第10話 エピソード⑩

私はマジックタイムの魅惑的グラデーションの薄闇に黒々浮かび上がる、寂れ果てたビルを見上げる


ここは在りし日~盛況だった時代

熱意を持つ大勢の腕の良い医師が支える、病棟一棟丸ごと設備も良い理想的小児科外来の建物だった


そして長期の入院の為の病棟設備も兼ね備え、方々全国から素晴らしい評判を聞きつけて患者が集まったと聞く



今は見るかげないけれど


ーーー何かが引っかかる




と、その時だった


ブレスレットのGPS反応が激しく動き出した


猟犬ベルギリウスの仕事がいよいよ始まったのだ


「出して!」


音声の呼びかけ一発

ブレスレットの黒曜石色の画面に直ぐさまMAP立体映像を呼び出すと、果たして彼は入院病棟階段を駆け上がっていた



すわ恐ろしい勢いーーーー……!


大きなジグザグの軌道から今現在彼が戦闘、交戦中でもあると、ハッキリと伝えてきた


「間もなくねーーー……」



対ヴァンパイア対応、肩掛け式特殊銃は、酷くバッテリーを食うから再びの再チェックをした


念のため予備のカートリッジ、予備弾もイザと言う時の為に手元に置く


冬期だったら尋常で無いスピードで減り続けるから、電力は今の倍は必要だから

それだけはちょっと正直助かった



私はもう一度、解いた髪を大きく振る


「さあいらっしゃいな」


『よっこらしょっーーーと』


肩に担ぎ上げた、おもくそ重量のある銃の、AI付き赤外線カメラを覗く


人が作った人工知能は無慈悲だ

どこまでも一切の感情は無い



「熱反応無し」

「生体反応無し」

「銃を作動させて下さい」



淡々と音声無しの文字列だけが、煌々とシャープに浮かび上がる


でもーーーーー

今回ばかりは心がチクッと痛んだ




猟犬ベルギリウスを指し示す光点は、ビル最上階の下部の階層で急に進行が縦から横に大きく膨らむよう扇型に伸びる


つまり相手が階段よりフロアに逃げ込んだ事を示している



ガシャーンーーーーー



耳をつんざく強烈な鋭い音と共に、二つの影がガラス窓を突き破り空中に飛び出した


バラバラとーーー……


月明かり

弾けきったガラスの破片が、尖った水晶の欠片みたく一瞬で散らばったのが見えた


まるで闇に燦めく美しい蝶の鱗粉のようだった




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