第6話 エピソード⑥
薄闇に睥睨する不気味な怪物群ーーー
既に彼方こちらに、スプレー缶のいかがわしい落書きやらバリバリのガラス破損が目立ち始めた廃墟
病院として稼働時~
在りし日はさぞや手入れの行き届いた、病んだ心を癒やす美しい花咲き誇る庭園だったろう中庭をイカロスと共に静かに征く
今は枯れ草がボウボウ生い茂り、生者必衰の理を示すばかりの荒れ果てたザンバラの空間
「真夏じゃ無くって良かったわね」
グルルと甘えた唸り声を響かせる、横を歩くイカロスの頭部の銀の毛皮~
ふっさふさの耳の後ろを指先でかいてやると大きな両耳をピクピクさせ、更に嬉しげな甘えた唸り声を聞かせてきた
ぁあ、もうすっかり彼も冬毛だ
贅沢なフッカフカなモフモフを掌でも堪能しつつ、おとなしくピタリ中世の騎士みたく上品について来るイカロスに話しかける
ウンウン、草むらとかから虫とかの襲来が無い事は地味に尊い
ブレスレットタイプ〜手首に嵌めたベルギリウス追跡GPS
未だ穏やかな波形を、滑らかで暗い黒曜石のような液晶画面に示している
これは別行動で猟犬として狩り出す彼が、今現在穏やかなスピードでの歩行
つまりまだまだ「探索活動中」~
廃ビル建造物内での「目標物」に出会って無いということを示している
しかしーーーー
「そろそろいいかしらね?」
ヴァンパイアは、どの個体もずば抜けて人間以上の「五感」~
中でも聴覚と嗅覚~
音と臭いに敏感という特徴、れっきとした習性がある
「現場」到着を期に、私はバレッタ類を
今までギュッと、夜会巻きにしていた自分のまとめ髪頭部から外して取り除く
途端に新発売の甘いヘアケア製品の香りが、解き放たれた元々の長い髪より夕闇にタップリ濃厚に混ざり込む
更にブンッと頭を大きく振る
サラサラと魅惑的な髪の擦れる音が追加される
「これでどうかしらね?」
さぁ、美味しい人間がうろちょろする気配に優れた嗅覚を持つあなた達は我慢出来ないでしょ
果たして無視出来るかしら?
私はーーーーー
特殊銃のバッテリーをON
うぃぃぃぃぃぃ……
微かな羽虫の様な音と、ずしっとヒンヤリする重たい装備に身が引き締まる
つまりーーーーーー
私こそが「囮」
最高に、世にも美味しい撒き餌なのだ
さぁいつでもどうぞ
察したイカロスは私の斜め後ろに巨体を翻し、優雅に音も無く廻る
銀狼も戦闘態勢に入った
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