転生課パニック⑥

 カウンター上にお盆を投げって、慌ててそこから出てきた入国審査官が、さっきのルーベンように、ズザッ、とボクの前に跪いた。


 そして、ボクの顔を仰ぎ見ながら胸の前で指を組み、お祈りポーズで挨拶を始める。


「ガッロル様、ご挨拶致します! 俺は、天界入国審査官をしておりますリオンです!」


 (こ……これ、デジャブっ……)


 跪くリオンの姿に、逃避気味にそんな風に考えてみたけど、当然ながら何の解決にもならなかった。


 挨拶の口上を終えたリオンはルーベンと違い、頭を下げることなく、ボクの顔をジィーッと見つめ続けている。

 その視線が、妙に熱を孕んでいるようで……


 何だろう。ちょっと鳥肌が……


 かと言って、ボクの前に跪くリオンをこのまま放置……ってわけにもいかない。


 正直なところ近づきたくはなかったけど、ルーベン同様、その腕を取って立たせた。


「リオンさんもやめてください。ボクは、そんな事されるような者ではありません。神気も何かの間違いですよ」


 ボクは今まで通り、静かに転生を続けて行きたいだけなんだ。こんな風に跪かれたりしたら、ますます転生から遠ざかってしまうよッ。


 そんな気持ちで拒否の言葉を口にしたのだが……


「な、なんて奥ゆかしい方なんだっ!」

「これほどまでにつつしみ深いお方とは……」


 ……逆に、二人からの崇拝度が上がってしまったような気がする。


 ダメだ、今は何を言っても真面まともに聞いてくれそうにない。


「ガーラ。これ……どうしたの?」


 カウンターの奥に姿を眩ませていたアルが、いつの間にか帰ってきていた。


 ボクに熱い眼差しを向ける二人を、少し……いや、随分と離れたところから、引き気味に見ている。


  いやいや! 何で、そんなに遠巻きなの!?


「ア、アル、何とかしてーー」

「……ちゃんと……責任は取ってあげなさいね?」

「っ!? ち、違うからっ! アル、違うからっ!!」

「ああ、ガッロル様がお言葉を発していらっしゃる……」

「なんて美しい旋律なんだ!!」


 もはや収集がつかない。ボクが途方に暮れかけたその時、そんな混沌とした空間に、また一人、転移ゲートを潜ってやってくる人の気配を感じた。


 ドタバタと慌ただしく現れたのは……


「はあ、はあ、はあ、ふぅ、お、遅くなりました。……あ、ガッロルさんですね、ようこそ転生課へ」


 荒い呼吸を整えてから、人当たりの良い笑顔で挨拶をしてくれたのは、このところ転生で何度かお世話になっている……


「ああっ! ランスさんっ!! よかった! まだ、こちらにいらしたんですねっ!」


 ボクは素早くランスに走り寄ってその背後に回り込むと、その背中に隠れるような姿勢をとった。


 悪いけど、ランスにはルーベンとリオン、二人に対するボクのタンクになってもらうっ!


 そうすることでホッとしたのも束の間、ボクはこの時、ある失態を犯してしまっていた。

 それは、普段なら絶対しないような間違いで……


 思えば、この二人——ルーベンとリオン——の盲信ぶりが、かなり精神的にきていんだと思う。


 そんな時、いつも通り邪気のないランスが現れたことでホッとして、思わず口走ってしまったんだ。

 一般転生者は知らないはずのことを……


 “まだ、こちらにいらしたんですね”と。


「あ、はい、お久しぶりです……?……ってガッロルさん、僕のこと覚えてるんですか?」


「あっ、……」


 しまった、と思った時にはもう遅かった。

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