第6話 終戦後・・・
それから三年が過ぎ、海原に捨てられていた日の丸の付いた戦闘機が、アメリカ軍によって発見された。
漸く二人が戦争終結の知らせを聞いたのは、日本が敗戦国となって数年も経ってからであった。
その後、半年かけて本土に戻り、そこで二人が最初に感じたのは、食べる物を得る為に必死になっている人々のうごめきであった。
「中隊長殿、自分は、ここに残るつもりであります」
「しかしこんな東京で何ができるというのだ」
「自分は、物乞いでも何でもできますし、どうしても里に行く気持ちになれないのであります」
「わたしの実家は、建設資材の他、衣料や食品を扱っている大手だったから、今でも何かしら仕事は有るだろうし、食いものにも困らないはずだ。そこで暮らしても良いし、アリスと一緒なら、東京でも構わないが、一旦は、生き残っている身内に報告する為に里に帰らなければならない。一緒に来てくれ」
「中隊長殿と自分たちは、戦場において夫婦同様だったのでありますが、今の日本には、自分のような「おとこ女」は必要ないのであります。寧ろ故郷に帰ると中隊長は、周りから白い目で見られることがありありと分かるのであります」
「では、わたしの為に貴様は、一緒に行かないと言うのか」
「・・・中隊長殿の住所を教えてください。必ず手紙を書きます」
「分かった。そうまで言うのなら無理強いはしないが、気が変わったら私のところに来てくれ。出発は、明日のつもりだ」
「了解であります」
「逆にわたしは、貴様のところに必ず行くから、手紙を忘れず書いてくれ」
「了解であります」
「有坂上等兵に敬礼」
「中隊長殿に敬礼」
この様に二人は別れたが、有坂は一度も中隊長に手紙を出さなかったのであった。
有坂の選んだ道は、ひとりで暮らすことであった。
生まれて間もなくしての辛い経験と極貧の日々、そして永遠に続く侮蔑を味わいながらも、自らの肉体を相手に差し出す、そんな汚れた水に長い間浸かり、心の奥底まですっかり吸い込んでしまっていたからであった。
自分ではどうにもならない。
そして物乞いをしながら春をひさぐしかないと決めたのだった。
然しそれは、悲しい過去や貧困に負けないで一人で生きようとするアリスの尊い決意でもあったのだった。
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