第52話 事件の真相③
ボクが生まれるきっかけを作ってくれたことに感謝の気持ちを込めて、落ち込むレファスをハグで慰めた訳だけど、……さて、この後の話し合いって一体どうなっていくんだろう?
レファスから『天界王女誘拐事件』の話を聞いた時、ボクは生まれたばかりの赤ん坊を連れ去ったギラファスに対して怒りの感情しか持っていなかった。
しかし、ギラファスの言い分を聞いた今では、その印象は随分と変わっている。
生まれてくる赤ん坊……つまりボクの体には霊界人の魂が宿っていることを最初から分かっていたギラファスは、
だからといって、誘拐っていう極端な方法を選択をした理由はやっぱりよく分からないけどね。
ボクのハグで少しは気力を取り戻した様子のレファスは、さっと表情を引き締めると先程のギラファスの苦言 ——『我輩の反対を押し切って結婚した』—— に対して異論を唱え始めた。
「ギラファス、いくら結婚に反対だったとしても、お前のしたことは許されるものではない! それに、そこまで分かっていたのなら報告が遅れたとしても、何故そのことを説明しなかった? 婚姻後でも、ガーレリアができるまでにはそれなりに時間はあったはずだろう?」
(そうだよね?)
ボクは、レファスの最もな発言に心の中で同意した。
今回のように、きちんと説明していれば、当時の研究者なり医療チームなりが問題の解決に取り組んでいたはずだ。
それなのに、どうしてギラファスはその事実を報告しなかったのだろう?
そんなボクの疑問は、この後のレファスとギラファスとのやり取りで、すぐに解明されることになる。
眉間に薄っすらと皺を寄せて不服そうな顔をしたギラファスが、レファスの言葉に反論した。
「我輩が何度も『王妃に相応しくない』と進言したことは、レファス様が一番理解しておられるのでは?」
「そっ……それは、てっきり差別的な理由で反対していると、……それに、そんな言い方では伝わるはずがないだろう!?」
レファスはギラファスの指摘に心当たりがあったのか、つっかえながらも最もな答えを返した。
うん、聞いた限りではボクもそう思う。
だけど、ディベート能力の高いギラファスが、なぜそんな誤解されそうな言い方をしたんだろう?
ちょっと不思議に思っていると……
「反対する理由とその詳細を伝える前に、『口を
……と、ギラファスが、当時のレファスが聞く耳を持たなかったことを暴露した。
あぁ、なるほど。
レファスは、アルとの結婚を反対されたから、ギラファスの言葉をまったく受け付けなくなってしまっていたんだ。
アルも言ってたもんね。レファスは『目標を達成しない限り、人の話が耳に入らなくなっちゃう』って。
この時のレファスの『目標』はアルとの結婚。
だから、それに反対するギラファスの言うことは、一切、耳に入れなくなったってことか。
「ぐっ、……そうだが……だが、それでも事が事だ! そこは押してでも言うべきだったんじゃないのか?」
気まずそうに
「レファス様が、殺気を
「ゔっ……そんなつもり……は…………」
殺気について、
そうか、ギラファスは報告を“しなかった”んじゃなくて、“できなかった”と。
ていうか、殺気って……パパ……殺気ハ良クナイヨ……
それじゃなくても、当時のギラファスはあくまでも家臣でレファスは国王だ。
その国王から殺気を向けられたら、そりゃパワーバランス的にも口を噤むしかないでしょ……
マイナスにしかならないと思っていたギラファスの過去の行いが、話し合いを進めるうちに、そうとも言い切れなくなってきている。
『天界王女誘拐事件』の裏に、こんな事実が隠されていたなんて思いもしなかったからね……いやホント……
レファスはギラファスにすべての主張を論破され、言葉を詰まらせてしまっていたが、突然、ギラファスをキッと睨みつけると強い口調で話し出した。
「……だがっ、あれほど強引な手段に出なくても良かったはずだ。その時のショックで……妻はっ」
赤ん坊を攫われたショックで消滅してしまった妻のことを思いながら語るレファスは、湧き上がる殺気を抑えるかのように、ギュウッとその腕に力を入れた。
