第27話 ︎︎進軍
突然振られた挨拶に、私は焦ってカーテシーで応える。緩んだ空気に油断していた。
「も、申し遅れました。フェリット伯爵家が息女、リージュでございます。お見知り置きを」
そんな私に、クムト様は気さくに返してくれる。
「そんなに
向けられるのは慈愛に満ちた微笑みなのに、何故か寂しさを感じる。どうしたのかと声をかけようとしたけれど、殿下に制されてしまった。
「リージュ、気をつけて。こいつ手が早いんだ。忘れられた事も逆手にとって、女の子食い放題。見た目だけはいいから、若い子は騙されちゃう。今、寂しそうとか思ったでしょ? ︎︎それがこいつの常套手段なんだ」
殿下は小さな体で、必死に私を隠そうとしている。その仕草はとても愛しくて、頬が緩んだ。
「殿下、心配は無用です。私には頼もしい婚約者がいるのですから。その方以外に、捕らわれるつもりはございません」
少し恥ずかしいけれど、こうして守ろうとしてくださる殿下の気持ちに少しでも報いたくて、声に想いを乗せた。
外野の
「うん、リージュの事は信じてる。信じてないのはこいつ! ︎︎だって、初めてフェティアを面通しした時にいきなり口説いたんだよ!? ︎︎まだ五歳の子供相手に! ︎︎信じられる!? ︎︎リリエッタの時もそう! ︎︎油断してたら食べられちゃう!」
リリエッタ様は下の妹君だ。まだ十歳で、フェティア様とは年子になる。それでも王族の血というのか、既に色気が備わっていた。リリエッタ様は王妃様譲りの艶やかな黒髪に紫の瞳が神秘的で、フェティア様は殿下同様、陛下によく似ている。
それでも五歳児を口説くって……。
呆れを通り越して、感心してしまう。
あれ、でも。
「先程は賢者と仰っていましたよね? ︎︎そのような方が女性にだらしがないのですか?」
疑問を口にすると、勢いのいい答えが返ってきた。
「賢者としては信用できるよ。でも男としては絶対ダメ!」
幼い殿下にこれほど言われるなんて、相当なのかしら。ちらと視線を向けると、さっきまでの憂いはどこへやら。ヘラっとした軽薄な笑みで手を振っている。
「アイン、気持ちは分かるがそこまでだ。クムト、お前が出てきたという事はこの戦、ただでは終わらないのか?」
陛下が問いかけると、クムト様の表情は一変する。それは正に賢者と呼ぶにに相応しい。
「ああ、敵はアックティカだけじゃない。あちらが傭兵を雇っているのは知っているね? ︎︎奴らはこのカイザークを奪い、足がかりとして勢力を拡大、一部を譲り受けて国を興そうとしている。宰相はその計画に乗り、資金援助をしていた。宰相は玉座に座り、アックティカ及び傭兵国家と手を組み更に東へ。目標は港を有するルーベンダークだ」
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