第5話 最初から好感度が高い件について

「色見君、ここにいた!!」


 騒がしい声が教室の空気を揺らす。

 朝日は廊下側に座っていたこちらに近づきながら


「色見くん、もう川霧さんは帰っちゃいましたよ!他の階は私が見たから・・って依真ちゃん?」


 ようやく、もう1人の存在に気づいたようで、朝日さんは奥の人物を見て目を丸くしている。

 一方でその依真と呼ばれた人物はやはり日誌に視線を注いでいるワケだが、


「この教室の戸締まり確認したら、この子が一人で日直の仕事してたから、手伝ってたんだ」


 俺のことを探していた様子なので、事務的に理由を説明する。

 てか、女の子に探されるってのは少し嬉しいな!


「そっか、二人とも同じクラスですよね!というか、本当に色見君は人の名前知らないんですね・・この子は茉白依真ちゃんですよ!」


 変わらず静かに作業している茉白に遠慮なく、やかましく続ける朝日。しかしそれに答えたのは、まさかの茉白だった。


「しょうがないよ、今日が初めましてだもん。色見君を探してきたって事は、朝日ちゃんも生徒会?二人とも立候補とかはしてないよね?」

「まるで俺を探す理由が業務のためしかないみたいに聞こえたんだけど?」


 朝日は、罰が悪そうにしながら、


「私たちは、諸事情で生徒会のお手伝いって感じだから、正規の生徒会ではないんだよね・・成美先生が言うには裏生徒会?らしいし。」


 あれ、俺ミュート?てか朝日も否定してよ・・


「まぁ成績がただただ悪いせいだけどな。」


 俺は自身の存在確認のため少し毒づいてみた。


「え、朝日さんって勉強苦手なんだ。意外かも」


 少しだけ目を見開く茉白。よし、聞こえてたみたいだ!!


「すいません、和樹くんを忘れてませんか〜、もしもし!」


 ようやく俺の声が届いたのか、今日初めて話した俺に茉白は吐き捨てるように、顔を見ずに言う。


「色見君は意外でもないよ、基本寝てるし。アニメとかではそういう人に限って頭いいとかありがちだけど、現実はそんな都合よくないから」



 わぁ・・・・ぁ・・・。泣いちゃった!!!


 完全にメンタルをやられた俺を尻目に、茉白は、よしっと一言いって席を立つ。

 どうやら日誌が終わったようだ。

 それを見て俺と朝日も、廊下に出る。


 廊下に出ると、茉白がスカートのポッケに入れていた鍵で施錠する。

 意外と時間が経っていたようで、階段を下り切った時の騒がしさは無くなっていた。


 鍵をかけ終え、俺たちは職員室に向かって歩き出すと茉白が俺に向かって


「ありがとう、少しだけ早く済んでよかった。少し面倒だったし」


 やっぱり、そうだったのか。にしては、すまし顔すぎてわからなかったけど。


「俺は手持ち無沙汰だったしな。全然」


 言葉足らずかもしれないが、返事をする。


 実際、本来であれば分担すべき仕事を一人でやっているのは、部外者の俺からすればただの他人任せにしか見えないわけで。


 それは俺が何よりも嫌いな行為だ。自分に与えられた仕事や難題は自分のものである以上自分の力のみで全うしなければならないに決まっている。

 俺はそう生きてきた。だからこそ、そうじゃない者は俺にはズルをしているように映るのだ。


 やらなければならないことは一生懸命やってきた。例え、周囲と軋轢が生じても。俺は、間違ってなんか、いないはずだから。


「それでも手伝ってくれるとはね。予想外だったよ。」


 茉白が無表情で前を向きながら言う。てっきり朝日に言ってるのかと思ったぜ。

 こっちは話題を振られることに慣れてないからな!


「まぁなんというか、自分のためだけどな。あそこで手を貸さないのは気持ち悪さが残るし」


 茉白はへぇーと意外そうな声を出す。


 失礼な人だな、俺は人よりも基準がおかしいかもしれないが、自分の中の正義に沿って行動しているだけだ。だから孤独に見えるだけで、あれだ、実は俺孤高だから。勘違いしないでよね!


 まぁ、それも今日、先生と川霧に否定されてアイデンティティなくしかけなんだけど


「私は、色見君は優しい人だって知ってましたけどね」


 そうやって茉白を挟んだ向こう側から、体を前のめりにして元気にいう朝日。

 なぜ朝日は、今日だけの付き合いでそこまで自信一杯なのだろう。


「短い付き合いでよく言い切れるな」


 自分の勘を信じてやまない彼女の様子に感心しながらも、少しアホっぽくも思ってしまう。

 実際、俺はいい人だしな。その審美眼褒めてやろう・・!

 俺の言葉に、朝日は今までの笑顔とは違う、優しさのような、儚さのような、はたまた少し苦しそうな笑顔で


「だって、十分ですから。」


 そう言って、顔を前に向ける。その横顔では、今の彼女の感情を読み取ることはできない。


 俺たちは長いこと階段を上ると、ようやく職員室に着いた。


「じゃあ、私はここで。日誌と鍵返さないといけないから」

「そっか、じゃまた明日!依真ちゃん!」

「また明日、朝日さん。それに、色見君も。」


 なんか一応みたいな感じだったけど・・。にしても明日からは挨拶しないといけないのか面倒だなとか考えながら


「あー、うん、それじゃ」


 そう別れの言葉を交わし俺と朝日は階段を降り、しばらく廊下を歩いて玄関に着く。

 謎に近い体の距離のせいで、胸はずっとうるさかった。

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