ぎょえぇぇっ、太ももや背中が締め上げられて、ちょっと……いや普通に痛い! ギリギリ『
だ……だけど、ここは空気を読んで黙っていよう……
レファスの言う
ボクは、ギラファスが謝罪の意を示すだろうと思っていたのだが……
「王妃様の件は
……と、その行動(誘拐)ですら、必要であったかのような言い方をした。
なにか深い理由がありそうだけど……それって一体、何だろう。
「……どういうことだ?」
レファスは訝しげな顔をギラファスに向けた。
「息子の時と違い王女様の体は王族のもの……王族の体から溢れる神気に、生まれたばかりの幼い霊界人の魂が耐えられるとお思いか?」
「……………」
ギラファスが尋ね返すと、再びレファスは沈黙してしまった。
その沈黙を肯定と捉えたギラファスが、当時の王女(ボク)の状態を解説し始めた。
「赤ん坊といえど、王族の体は一般天界人より強い神気を発している。その神気に
(へぇ、そうだったんだ)
本来なら、ピリリと緊張感が張り詰めるような場面なんだろうけど、(実際、レファスは真剣な顔をしてギラファスの話を聞いている)……ボクは逆に、観客気分でのんびりとその話を聞いていた。
まあ、自分の身に起きたこととはいえ、はっきり覚えていないし、それに所詮は過去の話。
(そういえばフィオナさんが、王族は神気の量が一般天界人とは比べ物にならないほど膨大だって言ってたっけ)
……などと、呑気に構えていたのだが、この後、ボクはギラファスの言葉に驚愕してしまう。
「まさにガーレリア様は、時限爆弾のような状態だった。仮にあのまま王妃宮で暴走していれば、王妃宮は元より宮殿……いや、天界の半分近くは消し飛んでしまっていただろう」
「ぶほぉぉっ!?」
あまりに驚きすぎて変な息が漏れてしまった……
(……んなバカな!? だって赤ん坊だよ!? そんなの無理でしょ!? 減刑交渉のためとはいえ、あんまり話を盛り過ぎると不味いんじゃないの!?)
ギラファスに向かって盛大に(心の中で)ツッコミを入れながら、レファスの様子を伺ってみた。
でもレファスは『
(え、何でそんなに真剣な……あ、)
そんな二人の様子を見ていたら、思い出してしまった。
ヴァリターが、銀河を一つ吹き飛ばしていたという事実を。
(え、じゃあ、これって大袈裟に言っているんじゃなくて、実際にあり得た話ってこと? いや、ちょっと待って?…………ボク、そんな強力な体に戻っても大丈夫なの?)
ちょっと、いや、かなり心配になって悶々とし始めた時、 ボクを連れ去るに至った経緯を全て話し終えたギラファスは……
「故に、我輩は天界に被害が及ばないよう王女様を連れ去ったのだ」
……と、最後に締め括った。ボクに新たな疑問を
(えっ? 終わり? 過去のことは分かったけど今のボクの状態は?)
ソワソワと落ち着かない気分になってしまったが、ギラファス的には良い感じに話が
減刑が認められるか否かの大事な局面の今、ここでボクが話に割り込むわけにはいかない。
結果(判決)が出るまでは……と、ボクはいろいろ聞きたい気持ちをグッと抑えて我慢することにした。
ギラファスの話を最後まで聞き終えたレファスは、少し寂しそうに話し出した。
「お前の言いたいことは
ボクを抱き上げているレファスの腕に、今度は優しく力が込められた。
レファスは今、消えてしまった(と思っている)
『大丈夫だよ、ボクの中で生きているよ!』って言ってあげられたら、どんなに喜んでくれるかな……
何とも物悲しいレファスのその様子に、アルのことを教えてあげたい気持ちが胸に押し寄せる……
だけど、不安定な体で今も眠りに就いているアル。
そのアルの『レファスを何度も悲しませたくない』という気持ちも『
こうなったら、一刻も早くアルの治療を終わらせて、レファスと対面させてあげなくては! と、ボクは密かに気合いを入れた。
……まあ、そこに関してはギラファスに頼り切りになるんだろうけどね。
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