第26話 鶴髪童顔(かくはつどうがん)
クムト様、とお呼びするべきかしら。そのお方はボサボサの白髪に、灰色の瞳を持つ青年だった。服装も
周囲の視線も無視して、クムト様は教皇に手を振りながら歩を進めた。
「ター坊、ありがとうね。お陰でここまですんなり入れたよ~。あとはボクがやっておくから、仕事に戻って。気を付けてお帰り」
その言葉に教皇は溜息を吐き出し、まるで子供を𠮟りつけるようにクムト様を
「カレムレート様、それでは皆が納得いたしませんよ。私から皆に説明いたしますから、お待ち下さい。ああ、イオハ、ご苦労様。君もこの方の事は知らされていないから、良い気持ちはしないだろうが聞いてくれ」
「聖下、これは一体どういう事なのですか!? 本日は私に全権が
吠えるイオハ様にも、教皇は冷静に対する。興奮するイオハ様に静かな声で語りかけた。
「それは君の方が分かっているのではないかね? 私が知らぬとでも?」
たったそれだけの問いに、イオハ様は青くなる。その様子から、どうやらよろしくない事をしでかしているのだと窺い知れた。
「そ、それは……何の事やら……」
言葉を濁すイオハ様に、教皇は語気を強めて言い切った。
「寄付金の横領、貴族との癒着、部下への強制
指折り数える教皇に、イオハ様は崩れ落ちた。辺りではこそこそと隠れる貴族が見える。おそらく、話しに上がった癒着の当事者だろう。動かなければ難を逃れたのに、小心者なのか片っ端から騎士に捕えられていた。イオハ様も同じように手に縄をかけれている。
それを見届けると、教皇はこちらに向かって進んできた。玉座の前に
「国王陛下、王妃陛下、ご無沙汰しております。殿下方もお変わりないご様子。王国の安泰と繁栄をお
陛下もそれを受け入れて、笑顔で対応している。
「聖下、お顔をお上げください。大司教の罪は、貴方のものではない。貴方が民のために、どれほど尽力されているのかは存じております。教会も規模が拡大していますから、目の届かぬ所も出てまいります。かくいう私も、この様ですから」
苦笑いしながらも、陛下の
そこにクムト様の茶々が入る。
「尽力してる割には太ってるよね。普通痩せない? 町の噂じゃ悪い事してるって言われてるよ~」
見世物小屋のガヤのように
「しょうがないでしょう!? 毎日毎日、来る日も来る日も机仕事ばかり! おまけに残業に次ぐ残業で運動なんてできやしません! いくら清貧に身を
お腹の肉を摘まむ教皇は哀愁が漂っていた。それを更に笑うクムト様。ついには『黙らっしゃい!』と叫び、鼻息も荒くこちらに向き直った。
「こほん……騒々しくしてしまって申し訳ございません」
そう謝辞を述べる教皇に、陛下はにこやかに微笑む。
「気にせずに。私共も、アレの性分は知っております故」
クムト様をアレ呼ばわりした陛下に、教皇も頷いていた。その様子は嫌味ではなく、仲がいいからこそのものに見える。王妃様や妹君も一緒になって笑っていた。
そのなかで唯一、殿下だけが私の前に出て警戒している。さっきは気軽い感じでクムト様の事を話していたけれど。
「殿下? どうなされました?」
私がそう問いかけると、殿下より先にクムト様が発言した。
「あーちゃん、そんなに警戒しなくても、ボクはお前さんの番に手を出したりしないよ~」
あ、あーちゃん!?
それは殿下の事、でいいのかしら。ちらと殿下の様子を窺うと、唸り声さえ上げそうなほどだ。そして吠えた。
「うるさい! お前は節操ないから信用無いんだよ! リージュに手を出してみろ……切り刻んでやる……」
恐ろしい殿下の言葉にも、クムト様はどこ吹く風と余裕な態度だ。手をひらひら振りながら、けたけたと笑っている。
「あはは、も~物騒だなぁ。いくらボクでもそれくらいの分別はあるってば」
そして視線を私に向けると、えくぼが深まった。
「初めましてだね、リージュ。ボクはカレムレート・セヴァン。一応賢者だよ。気軽にクムトって呼んでね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます