第4話 新しい生活

二人は、暫く遠浅の海を歩き続け、やっと辿り着いた島は、緑豊かな無人島だった。

死ぬために戦っていた人間が、一旦生きるのが決まると、今度は生きる為に戦わなければならなかった。

手始めに中隊長は、かまどや小屋作りを始め、有坂上等兵は、食糧確保に出かけた。


「中隊長殿、食料の確保ができたであります」

「ちょうど腹が減ってきたところだ。で、何を確保した?」

「今朝から浅瀬をずっと東の方角へ歩いたであります。そこで多くの岩や大きな穴ボコを見つけ、そこにこれ!大鰻のような大蛇のような生き物を捕まえたであります」

「気色悪いな。毒ではないのか」

「良く分かりませんが、腹割いて、塩焼きは如何でありますか?」

「骨や中身も食うぞ。捨てるなよ。貴重だからな」

「了解であります」

「調理開始」

「調理するであります」


翌日も有坂上等兵は、食料を調達してきたのだった。

「中隊長殿、今日は、大漁でありました」

「またあの蛇みたいな奴か?」

「いいえ、この通りであります」

「お?それは、タコの足か?」

「そうであります。大ダコの足であります。今朝岩山にから落ちる急な深いところを見つけ、早速潜り、タコを捕らえましたが、敵も然るもの引っ掻くものでありまして、岩にへばりついて離れず、やっとのことで足2本切って戻ったのであります。残りの足は明日また取りに行くつもりであります」

「同じところにそのタコはいるはずがないじゃないか。ははは」


翌日もまた・・・

「中隊長殿、昨日のタコは不在でしたが、ナマコや貝を沢山獲ってきたであります」

「貴様は、漁師か!なぜそんなに獲れるのだ?」

「自分は、山や海で育った者であります。小さい頃から川や海で潜り漁をやっていたのであります」

「どうりでここに来た時から元気が良いのだな」

「近くに水があるだけで心が落ち着くのであります。それに今中隊長殿は生きておられるからであります」

「貴様は、他の若い兵士たちも慰めていたのではないか。わたしだけだと本心はつまらんのではないか」

「自分を女と思って抱いてくれた飛行兵は、飛んで行ったきり戻って来ないのであります。自分は…自分は、とても悲しいのであります。悲しくてやりきれないほどであります」

「そうか、そうか悪かったな・・やはり戦争は嫌いか?」

「戦争は嫌いであります・・」

「本当は、わたしも嫌いなのだ。とてもとても嫌いなのだ」

「良かったであります」

「なにが?」

「中隊長が、戦争嫌いで」

「本心とは、そう言うものだよ。ところで有坂。貴様の生まれから今に至るまでを教えてくれないか」

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