第11話 オーラ

「……ねぇ。」


「え?どうしたのニーナ。お腹空いた?私も……みたらし団子が食べたいよね……あ、村についたら何か食べましょ!後お風呂…」


「…みたらし?……いえ、そうじゃなくて、あれ大丈夫なの?」

 ニーナがチラリと後ろに目配せした。

「え?何が大丈夫なの?ちゃんとついてきてるじゃない?」


 すでに森は抜けていて、見晴らしのいい平坦な道が続いている。 その道をサト子とニーナが歩き、その少し後ろには杖をつきながらゆっくり歩いているノペルがいた。


「ノペル!大丈夫?」サト子が聞くとノペルは目こそ瞑っているもののサト子の方を向いてニコニコしながら「大丈夫ですよ!遅かったですか?」と言った。


「じゃなくて……」ニーナは無表情であるもののイライラした雰囲気だった。

「彼はなぜついてくるの?目的は何?」


「……そういえば私を追ってきたって言ってたな。なんだろう?聞いてみよ!」

「あ、ちょっと…」


「ノペル!あなたの目的は何?」

サト子が単刀直入に聞いたのでニーナは少しハッとしたが、表情には出さず足を止めてノペルを見た。


「目的……ですか。」


「そう、私に用があるの?」


「用と言う程でもないのですが…森の中でも言ったように気になることがありまして…」

そう言ってノペルは一呼吸置いた。

 

 「僕には魔法が使えることはさっき言いましたよね?その延長線上で考えてもらっていいのですが、僕は小さい頃から人のオーラが見えるのです。」


「オーラ!?」サト子はこの人はまた胡散臭いことを言い出したなと思った。


「ええ。疑う気持ちはわかります。オーラと言いましたが他に気と言う言い方もありますね。人間や生き物、はたまた植物さえもすべてオーラを纏っているものでして…」


 サト子は前にミカと一緒に街の占い師の館に行った時を思い出した。

 あの時のおばさんと同じ事を言っている!!


「そうですね。簡単に言うとその人の体に纏っている気の流れや色が見えます。だから僕には目は見えなくても人の区別ができるし動きも分かる、その場に何人いるかなどその人物が息を殺していてもわかります。」


「かくれんぼしたら最強じゃん!」とサト子は言ったがノペルは何事もなかったかのように続けた。


「そして気には元のその人の人間性を表している色があるのです。その元の色から楽しいだったり、悲しい、怒りなどの感情で気の色は変化しまます。例えば……」


 ノペルは先ほどから黙って聞いているニーナの方をむいた。


「あなたは…。僕にものすごい不信感をもっていますね。警戒している。恐れ……ではない。大丈夫ですよ。僕はあなたが思っているような人間ではありません。」

 ノペルがニーナに微笑みかけたがニーナはいまだにムッとしている。


「それにあなたは元となる気は透き通った水のように純水です。ですが……。」

ノペルの表情が急に真剣になった。


「……純水の中に暗い影があります。回りは透明で透き通っているのにそこだけ黒く、深い。…過去に何かありましたね?」


 ニーナはとてつもなく冷たい表情になり、プイとそっぽを向いて歩きだした。


「おや、触れてはいけませんでしたか。すいません。」ノペルも申し訳なさそうに歩き始めた。


 サト子はニーナが心配だったが、突っ込んで聞くわけにもいかず、ニーナから話してくれるのを待とうと思った。


「あ、そういえばあなたが気が見えるのはわかったけど私達についてくる目的を聞いてない!」


 ノペルほまたサト子の方を向いて少し考えた結果こう答えた。

「まあ、とにかく女性二人旅は何かと危険ですし男手も必要でしょう?先ほどのように。なのでお供しますよ。僕は目が見えませんが魔法が使えるしお金も少しあります。村についたら何かおごりましょう。お腹が空いてるのでしょう?」


 サト子はよし、仲間にしてやろうと思った。

 

 


マカの村に着くとグラインドンの城下町とは雰囲気が全く違い、のどかで田舎に来たという感じだった。


「ここがマカの村かぁー!グラインドンに比べたら人も少ないしなんだか落ちつくね!」

 グラインドンに比べると人の華やかさもなく、露店もちらほらと出てるくらいだった。


「さ、とにかく村に着いたことですしまずは宿をとりますか?それとも食事でも……失礼ですがサト子さんは先に湯浴みをして着替えもした方がいいかもしれませんね。」

 とノペルが言った。


「……ニーナ、私臭う?」


「……少し。」ニーナはまだ機嫌が直ってないのか目をそらしながら言った。


「もう!ニーナ!気づいてたんならもっと早く言ってよ!………先に露店で何か食べながら服見にいきましょ!」

 やっぱりお腹の空腹には勝てない。


 露店を覗いて見ると饅頭のような白い丸いものがおいてあった。


「わぁ、いい匂い!これなんですか?」


「いらっしゃ………あんた人間か!?」


「人間だわ!!こっちは客なんだけど!?」


露店の店員は驚きながらも我に返り売ってるものを説明してくれた。


「これはカッペって言う食べ物だよ。小麦を練り合わせて中に山菜や肉を入れて包み込んで蒸したものだよ!」


「…肉まんに近いものかな?」


「肉まん……?それはしらないが。とにかく買うのかい?一つ15グラだよ。」


「グラ??えーっとそれっていくら?」


「いやだから15グラだよ!あんた本当に人間か?」


「まあまあ僕がだしますからサト子さんは下がっていてくださいよ。では店員さん、3つ頂けますか?」痺れをきらしたノペルがサト子を押し退けてきた。


まあ、奢ってもらえるんだ。文句は言わないけど通貨もやっぱり日本円とは違うんだなとサト子は思った。

「じゃあ3つで45グラだよ!」


「えーっと45グラと……。あれれ?」ノペルが腰に着けた布の袋の中に手を入れてなにやらガサガサしている。


 …まさか。


「あ、すいません。10グラしかないですね。ニーナさん出してもらっていいですか?」



 サト子はあまりの衝撃に言葉もでなかった。

 そしてさらにニーナの方をバッと見てみるとさらに衝撃を受けた。


「……………………………。」


 ニーナもあまりに予想外だったのかいつもの冷静で感情を表に出さない顔がどう見ても驚きを隠せないでいる。

 

 「……に、ニーナ、大丈夫?」


「ニーナさん。なぜ黙っているのですか?お金が足りないのでお願いします。」


 この男やばい!!サト子は直感的に思った。天然なのか計算なのかわからないが自分が払うと言い出したのに関わらず、明らかに年下の少女にお金を出させようとしている!いや、目が見えないので年齢がわからないのは仕方がないが……。だが、彼には気が見えているはずだ。ニーナの心境がどんなことになっているかわかっていて言っている。


「あの、ニーナさん?もしかしてニーナさんもお金がないのでしょうか?」


 サト子は改めて思った。この男やばい!


「……。」


 スッとニーナがいつもの表情に戻った。

 自分の心の中の思いを消したかのようだった。


 ニーナは店員に45グラを支払うとカッペを一つ手に取り頬張りながら歩いていった。


「ニーナさん、ありがとうございます。もつべき物は仲間ですね。」そう言ってノペルもカッペを食べながら歩いていった。


「……アイザックさん私これから大丈夫かな…」

 サト子は旅の行方を急に不安になっていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る