は焦ったような感じで言った。
大事に?大事ならば森の中に捨てていかない。
「あ、そういえば…」旅人は何かを思い出したかのように言った。
「君は先日里親が見つかったらしいね!どうして帰ってきたんだい?……あ、話したくないならいいけど。今日来たのも心配になってね。」
この人は私の何に心配しているのだろうと思った。
「……親じゃないから。」私は答えた。
「え?……まあ確かに本当の親ではないけど。君はその人達といても幸せになれないと思ったのかい?」
「……そんなんじゃない。ただ、親じゃないのに親だと思うことなんてできないし、それに…」
「それに……?」
「あの人達には私は必要ないと思ったから。……ううん。あの人達だけじゃない。誰も私を必要としてない。私の親は私を魔物のいる森に捨てたんだ。」
旅人は急に寂しそうな顔をして言った。
「ニーナ……それは違う。君の両親は君が必要じゃないから森に置いた訳じゃないと思うよ。何かそうしなければならない理由があったんじゃないかな?」
「理由??どんな理由があって子供を魔物の森に捨てるの?」
「それは……僕にはわからないけど…」
やっぱり。私は必要とされてないんじゃない。
「私は誰にも必要とされない。施設の人達だって…」
「どうしてそう思うんだい?シスターや他の子供達とはうまくやっていけてないとか?」
「……みんな私を嫌な目で見る。自分たちとは違う何か別の生き物を見るような目。」
でもこの人はなぜか優しい目をしていると思った。
「勘違いじゃないかな?それか考えすぎかも…」
「……そうかもしれないけど…。でもそう思ってしまう。」
旅人はんっーと少し考えたような表情をして言った。
「もし、そうだとしたらみんな君を誤解してるんじゃないかな?見たところ君はあまり笑ったりしないね。」
私はコクりとうなずいた。
「そうだ!じゃあこうしてみたらどうかな?君はみんなと接する時に笑顔で接してみる。そして何か相手が困ってる時に助けてあげるとか、何か手伝いをするとか……」
確かに教会で私はシスターの手伝いをしたりしたことがなかったなと思った。
笑顔は……
「……笑顔の仕方がわからない…」私は言った。
「なるほど。ニィィってやってごらん?ほら歯を見せて」
私は唇を少し動かした。
「うーん。練習が必要だね。」
「笑顔をすればどうなるの?」私は疑問をぶつけてみた。
「笑顔はね、人を安心させたり仲良くなるのに一番簡単な方法なんだよ。ムッとした顔のままより笑顔のほうが話かけやすいだろ?」
私はそうなのかな?と思った。
「まあ練習しながら試してみるといいよ!じゃあ、僕はそろそろ失礼するかな?また次会った時は笑顔を見せてくれよ」そう言って旅人はニィィと笑った。
「……また来てくれるの?……あの、名前……」
「ああ、また来るさ!名前は………ウォーカーとでも呼んでくれ!じゃあまたね。ニーナ…。」
そう言って旅人は出ていった。
あの人はなんだったんだろうと思った。
シスターや教会の子供達とは違う雰囲気。私のことを本気で心配してくれている……。
……そんな訳ないか。
だけどあの旅人と話していると不思議な気持ちになった。
あの人が言うなら笑顔や誰かの手伝いをするのもやってみてもいいかもと思えた。
そう思っていた矢先いつも絡んでくる性格の悪い男の子達がまたやって来た。
「お前里親にも捨てられたらしいじゃんか!」
私は男の子達の方を見ず本に集中しているふりをする。
「やっぱ人間じゃ魔物の子を育てることができませんってことかぁ?」
「きっとそうだな!はっはっは!」
男の子達は私を囲んで笑っていた。
…どうでもいい。笑いたければ笑えばいい。
「おいっ無視すんな!」男の子の一人が私の本を取り上げた。
「…あっ!」
「おっ!やっと喋ったな!お前、この本がそんな大事なら取り返してみろよ!」
そう言って男の子達は私の本を持って走り出した。
