いきなり就職試験②

 ——少し誇らしげにLv.化政策の起源について語っていたレファスだが、急に少し困ったような表情になったかと思うと、この話の核心……ボクをこの天界へ呼び寄せた理由を話し始めた——



「……で、話を戻すけど、逃げた天界人、まだ捕まってないんだよね……もう、分かるでしょ? 君にお願いしたいのはそいつを探し出して欲しいんだ。君がいたル……トア? いや、ルアト?王国だったかな。そこから、天界人の痕跡が発見されたんだ。……あ! 危険なことはしなくていいからね。見つけたら連絡してくれればいいだけの簡単なお仕事だよ?」


 色々、ツッコミどころ満載の話ではある。だけどボクは、その中に出てきた“ルアト王国“や”探し出す”というワードに素早く反応した。


「 !! ルアト王国で人探しですかっ!? それは、転生させてもらえるってことですか!?」

「ガーラ、気にする所がズレてるわよ……」


 ボクはテーブルに『バンッ!』と激しく両手をついて、前のめりになりながら質問していた。


 その振動で、ティーカップが結構大きな音を立てて跳ねたが、そんなこと気にしてなんかいられない!

 だって、隠れるように転生の機会を窺わなくてもいいかもしれないんだから!


 アルのツッコミに関しては……完全スルーでいいだろう。


「うーん、転生とはちょっと違うけど、まあ、似たようなものかな?」


 レファスは顎に手を当て斜め上を見ると、ちょっと考えるような素振りをしてから適当な感じで答えた。


「そ、それじゃ、Lv. は、……経験値は付きますか?」


 レファスの軽い返答とは対照的に、ボクは固唾を飲むと、重要な案件であるかのような深刻なテンションで、期待を込めて聞いた。


「ん? 君のLv. は、かなり高いって聞いてるよ。今更Lv. 上げしなくてもいいんじゃない?」


 こちらの熱意とは裏腹に、さほど重要ではない事のように軽く流されてしまった。


 (ダメだ!! このままじゃいけないっ! 届けっ、ボクの熱い思い!!)


「このLv.制度が出来てから、ボクはずっと経験値を意識して稼いできました。経験値はボクにとっての唯一の趣味であり、そして生きがいなんです! この制度があったからこそ、長い転生人生を今まで頑張って来られました。そんなボクの最終目標は、Lv. MAXです。……あと少しなんです。ずっと、それだけを目標にしてきたんです!」


 思わず、就職面接の自己PRのように熱く語ってしまった。


 レファスは初め、キョトンとした顔をしていたが、話を聞いているうちに瞳をキラキラと輝かせ始めた。


「……僕、ちょっと感動しちゃったよ。こんなにも、Lv. ポイントを愛してくれているファンがいるなんて……」


 今まで軽い感じで聞いていたレファスも、ジーンとくるものがあったのか、その目を閉じて感動に浸っている。


「ガーラのは、ファンなんて軽いものじゃな——」

「アル〜、ちょっと静かにしてようか?」


 ……アルが何か言い出した。

 せっかくいい感じなのに、ここで悪い印象を与える訳にはいかない。


 アルに口を閉じるよういいながら、ボクは少し影のある笑みを向けてみた。


「ガ、ガーラが怖いっ!!」


 アルが自身の体をいだいて大袈裟に怯えて見せている……


 芝居がかった態度から、ふざけていることは間違いない。

 態度を改める気は無さそうだけど、まぁ、可愛いからいいか。


「それで、どうなんでしょう」


 ボクは、面接の場のような緊張感を漂わせながら聞いた。


「あ、うん、いいよ。仕事引き受けてくれるだけで加算対象だよ。それじゃ早速だけど、この誓約書にサインしてね? 今から話すことは絶対に他言無用だから」


 (やった! 無事に就職することができて何より…… って、あれ?)


 いつの間にか就職試験と化していたことに、なんだか釈然としない……


 なぜ、こうなってしまったのか今ひとつ分からないが、経験値を手に入れられるからまあ、いいか! と深く考えることをやめた。

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