転生課パニック⑧

 ボクにたしなめられたショックが大きかったのか、ルーベンは椅子に座ったまま頭を抱えて、この世の終わりみたいな空気を醸し出していた。


「……ルーベン管制官は、別室に隔離した方がいいみたいですね。神気に対する感受性が鋭いとこんな感じになるみたいですよ」


 ランスが顔を少し引き攣らせながら言った。


「そ……そうなんですね。なるほど、それで……」


 2人の不可解な行動は神気に当てられてのものらしい。


 ここまで見せつけられてしまっては、もう、認めるしか無い。

 ボクから……神気が出ている、ということを。


 ボクの発言に、二人が過剰なまでに反応したのも、言葉に神気が宿って言霊になった事が原因だったみたいだ。


 それなら一刻も早く二人から距離を取らなければ……


 そう考えて、ランスに二人のことをお願いしようとした矢先、たった今まで、ショックで天を仰いで啜り泣いていたはずのリオンがランスに告げた。


「じゃあ、ランス。ルーベン管制官を別室に案内してくれ」


 (えっ? リオンさんも別室に行かないと。ルーベンさんほどじゃないけど、君も神気に当てられてるよ?)


 そう言いたかったが、神気が漏れちゃうだろうから声にするわけにもいかない。


 こういう場合って、本人は大丈夫だと思っている場合が大半なんだよね。まったく自覚は無いんだろうな。


 とにかく、リオンも隔離対象であることに間違いない。


 そこで、ボクはランスにアイコンタクトを送ってみた。

 すると、ランスもボクの意図に気付いていたらしく、しっかりと頷き返してくれる。

 よかった、後はランスに任せて大丈夫そうだ。


 ホッとして、気を抜いたその時だった。

 ランスとの間を遮るように、リオンがボクの目の前に割って入ってきた。


 ボクより少しだけ背の高いリオンが、頭上からボクのことを舐めるような視線で見ている……ヒエッ!?


「後のことは任せてくれ。俺は、……ガッロル様に覚醒者についての説明をさせてもらうよ」


 そう言って、リオンが今日、何度目かの熱い視線を送ってきた……ヒエェェッ!


 (な、何だかちょっと近いんだけど!?……こ、心なしか、ジリジリ近づいて来ているような気も……?)


 得体の知れない何かを感じて、ボクは気づかれないようそっと後ろに下がった。


 なのにリオンもその差を埋めるように、スッと距離を詰めてくる。いや、何で!?


 ミリ単位の攻防を繰り広げていたら、ランスがオドオドしながらも、リオンとの間に割って入ることで立ち塞がってくれた。


 ラ、ランスさんっ! あなたは救世主だっ。


「リオンさん、あなたもかなり影響を受けてるように見えますよ?」


 リオンを刺激しないよう、ランスは柔らかな口調で注意を促した。


「なんだと!? お前、そんなこと言って俺をガッロル様から引き離すつもりだろ!?」


 ランスの言葉に過剰反応したリオンが、声を荒げてランスに詰め寄っていった。


 (おぉう! ゾワァっとした! とっ、鳥肌が!? これ、神気の影響ってだけの問題じゃないよね!? なんか、絶対おかしいよね!?)


 たとえ、影響力が強かろうが、言葉に言霊が宿っていようが躊躇ためらっている場合ではないっ!


「 リ、 リオンさん!! ルーベンさんを連れて行ってあげて下さい。それで、二人とも、一度ボクとは距離を置きましょう!」

「ぐっ、…………分かりました」


 リオンは、一瞬だけ体を硬直させて、抵抗するような素振りを見せたが、ノロノロと重い足取りでルーベンと共に別室へと消えて行った。


 行った……やっと行ってくれた……


 何だか長かったような、一瞬だったような……とにかくドッと疲れてしまった。


「は〜、終わった? すごいわねガーラ。あなたモテモテね」


 少し離れた場所で存在感を消して、事の成り行きを見守っていたアルが、やれやれといった感じでガッロルの肩に腰掛けてきた。


「アル、……酷いじゃないか。黙って見てるだけなんて」


 止めることは出来なくても、せめて近くにいて欲しかった。


「うん、……まぁ、……助けてあげられなくて少しは悪かったと思ってるのよ?……でも、あの中に飛び込んでいく勇気はなかったのよ」


「…………そうだよね」


 確かに、あのカオスな空間に自ら近寄りたくはないよね。

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