新人天使になりました①

 現在、レファス達はボクの『番号札』の件で、霊界政府と連絡を取るために席を外している。


 だから今、この広い応接室にはボクとアルの二人きり……


 なので、ちょっとくらい独り言が過ぎても大丈夫だろうってことで、ボクは気になっていたことをアルに聞いてみることにした。


「あのさ、『番号札』のことなんだけど、アルはいつの間にランスさんから受け取ってたの? そんな暇なんて無かったように見えたんだけど?」


 ランスが転生課に帰って来てからは、ボクはアルと別行動をした覚えはない。


 それに転生データだって、前回の物を参考にしたとはいえ、作成にはそれなりに時間がかかるはずだし……


 ……と、辻褄が合わず、スッキリしなかった気持ちを解消したかったからだ。


「あ、ランスのことが気になっちゃう? うふふ、心配しなくても抜け駆けなんかしないわよ〜」


 アルがイタズラめいた笑顔を浮かべながら、揶揄からかうように告げてくる。


 まったく……アルはすぐ、方面に話を持っていきたがるから、話がなかなか進まないよ。


 ボクのランスに対する気持ちは友人としてのもので、決して恋愛感情じゃないってことぐらい、一心同体状態の今ならアルにだって分かるだろうに……


「そんなんじゃ無いってば。分かってて揶揄からかってるんだろ?……もう、いいよ、そんなに重要なことじゃ無いし……」


 結局、転生はしないからデータは削除されるんだ。いつ入力したのかなんて誰も気にしないだろうし……


 そんなことを思いながら、素っ気ない口調でそう言うと、アルは慌ててボクの機嫌をとるように、『番号札』についての説明を始めた。


「あっ、拗ねないで? 機嫌直して? あの番号札はランスから受け取った物じゃあないの! あれを作ってくれたのはぁ、え〜っと……ほら、最初に窓口にいたあの職員よ!」


 アルが、「誰だっけ? 顔は分かるんだけどぉ〜」……と言いながら、頬に人差し指を添えて小首を傾けた。


 ……そんな可愛いポーズを、この体で再現しないでほしい……


「リオンさんが手続きしてくれたの? まあ、あの人も入国窓口にいるから手続きくらいはできるか」


 そういえば、アルがカウンターの向こうに飛んで行った時があったっけ。あの時に番号札の作成を頼んだのか……なるほど。


 なんとなく謎だった部分が分かってスッキリした。


 ……と、思っていたら、突然アルが、モゴモゴと口ごもりながら、言いにくそうに話し出した。


「えっと、あのね?……今さらなんだけど……あのデータ、……女の子の設定だったの……」

「ええっ!? あのデータって女子設定だったの!?」


 この話は終わったつもりでいた所に、アルから思いもよらなかった懺悔ざんげを聞かされた。


 もちろん、女子が悪いわけではない……


 だけど、この騙し討ちのような状況に、ちょっとモヤモヤしたものを感じてしまう。


 もしあの時、ボクが誘惑に負けて転生用の転移ゲートを通過していたら……と思うと、なんとも複雑な気分になった。


 そんな訳で、二の句が継げなくなって黙り込んでしまったのだが、それをアルは、『ボクが怒ってしまった』と思ったみたいで、焦った様子で謝罪の言葉を口にし始めた。


「ゴメンなさいっ!……そのっ、あの時はいい考えだと思ったのっ!……女の子になっても、次は私が表に出て、ガーラが眠っていればいいんじゃないかと思って……」


 そう言うと、アルは、シュンと落ち込んでしまった。


 そんな寂しそうな様子のアルに、これ以上、責めるような言葉はかけられない。

 今更ながら、アルが『ずっと男の子ばかりで嫌だった』と言っていた言葉が思い出されて、ボクの胸に突き刺さった。


 (アルは、そこまで女の子として転生したかったのか……知らなかった。なのに、ボクはこんなにも長い間、アルに我慢させて……)


「ぁ、あー、いやその、こっちもゴメン。その……アルはボクの我儘に、長い間付き合ってくれていたのに……まぁ、でも、これからはずっと、その……お、お、……女の子でいられるわけだし……だから、今までのことは許して欲しいかな?……で、“その時”はボクがアルに頼ることになると思うから……さ」


 まあ、“その時”はアルの提案通りに眠っていたいんだけど、残念ながら今のように二人同時に覚醒した状態になるだろうな。

 あくまでも、アルは分身体で、本体を超えられないからね。


「!!っ、ガーラっ、ありがとう! 大好き〜!!」


 ボクは、歓喜の声を上げたアルにギュッと抱き締められた。


 だけど……


「うん、……いや、……えっと、……何なんだろ、コレ……」


 (コレ……、客観的に見ると、自分で自分を抱きしめてるよね?)


 左肩と右脇腹に回された自分の腕に、何だかナルシストっぽくて滑稽こっけいだな……と思ったことはアルには秘密にしておこう。


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