第6話 無色な日々にはもう戻れない

「そういえば、色見君の家ってどの辺でしたっけ?駅側でしたっけ?」


 校庭の端を通って、校門を出ると朝日に聞かれる。


「そうだな、なんというか駅のすぐそこが家だな。」


 俺の家は駅の裏側にある集合住宅である。


 夜は電車の音が聞こえてくるが、昼間とかだと生活音が打ち消すのかあまり気にならず、俺にとっては非常に好立地と気に言える。

 学校も徒歩圏内であるため、ギリギリまで睡眠をとることもできるのは素晴らしい。

 寝すぎで、遅刻ギリギリになるのが傷ではあるが。


「あ、そうなんですか!?それじゃ私、電車で来てるので駅まで一緒ですね」


 やはりこちらに笑顔を向けてくる。反対に俺は、少しだけ億劫な気持ちになった。


 帰り道ずっとそこまで仲良くない人と歩くのは少ししんどいのだ。

 考え出すと余計に家までが遠く感じ、適当な話題を出す。


「そういえば、朝日さんって茉白さんと知り合いだったんだな。同じクラスの俺ですら関わりがないから驚いた」

「まぁ、私も体育で何回かペアだったくらいですよ。捉えどこらはないかもしれないけど、真面目でいい子でしたよ!」


 だからどうしてそうも言い切れるのかと、朝日の人の良さを疑ってしまうが、今日のところは俺にも悪い子のようには見えなかった。

 ・・・それに、入学式の日だって。


 すると朝日は急に一段と声を張り上げて言う。

「あ!そういえば川霧さんは中等部の頃から知ってますよ!ただ、まぁ噂ですけど、人間関係でトラブルがあってからは周囲と関わることは減ったみたいですけど・・」

「あんまし本人も周囲と関わる気はなさそうだしな。あんだけ目立ちそうな雰囲気ならあの人なりの苦労もあるんだろ。嫌なやつだけど」


 本人にも考えがあっての態度である可能性がある以上、他人の俺たちがそこに干渉するというのは失礼だし、どうしようもない。

 それに下手に関わるとこっちが怪我しかねないしな!


「でも、周りにうまく馴染めないのならなんとか力にはなりたいです。その痛みは、私にはよくわかりますし」


 弱々しい声に、朝日の方へ目をやる。


 彼女と目が合うと、今度は笑顔いっぱいの表情になった。コロコロ変えるその表情は見ていて飽きない。


 気づけば、もう駅の前まで来ていた。

 朝日は、駅の入り口に向かいながらゆっくり伸び、深く呼吸をしてこちらを振り返り


「これからの活動も楽しみですね!また明日、色見君!」


 やはり眩しい笑顔だった。幼い顔立ちは、暖かな夕日の日差しを浴びより一層魅力的に映った。


「ああ。」


 そう言って、手を上げるのが今の俺の限界であった。


 別れた後、家への少しの距離を一人で歩く。


 これまでよりも彩りに溢れた帰路を歩くのは、ほんの少しだけ心躍る体験だった。


 その彩りは、きっと時間帯のせいだけではないのだろう。

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