第10話 魔法

三人ともついてきてる……。


 ニーナと二手に別れたサト子は森の中を走っていた。

 後ろから待ちやがれ!と叫びながら人攫いの男達が三人追いかけてきている。


 (よしっ。これでニーナは安全。後は私が……)


 走っていたサト子は急に何かにつまずいて倒れた。

「いったぁー…」


どうやら木の根っこが盛りだしたところに足が引っ掛かったようだ。


「やっと追い付いたぜぇ」


 顔をあげると男達が立っていた。


「やばい……!」


「待てって!!」

 また走りだそうとしたサト子の肩を先程サト子を押さえつけていた男が掴んだ。

「逃がすかぁ……あがぁぁぁ!」

 振り向くと同時にサト子の棒が男の顔面を捉えた。

「いてぇぇぇぇ!」


 サト子はまた走りだした。

 (ハァハァ…だめだ。このままではまた捕まる。体力も限界だ………そうだ!)

「こっの……モンスター女ぁぁぁ!」


 サト子は体力が限界に感じながらも一つ手段を思い付いた。


 (やばい……早く、早く……いた!!)


 サト子は先ほどのゴブリンを見つけるとそれらの真ん中を走り抜けた。


「さあ………あんた達の相手は…こいつらよ!!」


 ゴブリンはサト子が急に現れたのに驚き、一瞬間があいた。その隙にサト子は走り抜け、ゴブリン達が思考を取り戻したときには目の前には三人の男達がいた。


「ブギィィィ!」


「やべぇ!ゴブリンだ!!なんでこんなとこに!!引き返せ!」


 ゴブリン達は一斉に男達に襲いかかった。

 ゴブリンは3匹ほどだったので男達が全員やられることはないだろうが、足止めはできた。




「ハァ……やった。うまくいった…」


 サト子はゴブリン達がいた場所からしばらく走って、回り道をしながらニーナと別れた場所に戻ることにした。





森の中を彷徨っていると座り込んでいるニーナを見つけた。

「……あ。」ニーナもサト子に気づいたようだ。


「大丈夫だった?」


「私は大丈夫。あなたの方が大変だったんじゃない?三人ともあなたの方に向かったみたいだし」


「私は大丈夫!ここを使ったのよ!」そう言ってどや顔で頭を指さした。


「……?」ニーナは首をかしげた。


「そんなことより戻りましょう!さっきの男の人が心配だし!」


「……ほっといていいんじゃない?」


「ニーナ、まだそんなことを……一応あの人のおかげで私達逃げだせれたんだし、今は人攫いも二人だけだろうから私達三人でやっつけよう!」


 そう言ってサト子が盲目の青年の方向へ歩いていくとニーナも渋々ながらついてきた。


「ねぇ、…あの人もあなたを追ってきたって言ってたけど大丈夫なの?」


確かにそこはサト子も気になるとこだった。

 自分は道を聞いただけだが、何か相手が気にさわるようなことでもしただろうか。


「……わからないけど。あの人のいい人そうだし大丈夫じゃない?」

サト子が言うと呆れた感じでニーナも答えた。

「…なにそれ。」



 しばらく歩いていると森が少し開けた場所に出た。


「あれ?……えーと…私達がいた場所ってここだったよね?」


 サト子達が見回してみると所々見覚えはあったのだが、なぜか木や草には焦げたような後があった。

「多分…ここであってると思うけど…」


「この焼け焦げた後は何……?いったい何が…あっ!」


「おや?無事でしたか?」そう言ってあの盲目の青年が草むらから出てきた。


「あなたも無事だったのね!よかったー!………でもこの辺りは何があったの?何か燃えたような後があるけど…」


「あぁ、これはですね」そう言って青年は右手の人差し指を空へ向けた。

そして、なんと人差し指の先に火がボゥッと灯されたのだ。


「えぇ!?」


「……これは……魔法?」

とニーナが言った。

「お、あなたは察しがいいですね。そうです。僕は魔法使いです。」

青年は指から火を近くの草むらに放ち、その後すぐに左手の指先からホース出るような勢いで水が出て草むらの火を消した。


「魔法は初めてですか?」青年が聞いた。


「……すごい……すごい…すごい」サト子は言葉がそれしか出なかった。初めて魔法を映画ではなく目の前で見たのだ。


「……それマジックじゃないよね?」


 ノペルは次にサト子に手のひらをかざした。

 するとフワッとなんとも心地のよい風がサト子の顔に当たった。

「マジック……?とは偽物のことですかね?僕は大道芸人ではないですよ」そう言って青年はニコリと笑った。


「信じられない。でもこの世界ならありえるか…。ニーナは見たことあるの?」


「……いえ、私も本で読んだことがあるくらい。見るのは初めて。」

そのわりに落ち着き払っとるやんけ。とサト子は思った。


「あぁ、そういえばお礼もまだだったよね。助けてくれてありがとう。後二人残ってたはずだけどあなたが追っ払ってくれたんでしょ?」


「はい。話し合いをしようと思ったのですが、物騒なことをしてきたのでつい魔法を使ってしまいました…。そしたらすぐ逃げて行ってしまいましたね。」


「へぇー、魔法使いって何かかっこいいし強いのね!いいなぁ!……あ、ところであなた名前は?私はサト子。そしてこの子がニーナ。」


「サト子さんとニーナさんですね。僕はノペルと申します。とにかく今は森を抜けましょうか。」


 そう言ってノペルは杖を地面に叩きながら歩きだした。

「あ、ノペル、大丈夫?」


「大丈夫です。ただ細い枝などが木から出っ張ってる時は教えて頂いだければ助かります。」


「…じゃあ私達が前を歩くわ。」そう言ってニーナは先頭をきった。


「すいません助かります。」ノペルはまたニコリとしてニーナについていくように歩いた。

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