第8話 ︎︎花と待つ君
夕食を終えて、私はそわそわと落ち着かず、ソファに座ったり、意味もなく歩き回ったりと忙しなかった。今まで男性と夜に自室で会うだなんて、経験した事もない事態に、私の心臓は爆発しそうなほどうるさく鳴っている。
でも、それが不思議と嫌じゃない。昼間はゆっくりお話しできなかったし、聞きたい事も色々ある。何より殿下に会えるのが嬉しかった。
今日初めてお会いしたのに、何故だろう。
殿下は以前にも会っていたと仰ったけれど、お伝えしたように、私は女の子だと思っていた。男の子として対面したのは今日が初めてなのに。
たった一度。
五年も前の事を、ずっと覚えていてくださった……なんだか、とても嬉しい。
私は婚約者が『一応』いはしたけれど、恋とは程遠いものだった。何度かお茶会で会った時も、ほとんどお母様が喋っていて、私はお茶を飲んでいただけ。
もう、婚約者の顔さえ思い出せない。
それも要因なのだろうか。目をつぶれば、殿下の笑顔が浮かんでくる。柔らかく、でもどこか怖くて。
そっと唇に触れると、口付けの熱が蘇ってくる。
幼い腕のどこにそんな力があるのか、私は逃げる事もできずに、翻弄されるがままだった。けれど、乱暴だったかとういうと、そうではなくて。
知らず、ほぅっと吐息が漏れる。
もう一度、なんて思うのは、はしたない事なのかしら。この婚約を受け入れれば、あるいは……。
そう思いかけて、私は首を振った。
いけない。
これは、自分の欲の為だけに受けていい話しではないのだから。
殿下は、私を評価してくださった。でも、それは過大なものだと感じる。私の知識なんて、
私は初めての求婚に、浮ついている。気合いを入れるため、緩んだ頬を両手で叩くと、甲高い音が部屋に響く。その音に驚いたのか、ヒメリア様が振り返った。その手には茶器が握られている。せっかく殿下のご訪問に緊張していた私のために、お茶を用意してくれていたのに。
「申し訳ありません、ヒメリア様。お手を止めてしまって……」
そう言って俯く私に、ヒメリア様は微笑んだ。
「ふふ、今からそんなに緊張していては、殿下がいらっしゃった時に倒れてしまいますわ。さ、お待たせいたしました。こちらは南方から取り寄せたお茶です。良い香りでございましょう?」
私の前に置かれたカップには、薄い黄色の花が浮いている。見たこともないそれに、ついヒメリア様に不躾な視線を送ってしまった。
「珍しゅうございますよね。これは花茶と申しまして、ハーブティの一種ですわ。花を乾燥させて、お湯を
ヒメリア様に勧められて、おそるおそるカップを手に取る。口元に近付けると、爽やかな香りが鼻腔を
香りを楽しみ、口に含むと、少しの渋みと淡い甘みが丁度いい。
「……美味しい……」
思わず零すと、ヒメリア様がくすりと笑う。
「お気に召したようで、ようございました。こちらも南方のお菓子です。小麦粉を練って、油で揚げたものだとか。
その言葉と一緒に差し出された小皿には、細い棒状の生地を
まじまじと見つめる私に、ヒメリア様が教えてくれた。
「
確かに、香りは甘くて美味しそう。試しに折ってみると、パキッと良い音がする。しばらくヒメリア様と
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