第49話 決死の説得byガーレリア
見渡せば、周囲には
広範囲にわたって
ほんの少し前まで、ここに、ヨーロッパ風の庭園を備えた大きな洋館が立っていた、なんて、とても信じられないような惨状だ。
そのクレーター状に抉れた大地の中心で、レファスとギラファスの二人が、一触即発な空気を漂わせながら睨み合っていた。
すっかり目が据わってしまっているレファスは、ギラファスに向かって
対するギラファスは、そんなレファスを無表情に見つめ返しているだけだが、その瞳の奥には何か物言いたげな光を宿している。
二人は一定の距離を保ったまま、お互いの出方を探り合うように対峙していて……
「ス、ストップ、ストーップ! レファス様! 待って!やめて!聞いて下さい! さっきのは、ただの転移の光です! 館が壊れないよう避難させただけで、その……た、タイミング! そう、タイミングが少し悪かっただけなんです!」
ボクはというと、事態の急展開にアワアワと狼狽えながらも、なんとかレファスを止めようと、必死に声を上げていた。
何故だか……レファスの “小脇” に抱えられた状態で……
……
……いきなり修羅場になっててビックリした?
ボクもあっという間の出来事だったからビックリしているんだよ……
一体、何があったんだ? って思うよね?
そうだよね……地面は抉れているし、森は吹き飛んでいるんだから。
何があったのかというと……
館が転移してしまったあの時、館を取り囲んでいた結界壁も、館と一緒に消え去ってしまったんだ。
なので、その結界内に作り出されていた
えーっと、要するに『館や結界が消えて、元の森の姿に戻った』ってだけなんだ。
ただ……
そこに広がっていた光景が、『衝撃波で吹き飛んだ大地』と『爆風に
でも、レファスはその景色を見るや否や、ボクをサッと小脇に抱きかかえ素早くギラファスから距離を取ると、アッという間に攻撃体勢に入ってしまい……
そして、現在に至るってことなんだ。
レファスにすると、険悪な雰囲気になった直後に起きた出来事だったから『攻撃を仕掛けられた!』って、勘違いしてしまったんだと思う。
「えっと……お、驚きましたよね? こんなに荒れ果てていて。でも、これは決してギラファスが攻撃したって訳ではなくて、結界が消滅しちゃったからで……その、
「……」
「そっ、そうそう! この騒ぎで中断してしまいましたが、まだ話し合いの途中でしたね! この件についての誤解を解くためにも、是非ここは穏便に……その、平和的に……」
「……」
「あ、あの!
「……」
「ギラファスは『王者の洗礼』でボクの信者になっているから、既に危険性は無いってこと、レファス様も分かっていますよね!? なのに、どうして攻撃しようとしているんですか!?」
「……」
警戒心MAXになってしまった今のレファスには、ボクの声が届いていないようで、相変わらず仄暗い眼差しをギラファスに向けたままだ。
うぅ、困ったことになってしまった……
それにしても、どうしてギラファスはあんな余計なことを……
(ん?……あれ?)
そこまで考えて、ボクはふと違和感を感じてしまった。
自分の立場が悪くなることが分かりきっているあの状況で、相手を煽るような行動に出たギラファス。
あの
そう考えていたら、ギラファスの話し方には、ある特徴があったことを思い出した。
ギラファスは、相手の感情を刺激して、そこに生まれた心の隙を突くような……
相手から見れば、いつの間にか術中にハマっているような……
そんな、とても巧妙な話し方をしていた。
(っ!! そうか! ギラファスは、レファス様を強い言葉で惹きつけた後、何かを
おそらく、館の転移騒ぎで
ギラファスの『瞳の奥の物言いたげな光』が、そう物語っているような気がしてならない。
まあ、いずれにしても、まずはこの場を収めることから始めないと……
ということで、ボクはギラファスに変わって、レファスに『謝罪』をぶつけてみることにした。
レファスに小脇に抱えられたままなので、首だけ動かしてレファスを見上げると、早速、ボクは『謝罪』を発動した。
「レファス様、確かにギラファスは無神経な発言をしてしまいました。ギラファスの
「……」
もはやスキルと言わしめるほどに研ぎ澄まされたボクの『謝罪』……
でも、それをぶつけてみても、レファスは相変わらずその手をギラファスへ向けたままで……
代わりに、ボクの『謝罪』の言葉にピクッと体を揺らして反応したのは、他でもないギラファスの方だった。
よく見ると、少し狼狽えたようにその瞳を揺らしている。
ボクがギラファスのために頭を下げるこの行為は、どうやらギラファスにとって、かなりの衝撃を与えてしまうものだったようだ。
ボク自身、色々と感じてきたけれど、この『
(今のギラファスの心情って『ぬおぉ、我輩のせいで我が主にご迷惑がぁ!』的な感覚なんだろうなぁ……)
そうなると『謝罪』もダメか……
ギラファスが暴走しかねないから、これ以上、刺激を与えるような真似はできない。
どうすれば良いのか分からなくなったボクは、アルに助けを求めてみることにした。
(アル、アル! 起きて!! レファス様にボクの声が届かないんだ! こんな時どうすればいいのかアルなら知ってるんでしょ!?)
