転生課パニック⑨
一段落し、静寂を取り戻した転生課。
「ガッロルさんは、今まで天界へ行こうと思ったことは無かったのですか?」
ランスが、カウンター脇にある棚からオレンジ色の冊子を取り出しなから尋ねてきた。
「考えたこともなかったです。……Lv.を上げたかったので、ずっと転生することしか考えてなかったです……」
自分で言いながら、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
どんだけオタクなんだって思われないかな?……脇目も振らず転生ばっかりしてたから、その通りなんだけど……
「なるほど、それで覚醒者について全く知らないんですね」
ランスは納得したように頷くと、先ほど棚から取り出したオレンジ色の冊子をボクに差し出した。
表紙に は『天界入国の手引き』と書かれている。
あ、そうだよね……『転生の手引き』があるんだから、その他の手引き書だってあるよね……
ちょっと考えれば分かりそうなことなのに。うあぁ、恥ずかしっ、もっと視野を広く持たないと……
「詳しくは、すべてこの冊子に書かれてるけど、簡単に説明しますね。まず、覚醒者とは、天界の
「天界政府から、スキルをいただけるんですか? すごいですね」
天界のスキル……きっと下界やボクの創作したスキルとは格が違うんだろうなぁ。
そう思うと、少しワクワクする。
「ええ、でも、与えられる能力は自分では選べないんですよ。だから、自分に合っていなかったりすることもしばしばあるんです」
それは、魔力のない者が魔力を必要とするスキルを与えられたりする、ということかな?
だとすると、それはちょっと悲しいかもしれない。
ランスの説明が一段落したところで、早速、受け取った冊子を開いてみた。
パラパラと流し読んだ限りでは、入国基準の説明から入国後の注意点までが記載されている。
(あっ、さっき言ってた天界の
目次で目についた『Lv.に対する付与能力一覧』のページを開いてみた。
下は、入国最低基準のLv.45から始まり、上はLv.69まで。
各レベルごとに3つの能力が記載されており、その中からランダムに選ばれた1つが与えらる、と記されていた。
「Lv.が上がっても、貰える能力は1つだけなんだ、……ん? Lv.が69までしか乗ってないけど、これは……」
一覧表の枠の下に 『Lv.70以上の方は、P156・覚醒者について をお読みください』と小さく記載された文字を見つけた。
「そうです。Lv.70以上の方は、覚醒者審査の対象なので管轄が変わるんです。だから、付与一覧に載っていないんです」
「あ、そうなんですね」
「ガッロルさんも、この審査を受けることになると思うけど、今のLv.って分かります?」
「うーん、ずっと昔に測った時はLv.57だったかな? サイノカ街で手に入れた簡易測定器で測った時のものだけど、 壊れちゃったからそれ以来、測ってないんです」
「それでも凄いですね。じゃあ、今は……」
「今のLv.はちょっと分からないなぁ……周回したかったから空港で測ってもらう訳にもいかなかったし……」
ランスとの会話は、特にかしこまった様子もなく、気安い感じでどんどん進む。
今まで、ボクの中でタブー扱いだったLv.絡みの話題も気兼ねなくできて、まるで霊界の友人ができたようで、つい口が軽くなってしまった。
アル以外の人と、転生や能力、Lv. について、ここまで明け透けに語り合えることがなんだか嬉しくて、普段は話さないようなことまで語ってしまう。
でも、こういうの……なんか、良いよね。
「そうなんですね、神気の発現に記憶の保持者ってところから、Lv.80近いんじゃないかと思いますよ。凄いなぁ、僕はLv.45で天界入りしたから」
そう言って、ランスは一覧表の中の1つの能力を指差した。
「ちなみに、これが僕の能力です」
Lv.45の中に記載された『状態異常無効』と書かれた能力を指差している。
「おぉ〜、凄いじゃないですか。大当たりですね」
デバフ系の魔法をすべて無効にする能力は、なかなかに優秀だと思う。
本心でそう言ったのだが、ランスは少し驚いた表情で見つめ返してきた。
「え、そんなこと言われたのは初めてですよ。ここでは、あまり活躍しない地味な能力ですし…」
ランスはそう言って若干、自虐的な笑みを浮かべた。
確かに、目に見える形で現れる能力ではないけど、さまざまな耐性
そもそも、Lv.45ランクの付与能力に記載されていること自体が信じられない。
「なに言ってるんですか! この能力の素晴らしさに気付いていないんですか? デバフ系の魔法もそうですが、毒も、麻痺も、眠りも、精神攻撃も効かないんですよ?」
それでも自信なさげなランスに、どうにかこの
「あ、それにランスさんは、ルーベンさんやリオンさんとは違って、ボクが出しているっていう神気の影響、まったく受けていないじゃないですか! だから、ほら! こうして間近にいても大丈夫な訳ですから……あっ……」
力説するあまり、思った以上に詰め寄っていたようで、ランスの顔がすぐ目の前にあった。
はっ、として慌てて距離を取ったが、何だか妙な空気になってしまった。
「す、すみません、つい……」
「い、いえ……」
少し頬を赤くして額の汗を拭うランスの姿につられて、こちらまで恥ずかしくなってしまった。
2人して頬をほんのり赤らめている……
そんな、なんとも居た堪れない空気の中……
「っ! ガーラ!! あなた……やっぱり新しい扉を!?」
両手を口元に当てて瞳を煌めかせたアルが、意味深な言葉を発した。
「い、いやいや、アル! そんなこと言うんじゃない。ランスさんに失礼だろ!」
「いいの! 隠さなくても分かってる。ンフフ〜、ガーラのそんな姿、初めて見たわ!」
アルが、照れたように両頬に手を当てて、身悶えするように体をくねらせている。
「なっ、なんて事を言うんだ!」
それに、その動きは何なんだ!? やめろ、止めるんだ!
問題発言連発のアルを捕まえようと手を伸ばすも、スルリと逃げられてしまった。
手の届かない天井付近まで飛び上がったアルは……
「そんなに必死になるなんて、よっぽどランスに嫌われたくないのね〜」
「アル! 降りてこい!」
(シーッ、静かにしろっ、変に誤解を招くような事を喋るんじゃない!)
口撃を続け……
「ウフフ、そんなに照れなくてもいいじゃない〜、そんなにお気に入りなのね〜、ガーラに初めてできた、大〜切なぁ〜……」
「こっ、コラ! 」
(だっ、黙れー。変なこと言うんじゃない、黙るんだ!)
最後に……
「
……と、オチをつけた。
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