第9話 小鬼

サト子とニーナは東へ向かっていた。

 マカの村に行くためだ。


ニーナは黙々と歩いている。城から出て二人とも会話を一切しなかった。


 ……気まずい。


 (私が勝手に王様にお願いしようとしたことを怒ってるのかな?でも、なんで私と一緒に行くなんて…)


「ねえ、ニーナ!」

 サト子がニーナを呼び止めた。

「……。」


 前を歩いていたニーナは何も言わずピタリと足を止める。


「ねぇ、そろそろ教えてくれてもいいでしょ?なんで私と一緒に行くなんて言ったの?」


ニーナは小声でボソボソと呟いた。

「なんで私を助けてくれたの?」


 サト子はニーナがなんのことを言っていたかわからなかったが、すぐ人攫いの男達のことだと気づいた。

「あぁ、あれは…………普通じゃない?」


「普通?」ニーナが不思議そうにサト子を見た。


「目の前で人がさらわれそうになっているのに助けるのが普通でしょ?」


 ニーナはポカンとした表情になった。

「……あなたがこの世界の人じゃないって、なんとなく納得した。」

「え?なんで?」

 ニーナはまた道を歩きだした。


「あ、ちょっと!ニーナがなんで私と一緒にいくって言ったのかまだ理由聞いてない!」


 ニーナは振り返りもせずにボソッと言った。

「…あなたと私は似てると思ったから。」


「へ……?似てる?私とニーナが?何言ってんの?私モンスターに間違えられるんだけど?」


 ニーナが自分をバカにしたんだと思ったサト子は笑いながら言った。

 だがニーナは暗い顔つきでまたボソボソとこう返してきた。


「私は、魔物の子と呼ばれていた。」




それっきりニーナは黙ってしまった。


 一体、ニーナは何を言ってるんだろう?こんな見た目も人形みたいにかわいらしいのに魔物の子?私じゃあるまいし…


 と、サト子が思いながら歩いていると気づけば周りは木に囲まれ森になっていた。


「……あれ、いつの間に…。ニーナ、道大丈夫?迷ってないよね?」


「……大丈夫。」


磁石もないのに大丈夫かな?とサト子は思ったが自分よりこの世界を知ってるであろうこの少女に任せることにした。




 しばらく歩いた後、急にニーナが立ち止まった後身を屈めた。

「ニーナ?どうしたの?」


「シッ。伏せて。」


 ニーナの言うとおり体制を低くして側に寄っていった。

「ねぇ、どうしたの?歩きづら…」

「静かにっ。あれ見て。」


 ニーナが指さす方を見ると数十メートルほど先に何かいた。


「え…子供?いや……何あれ?!」


 そこにいたのは人間の子供くらいの身長だか、顔は鼻がやけに大きくギョロリとした不気味な目を持ち、身長のわりに頭も少し大きめの生き物が複数いた。


「え、な、何あれ…?人間?……じゃない?」

「……あれはゴブリン。」

「ゴブリン?」

「…力は人間の子供ほどだけど、頭がよくて武器を使い、集団で人間を襲う魔物…」


 そう言ったニーナは声も体も震えていた。


 (あんな小さいのに、そんな恐ろしい魔物なの?)


「…とにかく、見つかったらとてもやっかいなことになる。絶対見つからないようにして。」

「わかった。」


 ニーナとサト子は息を潜め、ゴブリン達がどこかに行くのを待つことにした。


 (確かにゴブリン達は棍棒や、石の斧のみたいな危なそうなものを持ってる…バレたらやばいかも。)



 しかし、しばらく待ってたがゴブリン達はそこで何をしているのか一向にどく気配はなかった。


「どうしようニーナ、あいつらあそこから動かないよ?」

「……仕方ない。隠れながら迂回してやりすごしましょう。」


 そう言ってニーナはコソコソと音をたてないように進み始めた。





「うん……ここまで来たら大丈夫…」


 しばらくコソコソと進み、無事にゴブリン達がいた場所から離れることができた。


「ふぅー、怖かったねぇー」

 サト子が言うとニーナもコクリと頷いた。


 (あんなに怯えてたけど、今は落ちついたみたいね。よかった。)

 ゴブリン達に会ったとき、明らかにニーナ

からは怯えが感じられた。

 そういえば人攫いの男達に連れ去られそうになっていた時はニーナはそこまで怯えてなかったように思える。


 (魔物が怖いのかな?)とサト子は思った。


「ニーナ、きっともう大丈夫。森を早く抜けてマカの村に急ごう!」



 その時サト子の背後でガサッと音がして、二人はびっくりして振り向いた。


「見つけたぜぇ、お二人さん。」


 あの時の人攫いだった。


「な、なんであなた達がこんなとこに!?」


人攫いの男は一人、二人と増えて五人ほどになっていた。

「…囲まれた。」ニーナが無表情でボソっと言った。


 ちょっとあんたはもっと慌てなさいよ!!


