第11話 エピソード⑪
トンーーーー
ビル壁面を長い脚でキックした、ベルギリウスのブラックコートがムササビの腕と足の皮膜のように優美に風をはらむ
振りかぶる二竿の長剣が追撃する
だが残念ながら、正体不明の相手の身軽さには今ひとつ及ばない
ザンッッッ
ヒラリ舞った相手はチクチクするだろうに
棟の南側真正面中央に堂々そびえている、一際大きなモミの木に素手で掴まった
きっとこのモミの木は、ワザと役目としてここに生やされた物だ
クリスマスシーズンには窓から覗く、永らくの入院中の子ども達を華やかで優しいイルミネーションで喜ばせただろう
ほんのひとときーーー
俯き落ちこみがちな寂しい心を、ひとときでも温かに和ませたに違いない
「やはりね……」
思った通り
一際、小柄な~
長身のベルギリウスとは比べるべきもない、華奢な細く小さな肉体
細く気流にハタハタと流れる美しい髪
しかし私は仕事をハンターとして完遂させねばならない
それが私の存在理由だからだ
「熱反応無し」
「生体反応無し」
「銃を作動させて下さい」
AIの戦闘モードの仕様に、再度安全装置が解除された状況下
狙う赤外線カメラの中、狙撃対象は気味悪く嫌らしくニタリ笑う
自らに白刃の刀剣攻撃を仕掛ける相手を無視し
躊躇うこと無く一直線に、長距離銃を向ける私に飛びかかってきた
私は躊躇わずトリガーを引いた
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