(……スゥ〜……スゥ〜……スゥ〜……)
結果は、やはりというか何というか……
とても穏やかな寝息が返ってきただけだった。
(うぅっ、ボクがこんなに苦労しているのにっ……はぁ、……まあ、愚痴っていても仕方ないか、何か方法を考えないと。えっと、アルならきっと、こんな風になっちゃったレファス様のことも何とかできるんだよね? でも、今は熟睡中で……それなら、今、ボクにできることといえば……)
そして……いろいろと思案した結果、ボクの中で、
ただし、これを実行するには、かなりの覚悟が必要な上に、それがレファスに通用するのか?……というと、その保証は全くない。
……だが、可能性がある限り、実行しない訳にはいかない! レファスを止めて、下界の危機を救うためだ!
ボクは覚悟を決めると大きく息を吸って、今、持てる最大限の『演技力』を総動員し……
「ねぇ!! パパッ、パパったら! そんな怖い顔してないで、こっち向いてってばっ!」
……と、ボクの中に眠る(?)女子力を目一杯にかき集め、(ボク的には) 甘えるような声を出しながら、レファスに思いっきり抱きついた。
「……っ!! ガ、ガーレリア……?」
レファスが、驚きに見開いた目をこちらに向けた。
(や、やった! 成功だ! あんなに呼びかけても反応すらしなかったのに、ここに来て、初めて気を引くことができた!)
……そう、……ボクの考えた作戦は、アルの言いそうなことや、やりそうな行動を真似する……ズバリ、『アルになりきり大作戦!!』だ!
天界の応接室で三時間もの間、アルに主導権を譲ってレファスと語らった経験が、こんなところで役に立つとは思わなかった。
ただし、この作戦には欠点がある。
それは、『3分間しか活動できない宇宙からやってきた某ヒーロー』の如く……長く続かない!……ということ。
そう、これは……
だから、
急がなければ!
ボクは上目遣いにレファスを見つめながら、わざとらしく頬を膨らますと……
「むぅ〜、パパはどうしてギラファスを攻撃しようとするの? 大丈夫だって言ってるのに……話し合ってくれるって言ったのは嘘だったの? もし、そうならボク、もうパパのこと『パパ』なんて呼ばないからっ!」
……そう言って、ちょっと子供っぽい感じで、プン!っとそっぽを向いてみせた。
「……うっ……そ、それは……」
レファスにとって、特別な思い入れのある『パパ呼び』……
それを拒否されたからか、レファスがその顔に苦悶の色を浮かべ、グラグラと体を揺らしだした。
(ちょ、ちょっと追い詰め過ぎちゃったかな?……でも早くしないと、ボクの方もそろそろ限界なんだよ)
そろそろ羞恥心の限界を迎えそうなボクは、レファスへ視線を戻すと、はにかんだ笑顔を向けながら……
「でっ、でもね? きちんと “話し合い” で解決してくれるなら、ボク、ちゃんと『パパ』って呼ぶよっ!? だから、ね? お願い!!」
……と、早口に告げた。
(もう、限界だ! これ以上は無理っ、喋れないっ! レファス様、どうかこれで
ボクは、真っ赤な顔になっていることを自覚しながらも、それでもジッとレファスのことを見つめ続けた。
「……っ、くぅぅぅ……可愛いなぁ……これが『娘のおねだり』なのか……」
レファスは、しみじみと何かを味わうようにそう呟きながら、ゆっくりその腕を下ろし、攻撃体勢を解除してくれた。
何か、耳慣れない単語が聞こえたような気がしたんだけど……ま、まあ、いいか……
(何はともあれ、攻撃体勢を解除してくれてよかった。ホッとしたよ。ついでに、ボクの方も解放してくれると嬉しいんだけど……)
そう思いながら、レファスの小脇で安堵のため息をついていたら、逆に両手でしっかりと抱え直されてしまった。
◇◆◇◆◇
——(フィオナ視点)——
私は、クレーターの端、ギラファスからは死角となっているこの場所に身を隠しながら、その一部始終を、精鋭使徒部隊と共に見つめていた。
「……フィオナ様、これは、つまり……」
部下の一人が、確認するように私に話しかけてきた。
私はそれに小さく頷きながら、部下に命令を下す。
「……速やかに、天界政府に連絡を入れろ……王女様を発見した、と……」
掠れ声になりながらも、私がハッキリそう言葉にすると、部下たちは途端に色めき立った。
「シッ! 静かにっ! まだ油断しないように!」
私は小声で、しかし、鋭く部下に注意を促し、素早くその場を引き締め直した。
天界政府に連絡をいれるよう、通信係に視線で合図を送る。
通信係は、速やかに天界政府へと連絡を入れ始めた。
通信係によってなされたその一報。
それを聞いた天界政府の職員たちが、通信機の向こうでワッと騒ぎ出す声が、ここにまで聞こえてくる。
それに触発された精鋭使徒部隊も、また、にわかに色めき立ち始めてしまった。
その様子に、私はフゥ、と諦めのため息を一つ吐く。
通信機を奪い取ると、向こうで浮かれる天界の職員に指示を飛ばした。
「お前たち、浮かれている時間はない。急いで祝賀のための準備に取りかかれ!」
——こうして、フィオナの指揮の下、天界政府は総力を上げて、王女発見を祝した大規模な祝祭の準備に取り掛かり始めた——
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