第39話 ︎︎獲物

 しんと静まる部屋に殿下と二人、ソファに並んで座る私は、自分でも笑えるほどに動揺していた。


 貴族の、ましてや婚約者同士の男女が密室に二人っきりでいるのは、つまりだ。ネフィがおとなしく出ていったのも、たぶん殿下の指示があったから。三日前は、殿下の止めてほしいという要請で、ネフィは部屋に留まっていた。ふと、そういえば騎士団長が来る前に到着した殿下を、驚きもせずに招き入れていたなと思い出す。


 いつの間に連絡を取りあっていたのか、少し怖い。


「リージュ、こっち見てよ」


 殿下は下ばかり見ていた私の顎を掬い、無理矢理に視線を合わせると、声を上げる間もなく唇を塞がれた。数度、ついばむように交わす口づけ。私には色事の技術なんて無いから、いつも殿下に頼ってしまっていた。年下なのに、殿下は慣れたように事を進める。


 私が嫌がっていない事を見てとったのか、殿下はゆっくりと私に乗りかかってきた。二人掛けのソファだから、ちょうど体が収まり、寝転がった状態になってしまう。殿下は更に押し倒し、どんどんと密着してくる。


 ついには馬乗りになって、私の頬を包み、口づけは更に深くなっていく。水音を立てながら何度も繰り返される口づけは、どこかいつもと違うような気がした。殿下の息遣いも切ないように聞こえて、お腹の底から何かがせり上がってきそうな感覚に囚われる。


 体の奥がじんと疼き、どうしていいか分からない。怖いという思いと、その先を知りたい気持ちが入り混じる。下腹部がそわそわと落ち着かず、押し返そうとするけれど、殿下は獰猛なほどに私をむさぼっていた。ただの口づけなのに、なんだか食べられているよう。


 それは次第に快楽へと変わっていき、秘所に湿り気を感じて足を閉じようとするけれど、間に入り込んでいる殿下の体で止められてしまった。


「で、んか……ま、って……や……あっ」


 いつもなら口づけだけで終わるのに、今日の殿下はやはりいつもと違う。するりと殿下の手が下りていくと、ドレス越しに胸を包み込んだ。


「リージュ……僕が出征前に言った事、覚えてる? ︎︎もう我慢しないって、言ったよね? 嫌われるのは嫌だったけど、君も僕を愛してくれている。なら、我慢する必要もないでしょ? いつまでも子供だと思わないでね。背だって、君を追い越した。手も、ほらこんなに大きくなったんだよ?」


 殿下の言う通り、その手は私の胸をすっぽりと覆っている。ただれているだけだけれど、触れているという状況がまた痴情をあおった。だって、まだ誰にも触れられた事のない場所だもの。メイドに香油を塗られる事はある。でも手つきが全然違う。殿下は下から掬うようにして、ドレス越しに口づけた。


 あまりの行動に私は動けず、なされるがまま。


「例え十四でも、男は機能するんだよ。大丈夫、今はまだここまで。僕一人じゃドレス脱がせられないしね。夜までに覚悟決めておいて。決めてなくても抱くけど。でも、やっぱりリージュにも求めてもらいたいもん。花は咲いたけど、たぶん、まだ僕の気持ちの方が大きい。僕はね、君が欲しくてたまらないんだ。できるなら、この離宮に閉じ込めたい。できないって分かってるから、余計に」


 寂しげにそう言うと、何故か胸の谷間に顔を埋めて、深呼吸する。


「で、殿下!? な、なにを!?」


 当たり前だけれど、初めての体験に声が上ずった。胸の谷間に男性がいるというのも、なんだか気恥ずかしい。


「リージュ、良い香り。甘い、甘い香り……美味しそう。早く食べたいな……あ、ほんとにやばい」


 そう言うのと同時に、腹部に当たっているモノが急速に硬くなり、痛いくらいに圧迫してきた。知識としては知っているソレが、今私に反応している。初めてお会いした十三歳の時もそうだったけれど、あの時とは比べようのない凶器が突きつけられていた。

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