天界への強制連行②

「……コ、コホン! んん!」


 いち早く気を取り直したモリーが咳払いをして、浮き足立っていた部下たちの気を引き締めた。


 その咳払いで集中力を取り戻した部下たちを確認すると、モリーは話を再開した。


「私達は、天界政府から要請を受けてガッロル様をお迎えに上がりました。突然のことで驚かれるとは思いますが、只今より我々と共に天界へ来ていただきたく思います。それでは……」


 そう言うと、モリーは部下たちを振り返って軽く頷きかけた。それを合図に、女性職員たちが静かに立ち上がる。


 何だろう?……と思っていたら、あっと言う間に女性職員たちに周りを取り囲まれてしまった。


 !!こ、これは、『転移』の能力スキルを発動するときの構えだ!

 え? えっ!? も、問答無用で天界行きですか!? こっちの意思は関係ないの?


 こ……ここまできたら、もうシステムの穴を狙うような小細工は通用しない。なら、真っ向勝負でいくしかない! 


「ま、待って下さい! もしかして、ボクが覚醒者かもしれないからですか? 覚醒者のことはランスさんから聞きましたが、何かの間違いということもあります。まだLv.測定も覚醒者審査も何もしていませんし。あと、ボクはできるなら今まで通り転生を続けていきたいのです!」


 ボクはすがるような気持ちで、転生を続けたい気持ちを訴えた。


 彼女たちの、ボクに対する困ったような申し訳なさそうな空気が伝わって来る……が、これだけは譲れない!


 ボクは霊界政府職員に訴えかけるような視線を送ったが、向こうは困ったような表情を返してくるばかりだ……


 このまま膠着状態におちいるのかと思われたその時、ちょうどそこへ、ルーベンとリオンの様子を見に行っていたランスが帰ってきた。


 ランスは、5人の女性職員に包囲されているボクを見て、目を白黒させている。


「ラ、ランスさん、助けてください! いきなり天界に連れていかれそうなんです!」

 (ランスさんには申し訳ないけど、ここは巻き込ませてもらうよっ! だってこのままじゃあ、多勢に無勢でボクの方が不利なんだよぅ!)


 藁にもすがる思いで、ボクはランスに助けを求めた。


「えっ? ちょ、直接天界に召喚……ですか? かっ、覚醒者判定の手順では、まず、れっ、霊界で覚醒者審査をするはずでは?」


 ランスはこの突然の出来事に驚き固まっていたが、助けを求めるボクの声を聞いて、詰まりながらも、モリーに向かってボクを援護する言葉を絞り出してくれた。


「厳密にはそうですが、天界政府直々に召集がかかっていますから、間違いであったとしても大丈夫です」


 モリーの言っていることは『上が連れて来いって言ってるんだから、間違っててもいいのよ』ってことだ。


 そんないい加減な事でいいの?と思ったが、大きな権力に敵わないことも理解できる。


 このままでは本当に転生できなくなるっ、やばい、ヤバい、どうしよう!?


「ボクは転生を続けたいんですっ! ラ、ランスさん、転生手続きって出来ますよね? Lv.もマイナスじゃないし、設定も構いま「ガ、ガーラッ!」ムガッ!」


 アルに無理やり口を押さえつけられて変な声を出してしまった。


 理解が追いつかなくてランスの顔を見ると、ランスは小刻みに首を横に振り、制止するような手振りをしている。


 声には出していないが口をパクパクさせながら『ダメですよ、そんなこと言っちゃ』と言っていた。


 あ、コレ言っちゃいけないやつだった。せっかくランスが庇ってくれてたのに……


「いつも……ですか? 恐れながら、ガッロル様には転生前の記憶がおありなのですか?」

「うっ……」


 記憶があることをランス達に知られてしまってから、すっかり気が緩んでしまっていた。


 だって、過去の話とか能力スキルの話とか、気兼ねなく話せて嬉しかったんだよ……


「モリーさん、今のは聞かなかったことに……」

「申し訳ありません。しっかりと拝聴させていただきました」


 霊界政府の高官らしい凛とした態度で、間髪入れず告げられてしまった。

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