第8話 アリスの試練

「アリス喜んでくれ。会社は退任、退職できた。しかも離婚も成立した。退職金も山ほど貰ったぞ。これからの人生は、楽しいぞ」

「良かったであります、中隊長殿。早くここを出られれば良いのでありますが、何度も刑務所を出たり入ったりしていたので今度は八か月、入っていないと・・」

「でも誤認逮捕だったのにどうしてアリスだけこんな目に合わなければならないのだ」

「あのオッチャンは、実は捜査員だったのであります。そんな気もしていたのでありましたが、なんども客として来ていたので自分も油断したのであります」

「そうか、いつの世も警察というものは、えげつないことを平然と行い、弱い者の罪を作ろうとするのだな・・・」

「中隊長殿、一日中立ちん坊をして、やっと巡って来たお客から一回百円をもらい、それが週に三~四回の仕事で得たもので贅沢なものでも買えるというのでありますか?一日一食のご飯を食べる為に自分を売ったとして誰に迷惑を掛けたのでありますか?しかも捕まると他人に晒され罪人として裁かれる。これも貧乏ゆえに生きるものに対しての法の差別のように思えるのであります」

「そうだね。アリスは、生まれてずっとそれで苦労してきたね・・・・明日また来るよ」


次の日もまたその次の日も中隊長は、刑務所を訪れた。

「アリス、なんだか顔色が悪いね。病気はしていない?」

「中隊長殿に敬礼。アリスは只今絶食中であります」

「どうして?」

「刑務官の一人が、自分の尻穴に指を突っ込んで来たので殴ったのであります」

「つまり絶食は、お仕置きと言う意味か?」

「そうであります」

「アリス、わたしはその刑務官を合法的に訴えることにする」

「中隊長殿、それはかなりマズいで有ります」

「どうしてだ。日本は戦争に負けて、法治国家になったのではないか」

「そうかもしれませんが、ここでは法より権力が優っているのであります」

「それはつまり受刑者は、刑務官らの奴隷と言うことではないか」

「逆を返せば、そうでありますが、何が有ってもアリスは負けないのであります」


翌日アリスは、刑期中に刑務官に暴力を振るったことで、再逮捕され、拘留期間が更に八か月伸びたのだった。

「アリス。随分と痩せたけれど、心配だな。病気になったら医者は来てくれるのか?」

「自分は、元気で有ります。中隊長が毎日来てくれるので幸せであります」


更に数か月が過ぎた頃、刑務所からアリスは病院に移送された。

所内で受刑者に暴行を加えられたからであった。

幸い怪我の方は、死に至ることなく全治三ヵ月の程度だったが、残りの刑期五ヵ月を前にして、裁判所はアリスの身上を察し、怪我が治し次第、前倒しで出所できるように図ったのだった。

そもそもの原因は、刑務官らの横暴によって引き起こされた事件であった。

理不尽さに耐えていた受刑者たちのうっぷんが爆発し、アリスは巻き込まれたのだ。

刑務所は、所内での失態をマスコミに口外しない条件を出し、アリスの出所を認めたのだった。

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