第7話 少女
「わぁぁ。人がたくさん!」
サト子はグラインドンの城下町に着いた。
城は町を抜けた先にある。
この世界にもこんなに人がたくさんいるなんて知らなかった。
今まで出会ったのはアイザックと農家のおじさん、そして道を聞いた盲目の青年だった。
町には露店などが立ち並び、人々は買い物をしたり談笑をしたりして賑わっていた。
サト子の世界では見たことのあるような道具や全く見たことの無いものまであった。
なんだかワクワクするなぁ……ちょっと見ていこうかな。
サト子が色々な露店をチラホラと見ながら歩いているとどこかで叫び声が上がった。
なんだろうと思ってサト子は声が聞こえた方に向かってみると人だかりができていた。
「ジタバタするんじゃねぇ!」
野太い声と「離して…」とか細い声が聞こえた。
サト子は群衆を掻き分けると体の大きい男達数人とその男達に抱えられた銀髪の少女が見えた。
「こいつ、暴れやがって。……おい!お前らもジロジロ見るんじゃねぇ!」
そう言って男達は群衆にガンを飛ばしだした。
人々は初めこそは何だ何だと集まっていたが男達が絡み始めたためにこの場からちりはじめた。
「……ったく、ここは天下のグラインドンの城下町だぞ。世界で一番安全な町なのに…」
町の住人がボソッと言いながら離れようとしていたのでサト子は話しかけてみた。
「あの、あれはいったいなんですか?」
「ん?………ば、化け物!?……いや、悪い、人間か?それにしても………なんて臭いだ…」
サト子はムッとしながらももう一度聞いた。
「…あの、あれはなんですか?」
「ああ、知らんのか?あれは人攫いだな。あの女の子をどっかの金持ちに売るんだろう。まったく。ここは城の兵士達が大勢いてモンスターすら近寄れない場所なのに……」
「誰も…何もしないんですか?」
「ああいうのも兵士の仕事で俺達は関係ないさ。」
そう言って住人は去っていった。
住人達が退き始めると男達は「いくぞっ」と言って路地裏に入ろうとした。
「ちょ……ちょっと待ちなさいよ!」サト子は勇気を振り絞り声をかけた。
「なんだてめ…………。な、な、なんでモンスターが!!?」
もうええわ!と心の中でツッコミながらサト子は一歩一歩近づく。
「その子を…離してあげて!嫌がってるでしょ?」
少女は呆然とサト子を見ていた。
「離せだと?てめえ……人間か?こいつのなんなんだよ?」
「私は………………その子の姉よ!」
「は?」
男達は顔を見合せて大笑いした。
「だっはっはっ!てめえとこいつが姉妹?ふざなけんな!自分の顔見たことあんのか??」
(こいつ……許さん!)サト子は憤怒した。
腰に付けている紐から棒を取り、男達に向けた。
「もうあなた達許さない!もう………本当に許さない…!」
だめだ泣きそうだ!
男達はまだ笑っていた。
「はぁっはっは!傑作だぜ!なんだ?その棒切れで俺達とやろうってのかモンスター女!」
限界を通り越したサト子は棒を持って男に必殺技を繰り出した。
「必殺!脳天カチ割りぃぃ!!」
おっと、と言うと男はサト子の振った棒を片手で受け止めた。
「えぇ!?なんで…!?」
「なんで?じゃねぇ!こんなもん効くか!」
男は棒ごとサト子を投げ飛ばした。
「痛……。イモムシなら倒せたのに……こいつ強い…」
「おい、モンスター女。これ以上俺達の邪魔をするとこいつみたいにお前も売るぞ。……いや、お前は売れねぇな。」
そう言って男達は笑った。
悔しい……悔しい。私はまだまだ弱い。
「お前達なにをしている!?」
城の方から騒ぎを聞き付けた兵士がやってきた。
「まずい!逃げるぞ!……痛ぇぇ!なにしやがる!」
男が抱えていた銀髪の少女が男の腕を噛んだようだ。
男は痛みに耐えきれず、少女を離した。
「あ、こら待て!………だめだ一旦逃げるぞ!てめぇら覚えてやがれ!」
ありきたりな捨て台詞を吐いて男達は走っていった。
「おい!逃げるな!」兵士達も後を追っていった。
「…………ありがと。」
銀髪の少女が声をかけてきた。
「いや、私は何もできなかった…。それよりあなた一人で逃げれたんじゃない?」
少女は首を振り、「あなたが足止めしてくれたおかげで兵士が来て私は逃げれた。」と言った。
サト子は自分が何もできなかったのをへこんでいたが、無理に笑顔を作った。
「…それならよかった。あなた、名前は?」
改めて顔を近くで見ると銀色の綺麗な髪に、長いまつ毛、少し頬を赤らめた顔は人形のようでとても可愛らしかった。
こりゃ私と姉妹なわけがないし、襲われるわ…。
「私は……ニーナ。」
「あなたかわいすぎる。食べてやろうかしら。………あ、ごめんなさい。私はサト子。この世界の人間じゃないの。よろしく。」
「……。」ニーナは真顔でサト子を見つめたっきり何も言わなかった。
やばい引いてしまったか。
「ニーナ、あなたお父さんや、お母さんは?」
ニーナは少しうつむいたまま答えた。
「私、両親がいないの。」
サト子はしまった!と思った。
まだ幼いのに親がいないなんて……きっと何かあったんだろう。
「じゃあ、あなた一人なの。住んでる場所は?よかったら私が連れて行ってあげる!」
「私は……」ニーナはうつむきながらボソボソと小声で言った。
「私は…家はない。一人で旅をしてる……………両親を探す旅。」
長い間をあけてニーナは言った。
「旅って、ニーナあなたいくつなの?」
「15くらい。」
見た目は結構年下だと思っていたがそんなに離れてはいなかった。
「15で一人旅なんてすごい!それともこの世界では普通なのかな?……でも一人だとまたさっきみたいに襲われちゃうし……そうだ!お姉さんについてきなさい!」
そう言ってサト子はニーナの手を取った。
ここには王様がいるんだ。王様にお願いしてこの子の面倒を見てもらって、両親も探してもらおう!ついでに私も魔王の居場所を王様に聞いてみよっと。
王様なんて初めて会うなとウキウキしながらサト子はニーナと共に城へ向かうことにした。
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