まさかの展開!?④

「それじゃ、ちょっと待っててくれるかい? すぐに帰ってくるからね」


 僕はそう言って、応接室にガッロルとアルの二人(?)を残して外へ出ると、使徒のフィオナと共に、大理石で出来た長い廊下を足早に歩き出した。


 コツコツと硬質な靴音を響かせながら考えるのは、霊界より召喚した彼……ガッロルのことだ。


 当初の計画では、ギラファスの捜索にガッロルを天使として降臨させるつもりだった。


 しかし、応接室で面会したガッロルは、僕の想像を上回る大きな力を持っていた。


 そんな逸材の彼を、ただの天使としてしまうことに躊躇ためらいを感じてしまい、ここにきて、どうするべきか悩み始めてしまった。


 結局、応接室では結論を出すことができず、二人(?)には『番号札の件で霊界政府に連絡を入れてくる』と言って、フィオナと共に部屋から出てきてしまった。


「フィオナ、君の目にはガッロル君はどう映った?」


 ガッロルたちの前で見せていた軽い雰囲気を無くすと、『真実を見抜く目』を持つフィオナに問いかけた。


「はっ、下界での影響を感じさせないほど、透明度の高い純真な魂をされていました」

「やはりそうか。強い魂の転生者はこれまでにも何人かいたが、今回ほど強くて純粋な者はいなかった……」


 (悩んでいる……と言いながら、本当は『どうするか』なんて、既に決まっていたのかもしれないな……)


 そんな風に考えながら、僕は自嘲気味に笑うと歩みを止めた。

 同時に大理石の廊下に響いていた靴音も止まる。


「フィオナ……僕は彼に『心臓』として、『あの子』に入ってもらおうと考えている」


 『心臓』と聞いたフィオナの息を呑む音が、しんと静まった大理石の廊下にかすかに響いた。


「……レファス様、本気ですか?」


 普段の彼女からは想像もつかないほどの、低い静かな声で問いかけられた。


「先の『“心臓”役』の者がそろそろ限界なんだ。だいぶ精神に影響が出始めているから、そろそろ解放してやらないといけないんだ……」


 言いながら、ボクは後ろめたさを誤魔化すようにフィオナから視線を逸らすと、窓の外にある常緑樹に目を向けた。


 そう、これは事実であり、事実では無い……

 『“心臓”役』の者に影響が出ているのは事実だが、そこまで重症なのかというと、実はそうでもない。


 だからこれは、僕の中では既に決定事項として処理されている『ガッロルの”心臓役“案件』を実行するためのただの口実だ。


 僕はやましい気持ちを押し流すように、さらに話を続けた。


「そんな訳だから、ガッロル君には、まず、『擬似体』に入ってもらおうと思っている。その体をうまく扱えるようになったら、本体の『“心臓”役』の者と交代してもらうつもりだ」


 本人のいない所でどんどん話を進めていくが、僕はこのプランを取りやめるつもりは無い。


「では、下界での捜索はどうされるのですか?」


 フィオナが至極当然の質問をした。


 彼女の疑問は最もだ。そもそも、ギラファスの手掛かりを掴む有力な人材として彼を呼び寄せたのだから、そう思われるのは当然のことだろう。


 そのうえ、この事件を解決に導くことこそが、『心臓』問題の解決にも繋がるのだから尚更なおさらだ。


「それも同時進行するつもりだ。ガッロル君には、『擬似体』に入ってもらったまま、下界に降臨してもらう。体を慣らしながらギラファスの捜索を進めてもらい、奴を発見し次第、神力キャンセラーで神力を無力化。そこへ、天界から派遣した精鋭隊でギラファスを確保。その際『あの子』を見つけ出すことができれば、……いや……」


 フィオナに今後の計画を説明しながら、ふと、口走ってしまったその甘い考えに、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


 (さすがに、それは考えが甘いか……ギラファスですら、未だに見つけ出せていないっていうのに……)


 僕は、その希望的観測を頭の片隅に追いやると、早口に自身の考えを語った。


「……とにかく、僕はこの『心臓案件』を組み込んだ上で、予定通り『ギラファスの捜索計画』を遂行するつもりだ。この方法なら事件解決後、上手くすればガッロル君の気にしていた『性別固定問題』も解決できるからね。だが、については一切の保証がないから、本人には下手に話さない方が良いと思っている」


 『事件解決後、上手くすれば』とは言ったが、『幸福な結末』を迎えるには、あまりにも時間が経ち過ぎてしまっている……


 フィオナを始め、部下たちは皆、何も言わないが、『もう、無事に解決できる保証は一切ない』ということは、自分でも分かっている。


 (その時は、ガッロル君に……いや、流石にそれはダメだ……)


 思いかけて、僕は慌ててその考えに蓋をした。


「フィオナ。そういう事だから、これは霊界に帰しておいてくれないか?」


 『天使降臨』に使うつもりだった『番号札』をフィオナに差し出しながら、ガッロルに頼まれていたことを、ふと思い出した。


 ——『そこは、不問にしてもらえないでしょうか』——


 そう言って、真っ直ぐに僕の目を見つめながら、懇願して来たガッロル……


 天界人であっても、まともに目を合わせることが困難なほど、ボクの放つ神気は強烈だというのに……

 あの子は、そのことを自覚しているのかな?


 そう思うと、やはりあの子には何かしらの期待をしてしまう。


「それと、今回の番号札の管理体制の件だが、転生課に対して一切の責任を追求しないように伝えてくれ」

「かしこまりました」


 フィオナは番号札を受け取ると、テラスへと続く扉を開けて本来の姿……フェニックスに戻り、翼を広げたかと思うと、あっという間に霊界へと飛び去った。


「さて、ガッロル君にはどう話せばいいかな……」


 一人、取り残された廊下で、開け放されたままの扉を眺めながらポツリと呟いた。







**********


この作品は完結済みではありますが、只今、一話あたりの文字数を1000〜2000文字前後になるよう、編集&修正作業をおこなっております。

話数が著しく増加することが懸念されますが、文字数は、ほぼ変化ございません。


これより後ろはまだ編集が終わっておりません。

1話あたり5000文字前後の話が続きます。ご迷惑をおかけいたします。


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