第8話 王の間

「な、なんだキサマはぁ!!怪しい奴め!」


 城の前に着いたサト子とニーナは門番の二人の兵士に剣を向けられていた。


「この……モンスターめ!!」


 いや、実際にはサト子にだけ剣が向けられていた。

「もう、いい加減にして!私は人間!」

 サト子はこの世界で自分の顔がこんなに面倒なんだと改めて思った。


「人間なわけがあるか!この……化け物め!」


「あの……城には一般人は入れないのですか?」

ニーナが兵士にボソボソと聞いていた。

「いや、君は入っていいよ。……しかしこいつはダメだ!危険すぎる!」


「もう、わかった!もう入らない!ニーナ、行こ!」

 「あなた達、待ちなさい。」

 サト子が城から離れようとすると城の上のほうから声が聞こえた。


「あ、これはスベトラニャ様!」

 兵士が敬礼をした。


「あなたは?」


「私はこの国の妃じゃ。そなたらは王に用があるんじゃな。よい。上がってまいれ」


 綺麗な人だ。と思った。

 バラのような赤いドレスを来て華やかに歩く後ろ姿を見ながらサト子とニーナはスベトラニャについていった。


やがて大きいカーテンがある広い部屋に出ると「ここで待っておれ」

と言ってスベトラニャはカーテンの奥に入っていった。


「とても綺麗で優しい人ね。」回りの兵士の目が気になりコソコソとニーナに耳打ちした。


「…王様に会ってどうするの?」

 ニーナもボソボソと言った。


「王様ならニーナの助けになるんじゃないかと思ってね!」

 サト子がそう言うとニーナはみるみる顔が赤らめてきた。


「…私、そんなの頼んでない。勝手なことしないで」


「え、でもニーナの助けになると思って…嫌だった?」


「私は……そんなつもりであなたについて来たんじゃない。」


 「でもまだ一人で旅するには……」


 その時カーテンからスベトラニャと王冠を被ったいかにもなおじさんがでてきた。


「む………!?…いや、これは失礼。これは可愛い娘さん達ではないか。」


王はカーテンの前にある豪華な椅子に腰かけた。


「……わしはこの国の王、クルスじゃ。何か用かな?」


 サト子は人生で初めて見る王という存在に緊張していたが、アイザックの意思を継がねばと勇気を振り絞った。


「あの……わたくし、サト子…と、もうしあげまして、このたびは…お天気も、晴天でして……」


「……しっかりして」横でニーナが呟いた。


 クルス王はポカンとしていて、スベトラニャはクスッと笑っていた。


ごほんっとクルス王は咳払いをした。

「そなた……もう少し落ちついて……ん?そなた…それは!!」


 そう言ってクルス王はものすごい早さでサト子の元に走り寄った。


「え?え?」

周りもサト子もビックリしているとクルス王はじーとサト子の胸元を凝視している。


 (え!?何この人?変態!?)


 そしてクルス王はサト子の胸元に勢いよく手を滑り込ました。

 

「これは……どこで手にいれた?!」


 余りにも驚きすぎて声も上げれなかったサト子はクルス王の手にあるものを見た。


「アイザックさんの…」


 それはアイザックが死に際にサト子に渡したペンダントだった。


「娘よ…こいつをどこで手に入れた?」


「それは、アイザックさんが……いえ。お世話になった人が死に際に私に渡してくれました。」


「アイザックとはどういう関係だったのか?説明せい。」


 サト子は自分が異世界から来たと言えばまた説明がややこしくなると思い簡潔に答えた。


 「アイザックさんは私が森で倒れているところを助けてもらいました。それから数週間お世話になりそして……」

サト子は一呼吸入れた。


「アイザックさんは私がいない間に魔物に殺されました。」


「アイザックが……魔物に??どんな魔物か見たのか?」


「いえ、私が小屋に着いたときにはアイザックさんは瀕死の状態で私に魔物にやられたと教えてくれました。

 そしてアイザックさんは私に魔王を倒せとそのペンダントを渡しました。」


「魔王を…?」クルス王がまた不思議そうな顔をした。


「うむ。……アイザックは数年前に我が国の騎士団長だったのだ。」


「騎士団長??」


「そうだ。簡単に言うとワシが認めたこの国一番の兵士ってとこだな。そのペンダントはその騎士団長の証と呼べる物だな。」


 やっぱりアイザックはすごい人だったんだとサト子は思った。


「そのアイザックがやられたとなると……もしかしたら強大な魔物が現れたんだろうか。」


「すいません王様。魔王と言うのはいったい…」


「あぁ、魔王と言うのはつい最近現れたと噂があるものなのだ。誰も姿は見たことないが、急に魔物が騒ぎだし、狂暴になったのは事実。魔王の存在も噂だけではないかもしれん。」


「私は魔王を見つけたいのです。そしてアイザックさんの意思を……」


「お主が魔王を??」


 真顔で聞いていたスベトラニャがまたクスッと笑った。


「本当にいるかわからないが……。もし、いるのならお主に討伐してもらおうかの。よし、お主を魔王討伐隊に任命する。」


「魔王討伐隊!?」


 なんだか話が大きくなってきた気がする……

 


「ところで王様、その魔王はどこにいるんでしょうか?」

 サト子が聞いてみた。


「うーん。あくまで存在自体定かではないのでな。……とにかく魔王の手下である魔物を倒しながら情報を集めるといいだろう。魔王の方も手下がたくさんやられたとなると出てくる可能性もあるだろうし、何より国民の安全も保たれる。」そう言って王様はフォッフォッと笑った。


「では、まず手始めに………そうだな。ここから東にマカの村がある。その近くの洞窟に狂暴な魔物が出ると言う。そいつを倒してまいれ。もし倒してこれたのなら褒美をくれてやろう。魔王を倒すのならそれくらいできないとな。」


 (何か話がどんどんすごいことになってるけど。魔物討伐か……できるかな?私女子高生なのに。てか、女子高生一人に魔物討伐任せる?確かに私が魔王を探すって言ったけど……)

 サト子が心の中で文句を言ってると、クルス王がさて、と言った。


「さて、……と、お主の意志はわかったが隣の娘は何か用かな?」

 サト子はそうだ!忘れてた!と思った。


「あ、この子は魔王討伐とは関係なくて、えーっと…」


「…私はこの人と一緒に行きます。」ニーナがボソボソと口を開いた。


「え?でもニーナは両親を探すんでしょ?王様に頼んだ方が…」


「……いえ。私はこの人と行きます。」


「……うむ。何か事情があるのかな?では用がなければもう失礼させてもらう。」

そう言ってクルス王はカーテンの奥へ入っていった。

「じゃあね」そう言ってスベトラニャも奥へ入っていった。


「ニーナ、なんであんなこと……」


「こらお前達。用がすんだのならさっさと出ていくんだな。」

 周りにいた兵士が言ってきたのでサト子とニーナは城から出ることにした。

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