「城からこの森に入るとこまでは追ってきたんだがよ。森でお前らを見失った時はどうしようかと思ったぜ!」


(くそっ。つけられていた…)


「さてと、銀髪のガキは金持ちに売り付けるとしてお前はどうするかな?」


「アニキ、こいつ闘技場に売りましょうぜ」

 人攫いの一人が言った。


「お、名案だな!あそこは見た目なんか関係ないし、人の入れ替わりが激しいから常に人を欲しているしな!お前、行くとこがあってよかったなぁぁモンスター女!」そう言ってガハガハと人攫いは笑った。


(私の攻撃は受けられてしまうし、相手は五人もいる。どうしよう……とにかくニーナを逃がさないと…)


「ニーナ…私が突っ込むからその間に逃げて。」

 小声でニーナに言った。しかし、

「……私も戦う。」

そう言ってニーナはどこからともなく、小刀をとりだした。


「ニーナ!そんな危ない物を持ってたの!?」


「……。」


 まあモンスターがいる世界に一人で旅をしていたのなら持ってるのが普通か。とサト子は一人で納得していると後ろから衝撃があってサト子は前のめりに倒された。


「きゃあ!」

「一人捕まえたぜぃ!」

 人攫いの一人がのしかかってきた。


 (やばい、動けない……)


「へっへっへ。お前、闘技場って知ってるか?」


 サト子を押さえつけている男が言った。


「闘技場ってのは、金持ちどもの娯楽のために人間をモンスターと戦わせる場所なのさ!そこでは毎回毎回人間がモンスターに引き裂かれ、食い殺されるのを金持ちどもは笑いながら見てるってわけよ!」


 男がサト子に顔を近づけて言った。

 男の口からはなんとも言えない悪臭がした。


「まあ、てめえの場合どっちがモンスターかわからないかもなっ」


「ぐっ……この…」

 悔しかった。だが力じゃ勝てない。


「ん?いっいてぇ!!」


 急にサト子は体が自由になるのを感じた。


「てめぇ!やりやがったな!」


 サト子が起き上がってみると、ニーナが血のついた小刀を構えて立っていた。

「ニーナ!ありがとう!」


「てめぇクソガキ!許さねぇ!」男はナイフをとりだした。肩の辺りからは血がでていたが深手ではなさそうだ。

男はナイフでニーナに切りかかった。しかし小柄なニーナはササっとすべて躱してちょこまかと逃げ回っている。


 「ニーナすごい…全部躱してる…」


 「そういえばこのガキすばしっこくて捕まえるのに苦労したんだったな」アニキと呼ばれた男が言った。


「はっはっは!何てこずってんだ!」男の仲間達が笑いだした。

「こいつ!早くて全然捕まえられねぇ!!手を貸してくれ!」

 

「よし、全員でかかるぞ!さっさと縛り上げろ!!」


「やばい!ニーナ!逃げよう!」

そう言ってニーナの手を引こうとしたが先ほどサト子にのしかかってきた男とは別の男が立ちふさがった。


 (くっ…私もやるしかない!)サト子は木の棒を構えた。


 ドスンッ!!!


 その時近くで大きな何かが倒れる音がした。


(何??今の音……)


「いてて……やっぱり森に入るのは無茶がありましたか…」


 サト子とニーナ、そして人攫いの男達も声がした方を見た。


「………あ!!」

 サト子は声をあげた。そこには見たことのある青年が木にぶつかったのか、尻もちをついていた。


「……この声は…。どうもこんにちわ。また会いましたね。」


 そこにはサト子が以前道を尋ねた盲目の青年が頭を撫でながら立ち上がっていた。


「あ、こんにちわ。……じゃなくて、どうしてあなたがここにいるの?!」


「いやぁ、少し気になることがありましてね。あなたを追ってきました。しかし、森に入るまではわかったんですが……僕は目が見えないもので中々うまく進めず迷っていましたよ。ははは」


「目が見えないのにどうやって追ってきたの!?いや、それよりも今ちょっとピンチなの!今変な奴らに襲われてるの!」


「変な奴ら……はぁ。」


 能天気な人だなと思った。


「……誰?」ニーナが聞いてきた。

「んー………、道を聞いた人」としか答えれなかった。


「おい、そこの変な奴、俺達の邪魔をするのか?」


人攫いのアニキと呼ばれた男が青年に向かって言った。

「邪魔……と言うよりたまたまなこうなってしまったので、仕方ないですよね…面倒ですが。」


 どう見ても人攫い達よりは華奢でひ弱そうな青年でしかも目が見えない。

 サト子はこの人は殺されてしまう!と思った。


「だめ!あなたも逃げ……」


 言い終わらないうちにニーナがサト子の手を取って走りだした。

「ニーナ!?」

「あの人に気をとられてるうちに私達が逃げなきゃ。」

 そう言ってニーナはすごい早さでサト子の手を引っ張って走る。


「ニーナ、あの人を置いていけない!」


「あの人達が狙ってるのは私達よ。それに…私はあの人を知らないし、どうでもいい。」


「ニーナ!だめ!困ってる人を助けなきゃ!」


「今困ってるのは私達。」


「うぅ……」サト子は何も言えなかった。


「待ちやがれ!!」

 その声に振り向くと人攫いの男達が三人ほど追ってきた。どうやらアニキと呼ばれた男は青年の所に残っているみたいだ。


「追ってきた。」ニーナがボソっと呟いた。

「やばいっどうしよう………そうだ!」

サト子はニーナの手を離した。


「……?」


「ニーナ、二手にわかれましょう!ニーナはそっちに逃げて!」


 ニーナはとにかくサト子とは別の方向に逃げることにした。

しかし後ろを振り向くとサト子が理解不能な行動をしていた。


「こっちよ!!捕まえてみて!」そう言ってサト子は男達を煽りながら走っていった。


 

 


 

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