霊界へ 霊界航空で行くサンズリバー空港への旅②
「アル、終わったよ。出ておいで」
お椀型に丸められた手のひらの上に、心臓の鼓動のように明滅する拳大の小さな光球が現れた。
その光の中心には、小さな妖精が体を丸めて、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
光が落ち着くと同時にパチッと瞳を開き、空中へゆっくりと浮かび上がると体をほぐすように伸びをした。
「くぅ〜、おはようガーラ」
「おはよっ、アル」
(この声を聞くと、何だかホッとするなぁ)
彼女の明るい声を聞いて、寂しさで押しつぶされそうになっていた心が、フッと軽くなった。
「ん? あれ? ねえ、ガーラ、ちょっと早くない? まだ25年くらいしか経ってない気がするんだけど?」
ふとアルは、何かに気がついたように小首を傾げながら、不思議そうにボクに問いかけてきた。
「今回は、ちょっと厄介な相手に絡まれちゃって……さ……」
ボクはこの時、すっかり心が弱り切っていた。
慰めの言葉をかけて欲しくなっていたボクは、ついそんな弱音を吐いてしまった。
「えっ、ガーラやられちゃったの!? ちょっと待って!? おかしくない!?」
ボクが、伏目がちに哀愁を漂わせながら告げたその言葉。それに対する、アルの反応がちょっと怖かった。
アルが
あ、あれ? な、なんか想像してたのと違う……
ボク的には、
『えっ! そんなことがあったの!? 可哀想に……大変だったわね、ガーラ』
……なんて言葉を期待していたんだ……けど……
何だか、風向きが怪しい。
今から、特大のお説教が始まりそうな……そんな、落ち着かない気持ちになってしまった。
「手抜きしたの? まっ、まさか! わざとなの!?」
「て、手抜きでもわざとでもないよ……精一杯、頑張ったんだよ?……(あの世界の
少し後ろめたい気持ちもあったので、『ウグッ……』と声が漏れそうになるのを必死に押し留め、ボクはなんとか平静を装って答えを返した。
……その際、心の中で言い訳を呟くことも忘れない。
「ふぅ〜ん? でも、ちょっと信じられないなー? 凄い力持ってるのに……」
アルから、探るような目を向けられてしまった。
その目が、何だか心の中を覗かれているような……そんな錯覚に見舞われて、ボクはほんの少しだけアルから視線をずらした。
「もしかして……ガーラ?」
アルが腰に手を当てながら、視線を合わせるようにボクの顔を覗き込んできた。
アーモンドみたいにクリッとしたアルの
綺麗だなぁ、なんて、ちょっと逃避気味に考えていると、次の瞬間、アルは妙に迫力のある声で痛いところを突いてきた。
「まさか、命がかかった時にまで『縛りプレイ』とかしたんじゃないでしょうね?」
図星を指されて、ギクッと体が震えてしまった。
さ、さすがはボクの唯一の理解者……ボクのことをよく分かっている……
「あ、いや、だからって、その……ぜ、全力出すわけにはいかないでしょ?……Lv.が付かなくなっちゃうし……」
ボクは忙しなく目を泳がせながら、しどろもどろと言い訳をした。
だって、仕方ないじゃないか、ボクのたった一つの趣味がLv.上げなんだ。
そのLv.が付かなくなるような行動は取りたくなかったんだよ……
「やっぱり! ほんと『Lv.オタク』なんだから!! せめて、自分が危ない時くらい自重しないで
アルが小さな拳を振り回しながら怒り出した。
寂しくて……慰めてほしくて呼び出したアル。確かに寂しさは吹っ飛んでしまったけれど、もれなく耳の痛くなるお説教が付いてくるとは思わなかった……
「あ〜っと、その……
「それでもよ! 大体、ガーラはLv.にこだわりすぎな——」
「お客さま?」
「「ウヒャッ!」」
背後からの突然の声かけに、二人してビクッと身を震わせた。
振り返ると、そこには客室乗務員が営業スマイルを浮かべて佇んでいる。
ただし、目の奥は笑っていない。……こっ、怖っ!
「他の方のご迷惑になりますので、お静かにお願いします」
「あっ! す、すみません……」
そうだった……機内の人たちはまだ寝てたんだ。みんなは、ボクみたいに慣れてないから疲労困憊だろうし……
ちょっと騒ぎすぎたと反省しつつ、慌ててアルをシャツの胸ポケットへ入れた。
客室乗務員はアルを見て、一瞬、驚いたように目を見張ったかと思うと、ハッとしたようにボクの顔を見た。
その途端、客室乗務員が衝撃を受けたかのように硬直し、その動きを止めてしまった。
只事ではなさそうなその様子に、逆にボクの方が衝撃を受けた。
(ええっ!!?……ぼ、ボク、何かしちゃった!? )
慌てて自分の足元や身の回りを確かめた。だけど、特に何もない……
助けを求めて胸元のアルを見ると、アルは胸ポケットの奥へと潜ってしまい、姿が見えなくなっていた。
えぇぇぇ……そんなのズルいよ……
「え、え〜っと……あの……」
食い入るような眼差しに耐えかねたボクが話しかけた瞬間、客室乗務員は弾かれたように一礼して、足早にギャレーへと消えていった。
その、ただならぬ雰囲気に、額から冷や汗が一筋流れた。
一体……何だったの?
「……ガーラ、ごめんね?」
胸ポケットから少しだけ顔を出したアルが、囁くように謝った。
「うん、……もう、到着するまで大人しくしてようか……」
再び胸ポケットに潜り込むアルを確認すると、ボクは機窓へと目を向ける。
(早く到着しないかな……)
機窓の外には幽界の空が広がり、霊界まではもう少しかかりそうだった。
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