到着 ようこそ、サンズリバー空港へ②

 東館の入り口付近には、黒山の人だかりが出来ていた。


 この東館には天界入国口があるため、普段から入国希望者が絶えず訪れている。

 しかし、今日は一段と希望者が多い。入国審査口から伸びた列が、入り口付近で密集状態になっていた。


 (この人たち、全員天界入国希望者なんだ……天界は相変わらず大人気だなぁ)


 人の多さに圧倒されている間にも、入り口を埋め尽くす勢いの人の列は、さらにその距離を伸ばし続けている。


 でも、ボクの目指す転生課は、転移ゲートフロアを通り過ぎた先。廃れた通路の突き当たりにある小さな転移ゲートを潜った先にある。


 だから、この列に用はないのだ!

 ってことで、まずはここを突破しなければっ! いざ!!


 とりあえず、目の前にいた小柄な女性に声をかけた。


「すみません、少し通してもらえませんか?」

「後から来て何なのっ!?……っ、えっ……」


 うっ!? ものすごい剣幕で怒鳴られてしまった……小動物のような雰囲気とのギャップで迫力倍増だ。


 振り返りざまに飛ばされた眼光が怖すぎるっ!

 しかも、こっち睨んだまま固まってるし……


「っ、いえっ! ボクは入国審査を受けに来たのではありません。奥に用事があるんです」

「………………」


 な、なんで無言……? なんで凝視してくるの……?

 そんな真っ赤な顔で激昂げきこうしなくっても……って、うぅ、ダメだ、心が折れそうだ……


「あっ、だ……大丈夫です、もういいです。ゴメンなさい」

「あ、まっ……」


 さっきの女性が何か言いかけてたみたいだけど、ボクは素早くその場を後にした。


 (い、一時退却だ、逃げたんじゃないよ……そ、そう、これは戦略的撤退だよ……)


 心の中で言い訳しながら少し離れたところまでやって来ると、東館を振り返って、徐々に増えつつある入り口付近の人だかりを見つめながら、突破方法を考えた。


「さっきの人、ガーラのこと見惚れてたわね」


 アルが、まるで見当はずれなことを言い出した。

 どこにそんな要素があったんだろうと思う。アルも一緒に見てたから分かっただろうに。


「?? あれは、睨みを効かせてたっていうんだよ?」

「うーん。まあ、ガーラはそのままで良いかな」

「?……何が?」


 アルに、『まあ、仕方ないわよね』といった感じで苦笑いをされてしまった。


 (何だろう? この、子供扱いされたような気分は……っと、それより突破方法を考えないと……って、もういいや、スキル使っちゃえ!)


 右手を軽く振って『認識阻害』を自分にかけた。

 これで気づかれずに進んでいける。最初からそうしてればよかった……


 人混みを避けて進み始めたその時、入国審査カウンターから男の怒声が聞こえてきた。


「なっ!? そんなの知らねぇよ! っざけんな! なんで俺が『地獄』に送られんだっ!?」

「ただの低Lv. 者は『転生措置』でいいのですが、あなたのLv. はマイナスです。『天界への入国』はもちろん、一般的な『転生』もさせられません」


 職員が説明しながら合図を送ると、どこからか二人の警備員が現れて、男の両腕を素早く拘束した。


「地獄でLv. のリセットが終了しましたら、自動的に転生となりますので安心してください」

「なんでっ、死んだ後までムショ暮らししなきゃなんねーんだ! おい、コラ離せや、触んじゃねえ!」


 警備員たちは、なりふり構わず暴れる男を軽く抱えて、流れるようにその場を去っていった。


 (おぉ〜、さすが手際がいいな)


 大半が転生措置となる中、滅多にいない地獄行きが出て、その場は騒然となった。同時に、Lv.制度について情報収集する声があちこちから聞こえてくる。


 効率のよい経験値の稼ぎ方はいろいろあるけど……


 (経験値は現世でしか稼げないんだよなぁ。……まぁ、転生したらそんな知識も忘れちゃうんだけどね……)


 ボクは、騒つく入国審査カウンターから静かに離れた。


 (みんな、どうして忘れちゃうのかな……)


 どういうわけかボクは他のみんなと違って、過去の記憶や能力を引き継いだまま転生を続けている『少々規格外』な存在だった。


 でも、そのおかげで、霊界で得た知識『Lv.上げのコツ』を活用しながら、数え切れないほど転生を繰り返し、今ではさまざまな能力を身につけている。


 (厨二病の熱に浮かされて無双をしたこともあったっけ……時空が歪んで世界が亜空間に吸い込まれそうになったなぁ。……で、修復作業に一生かかって、結局Lv.は上がらなかったな……)


 この黒歴史を教訓に、世界のことわりから外れた能力は極力使わないことにしている。


 さて、ボクが転生課にこだわるのは、只々、ボクが高レベルだから、という理由だ。


 『マイナスLv.者』が転生させて貰えないのは下界に悪影響があるからだけど、『高レベルすぎて影響力が強すぎる』なんて言われて、転生を止められてしまっては困る。

 実際、黒歴史の事もあるし……


 なので、いつも詳しく調べられる前に転生課に直行している。


 この転生課、霊界政府の中でも出世街道から外れた職員たちの流れ着く部署で、いい感じにアナログで検査もゆるい!

 Lv.測定もプラスかマイナスを見るだけだし、隠れた穴場なだけに人なんか来ないからすぐ対応してもらえる。


 そんな訳で、今回も転生課へ向かっていたのだが、途中にある転移ゲートフロアの前で、ひどく慌てた様子の職員達とすれ違った。


 各方面へ散らばるように走り去る彼らに、何か引っかかるものを感じたが、大規模な機関なのでいつもどこかでトラブルは起きている。


 大したことはないだろう……と、気に留めることなく、ボクは転生課へ向かって歩き出した。

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