「返して…」私は小走りで男の子達を追う。
男の子達は仲間うちで本を投げ合って私に本を取らせないようにした。
なぜ、そんなことをするの?やめてよ。
やがて男の子達は本を持ってどこかに行ってしまった。
私は施設の中のいたるところを本がないか探した。しかしどこを探しても本は見つからなかった。
夕方頃になっても見つからず、私は途方にくれていると施設の中に男の子達が帰ってきた。
私は男の子達を見つけるとすぐさまかけよって本を返してと言った。
「本??あぁ、まだあんなの探してたのかよ?あれなら森の中の秘密基地に置いてきたぜ!」男の子達は笑いながら言った。
それを聞いた私は走り出した。
「おい、お前!秘密基地の場所わかってるのかよ!」後ろで男の子の声がしたが私は無視をした。
少し前から男の子達が森の中の大きな木の下でなにやらコソコソしていたのを知っていた私はあそこだ!と思った。
施設を出ると守衛の兵士の一人が話しかけてきた。「おい君!もうすぐ暗くなるから森へ入ってはいけないよ!」
私は「…すぐ帰るから」とボソッと言って兵士の呼び止めにも止まらず森に入った。
森の中は教会のような子供達の笑い声や走り回る音もなく、風によって木々が揺れる音がするだけだった。
私はここはなんだか落ちつくなと思った。
やっぱり魔物の子だから?いやいや。
少し歩くといつも男の子達が溜まっている大きな木の下についた。
確かこの辺りだったはずだ。
木の周りを探してみると窪みがあり、そこに色々なオモチャや木の実などが大事そうに隠されていた。
その中にボロボロに破けた本を見つけた。
所々破けているけどまだ読める。もうあの男の子達の前でこの本を読むのは止めようと思った。
ガサガサッ
………?
近くで何かの気配がしたので反射的に私は木の影に隠れた。
何……?
木の影から少し覗くと何匹かの動く者が見えた。
あれは……魔物!?
それは頭が大きく、目がギョロりとしたとても気味が悪い生き物だった。……本で見たことある。
あれはゴブリンだ!
ゴブリンは数十匹いた。キョロキョロしながら森の中を歩いている。
やばい。あんなのに見つかったらただじゃすまない。私はきっと殺されてしまう。
………殺されてしまう?
私はいつ死んでもよかったんじゃなかった?
何故私は今、震えながら木の影で見つからないように祈ってるんだろう?
……私は……本当は死にたくないの?
私はそんな考えを巡らせながら息を潜めているとゴブリン達はいつの間にかいなくなっていた。
助かった……。私はそう思った。
教会に戻るとすぐさまシスターテレサにこの事を話した。
しかしシスターテレサは「何を言ってるの?ここ最近この辺で魔物なんかでていないわ。教会の周りには王国から兵士が来てくれているから魔物なんて寄ってこないし、それに本当に魔物に会っていたらあなたは無事に帰ってきてないでしょ?あなた、嘘までつくようになったの!」そう言って信じてもらえなかった。
嘘じゃない。なぜ信じてくれないの?
次の日からなぜか私は嘘をつく子と言うレッテルを張られていた。
他のシスターからは構ってほしいからって嘘をついてみんなを怖がらせないように。と言われた。
私がいつ構ってと言ったの?
夜中の間に寝れない私は考えていた。みんな私が嘘をつく子だと誤解している。どうして?
私はウォーカーさんの話を思い出した。
『君はみんなと接する時に笑顔で接してみる。そして何か相手が困ってる時に助けてあげるとか、何か手伝いをするとか……』
……そうだ。みんな私のことを知らないからだ。みんなにわかってもらうには笑顔で接してみたり、手伝いをしてみたりしたらまた変わるんじゃかいか。
明日からそれをしてみるのもいいかもしれないと思った。
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