第3話 戦闘

翌朝未明。

薩摩芋の天ぷらをひと口食べ、酒を猪口でひとくち飲んだ。

それは、永訣の食事であった。

その後 見送る残りの兵士らと敬礼を重ね、三名の飛行士と一名の整備士は戦闘機に乗り込むと、皆は、涙を拭いながら日の丸旗を振った。

残る兵たちにとっても慰安兵アリスとの別れは辛かったのだった。

ゴーンと音を立て、三機は間もなく空に消えて行った。

 

「・・・・」

「中隊長殿、前の二機に後れを取っているようであります」

「どうも調子が悪いようだ、機首が思うように上がらない」

「油は有りますか」

「メーターは、まだ行く分には十分」

「このままでは、墜落であります」

「・・・わかっとるが、どうにもならん。せめてその前に敵に一撃を加えられれば・・」

「中隊長殿、前の二機の前方に敵機が押し寄せているのが見えるであります」

「有坂。こうなりゃ、後も先も無い。全速力で突っ込むぞ。振り落とされぬよう歯を食いしばれ」

「了解であります」

遠くの空で先の味方の二機が敵機に撃墜されたのを、有坂を後部座席に乗せた中隊長に見えた。中隊長は、有坂に檄を飛ばしたが、機首は上がらないまま、どんどん落ちて行った。

結局、敵機にも見つからず、海原に静かに着水したのであった。

「中隊長殿、お別れの時が来たようであります」

「残念だが、これからこの機は沈む。せめてサメに食われないよう、キャノピーはきつく閉じていろ」

「今までありがとうございました。中隊長殿に敬礼」

「有坂上等兵に、いや、アリスに敬礼」


二人は、互いに目を閉じ最後の時を静かに迎えることにしたが、いつになっても機が沈む気配が無く、キャノピーを開けて外を探ってみたのだった。


「中隊長殿、ここはどこでありますか?海に落ちたはずでありましたが」

「我々は、どうも生き恥を晒すことになりそうだな」

「・・・とにかく、ここを出ましょう、中隊長殿」

「・・本当にここは浅瀬なのだな」

「とても不思議なところであります」

「・・・おや?・・ずっと西の方角に小さな島が見えるぞ」

「自分にも見えるであります」

「有坂上等兵」

「はっ!」

「あの小さな島へ向かい歩行前進する。前へ進め。イチ、二・・」

「了解であります。イチ、二、イチ、二・・・」

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