第51話 恋の病
「あら? ︎︎でも、
まさかの事態を知らされた衝撃で忘れかけていたけれど、そもそもは二人が仲良くなった
そう問えば、ネフィが腰を折りながら口を開いた。
「それに関しましては、私から申し上げます」
顔を上げると、ちらりとアルに視線を向ける。それには少しの棘があった。
「無礼を承知ではっきり言わせて頂きますが、私は最初、殿下を信用しておりませんでした。例えリージュ様を守るためとはいえ、何も知らせず、五年もの間放置していたのですから。その間に
アルはネフィの言葉をじっと聞いている。その表情は真剣で、文句も言い訳もしなかった。
「旦那様にくらいは連絡を取ってもいいはずです。危険を伴うので秘密裏に行う必要はありますが、殿下にはその力があります。なのにそれをしなかった。信用しろという方が無理でしょう? それなのに、初対面のお茶会でもう自分のものだと思っていらっしゃった。リージュ様は処罰もご覚悟の上で、婚約破棄を願い出ようとお考えだったのですよ?」
ネフィの語気は強く、攻めているようにも聞こえる。けれど、私は違うのだと感じた。だって、もうそこを超えているのだもの。苦言というより、愚痴に近いものなのだろう。アルも苦笑いしているから、悪い空気はなかった。
クムト様はまるで孫を見るような目で、ネフィを眺めている。五千年も生きる賢者にとっては、だれもが愛しき子供なのかもしれない。
「そこで問題の夜伽です。私も専属として列に入れてもらい拝見していたのですが、殿下はリージュ様をとても大切に扱われました。若さに任せた独りよがりの行為ではなく、一人の男性として行動されたのです。リージュ様を気遣い、ご自分の欲だけを押し付けたりなさいませんでした。だから思ったのです。この方なら、安心してリージュ様をお任せできると」
そこまで言い切ると、頭を下げて一礼した。ネフィにまで見られていたのは恥ずかしいけれど、アルの信用を得られたのなら良しとしよう。おそらく、出産も大勢の前で行う事になるのは予想がつく。男児か女児か、本当に私の子なのか、それを証明するために。王族に名を連ねるというのは、私情をも民のために使わねばならないという事だ。
クムト様はネフィに『ありがとう』と声をかけ、改めて私を見つめる。
「だってさ。りっちゃんなら分かるよね? 二人にやましい所はないって」
そう言われて、私は頷いた。今ならば馬鹿らしくも思える。
ネフィは五歳の時からずっと傍にいてくれて、公私共に尽くしてくれた。十六で結婚した時も、私に申し訳ないと延期しようとしたくらいだ。それでは婚約者が可哀想だからと、何度も説得して挙式に至った。子供も一人いて、仕事中はお母上が面倒を見ているらしい。しばらく休むようにと言っても、首を縦に振らなかった。
そんなネフィが私を裏切るはずなんてないのに、どうして疑ってしまったのか。アルだってそう。一心に私を想ってくれている。その心を裏切ったのは私の方だった。
「ごめんなさい。私がどうかしていました。二人が裏切るなんて、ある訳もないのに疑ってしまいました。分かっているのに、胸がざわつくんです。苦しくて、切なくて……何故かしら」
頭を下げて二人に謝罪しながらも、頭の中は疑問符だらけだった。アルが女性と話していると胸が締め付けられるようで、怒りとも、悲しみとも言えない感情が込み上げてくる。時には、男性にも同じ感情を抱いてた。
首を傾げる私に、クムト様は無邪気に笑う。
「りっちゃん、それが嫉妬ってやつだよ。恋の病は医者でも直せない、ってね」
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