転生課パニック⑦

 過去の記憶を持っていることがバレてからは、自分の想像以上に転生課内が荒れた。


「記憶の持ち越しは今回が初めてですか!? それとも以前から!? いつ頃から覚えてますか!?」


 瞳を輝かせたランスが、頬を蒸気させて興奮気味に質問してきた。


「えぇっと、いつだったかな〜 あは、は……」


 いつからと問われれば、Lv.化政策が始まる少し前からだ。だけど、さすがに昔過ぎて変な目で見られそうだ。


 でも、嘘をつくとLv. が下がっちゃうような気がするし……


 そんな訳で、ランスの問いに歯切れの悪い返答を返した。


「その反応はもっと前から覚えてますね? ちなみに、僕の前に転生課ここにいた人のことは覚えていますか?」


 ランスが、ワクワクと期待に満ちた顔で、ジッとボクを見つめてきた。その瞳が無垢な少年のようにキラキラと輝いている。


 っ、そんな純真な瞳でっ……


 のらりくらりと質問をかわして誤魔化しているボクは、何だか凄く悪いことをしているような気分になった。


「っ、……ロセさん……ですね……」

「わあ、やっぱり覚えてたんですね! じゃあ、少なくても400年以上前から覚えてますね。なんだ〜、覚えていたんなら声くらいかけてくださいよ〜」


 ランスがお気楽で人懐っこい感じに告げてくる。


 よかった、引かれてはいないみたいだ。


「いやぁ〜、あはは」


 ランスの柔らかい雰囲気に、肩の力が抜けて自然と笑みが溢れた。ボクが少し考え過ぎていたのかもしれないなぁ。


 ホッとしたのも束の間……


「おい、ランス……貴様、さっきからガッロル様に対して何という口の聞き方だ。記憶の保持が可能なのは覚醒者として、かなり高位であるという証拠だ。それも少なくとも四百年も前からだとおっしゃっている。本来ならお目にかかることすら無いほどの高貴な存在で——」


 ドスの効いた声で話し出したルーベンは、徐々に声高に、そして饒舌に語り出した。


 高位だの高貴だのと、明らかにルーベンの言動はおかしくなってきている。

 

 それに、この手のマシンガントークは放っておくと絶対止まらない! 何しろ、アルで経験済みだ。


 話しを……話しをそらせて空気を変えないと!


「い、いえ、いえっ、ルーバンさん。そんな大袈裟な言い方はやめて下さい。あー、とっ、ところで、さっきから言っている覚醒者って、いったい何なんですか?」

「ガ、ガッロル様が……私に、私めに直々に質問をっ……」


 ルーベン管制官は、ボクの言葉を噛み締めるように、グッと胸に手を押し当てると、陶酔したような虚な表情でボクを見つめ始めた。


 えぇ! 何でっ!? ちょっと前までは、そんな感じキャラじゃ無かったよね? 最初の頃の、ちょっと威厳ある知的な姿がどこにも見当たらないよ……


「お、俺が説明します。覚醒者っていうのは……」

「リオン君! 余計な口を挟むんじゃない! ガッロル様は、この私にお聞きになったのだ!」

「いいじゃないですか! ルーベン管制官! あんたさっきから出しゃばりすぎですよ!」


 『どちらが覚醒者についての説明をするのか』の権利をめぐって、ボルテージがMAXに達した二人が、ついに激しい言い争いを始めてしまった。


 あわわっ、大変だ! いつも、地味〜に人生を送ってきたボクは、こういう争い事が嫌いなんだよ。


「いっ、いや、別に誰に説明してもらってもいいんです!  とにかく! お二人共、喧嘩はしないでください!」


 ボクは急いでルーベンとリオンの間に割って入ると、少し強めにたしなめて二人を止めた。


 ぴたり、と言い争いは収まったのだが、二人はどういう訳か、愕然という言葉がピッタリな表情をしていて……


「そ、そんな……そんな……うぅ……ぅぅぅ」


 リオンが、両手で顔を覆って天を仰ぐと、小さく啜り泣き始めてしまった!


「あああぁぁっっ!! 誠に申し訳ございませんっっ、お許しくださいぃ!!」


 ルーベンが号泣しながら、ボクの目の前で平伏ひれふして許しを乞いだした!


 (うあぁぁ! 大の大人を、しかも二人も! な、泣かせてしまった! ボクが一番悪いことしちゃったみたいじゃないかぁぁ)


「ル、ルーベンさん、そんなに思い詰めないで下さい。ボクが言い過ぎました。ゴメンなさい、ゴメンなさい!! ほら、立って、立って下さい! リオンさんも、そこまでショックを受けないで!」


 足元で平伏すルーベンを立たせながら、ボクは二人を全力で慰めた……

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