ヒーローとその活動

CVヒーローの活動

 初期のCVヒーローは犯罪と戦うイメージが強かったが、それは疫病後の大量に移民が流れ込んだ直後の治安が異常に悪い時期のことで、現在は犯罪抑止の象徴という立ち位置に落ちついた。シティの犯罪率は他国の主要都市に比べて高いわけではないが、観光客を狙った人身売買、アジアからヨーロッパへの合成麻薬の原料を運ぶ中継点、人体拡張技術やゼブリウムの不法な国外への持ち出しなど、深刻な犯罪は後を絶たない。そいうった犯罪は組織化して巧妙になっており、大規模な制圧作戦を展開するような摘発は数を減らした。


 人気のヒーロー、ビッグ4と称される面々も、知能犯罪を捜査する『スーパー・アナライズ』、シティ最強の弁護士『ゴールディ』、企業や区議会議員の不正を暴く『トーチライト』、暴力的な犯罪組織の制圧をライブで中継する『レディ・クホリン』となっていて、暴力犯罪と正面切って戦うヒーローはクホリンだけ。また、大企業のCVに所属しているのも四人の中ではクホリンだけだ。


 ヒーローの活動は動画で配信されることが多く、かつては犯罪現場から中継するスタイルの動画が主流だったが、スーパー・アナライズの登場以降、編集動画が増加した。知能犯罪の捜査を長期間にわたって記録し、解決後に編集して連続ドラマのように配信するスタイルが大きく視聴数を伸ばした。とはいえ大小に関わらず犯罪現場で活躍するヒーローを撮影した動画は数では圧倒的に多く、暴力的と非難されながらも常に大きな支持を得ている。


 すでにヒーローが派手に活躍する時代は過ぎ去っている。それでもシティの人々がヒーローに喝采を送り続けるのは必要だからだ。無差別の悪意が違法な人体改造によって暴走する。ゼブリウム利権を巡っての諜報活動はときに市民を巻き込む大きな事件になる。周囲の国で続く内戦はシティへの武器の流入を容易にし、困窮する不法移民問題と相まって唐突に凶悪な犯罪集団を生み出す。大規模な犯罪組織とヒーローが正面衝突していたころよりも、影は広く、濃くなった。シティ特有の問題は市民の心に言い知れぬ不安を与え、それを紛らわしてくれるのがヒーローたちだ。


CVヒーローのコーディネート

 犯罪現場でのヒーローの活動を記録し、編集した動画を公開するのが一般的だが、人気なのはやはりライブ中継。現場の緊迫感や、不測の事態へのヒーローの対処力、互いをカバーするCV団員との絆など、ライブでしか見られない映像は変わらず視聴者を惹きつける。


 人気の一方で修正が効かないため、ヒーローからヒーロー性を奪ってしまう事態も考えられる。民間人に被害が出たら? 人質が救出できなかったら? やむをえず命を奪った犯罪者が未成年だったら? そういった事態を防ぐためのサポート組織も必要になる。被害者の経歴を偽造や、犠牲が出ても批判を最小限に抑えられる数の算出、力を持つ非合法の民族系自治組織と交渉してターゲットとなる犯罪組織を事前に弱体化させるなどの工作は大企業ほど念入りに行う。


 サポートの権限は強く、広報のメディア対応にまで口を出してくることがあり、他の部署には嫌われる。だが、最も嫌われるのはCV団員の殉職。年に一人か二人なら視聴者好みの美談に加工できるが、多いと安心を与えるはずのヒーロー活動が逆に不安を与えてしまう。安心で安全なパフォーマンスがヒーローには求められる。


CVヒーローの社会的立場

 大抵は企業で何らかの役職に就いていて、社員としての賃金とヒーローとしての報酬は別に支払われる。ヒーロー活動があるぶん、社員としての出勤日数は少なめになり、どうしても責任ある仕事は任されにくい。ヒーローを引退した後、社に残らないヒーローが多いのは残っても居場所がないから。


 どの社員がヒーローをしているか、企業は公表しないが、社員なら大抵は知っている。コスチュームは顔を隠しているものが多いが、正体を隠すためと言うよりは頭部保護のため。コスチューム自体、軍用のプロテクターを流用するなど実用性重視の仕様で、マントなどもってのほか。『ミフネ』や『ハンゾウ』のようにイメージ重視のコスチュームは稀。


 広告などで素顔を見せることもあるヒーローたちはプライベートでは眼鏡をかけたり、髪の色を変えたりして変装している。これも正体を隠すためではなく、わかりやすくプライベートだとアピールするためで、そういうヒーローを見かけても気づかないふりをするのが良いファンのマナーとされている。ヒーローの素顔を無断で撮影したり、自宅を特定したりする行為は傷害罪にあたり、管轄を無視して全CVの摘発対象となる。


CVヒーローの引退

 ヒーローが引退する理由は怪我、病気、加齢など様々で女性の場合は出産も引退理由に多い。おおむね十年がヒーロー年齢とされる。引退後は他のヒーローの顧問になったり、ヒーロー・ネームを使った飲食店を経営したり、会社員としてキャリアを積み上げたりするが、一番多いのはシティを離れること。


 ヒーローは活動の性質上、正当であれ不当であれ、怨恨の対象となる場合がある。現役はもちろん引退していてもヒーローに危害を加えることは重罪で、所属していたCVはもちろん他のCVも協力して必ず犯人を見つけ出す。CVヒーローの安全はCVによって担保されるのがヒーロー活動を続ける上での絶対の条件だ。それでもヒーローを狙った犯罪がなくなることはない。とくに人気絶頂の中、何らかの理由で引退したヒーローは理不尽な悪意の対象になりやすく、事件へと発展してしまう。そうなった場合、解決するのもまたCVヒーローであり、視聴率の高い動画ができる。


 不正や犯罪で懲戒されるヒーローもいる。企業に与えた損害によっては大きな訴訟となり、大衆の耳目を集める。有名な事件は『ブラック・ゲート事件』で当時、人気の絶頂だった『エヴィエニス』が区議会選挙において、自身の所属する企業と対立する候補を擁立する企業のイメージダウンを目的にCV『ブラック・ゲート』の捜査を妨害した事件。潜入捜査をする捜査員の情報を潜入先の犯罪組織にリークしたため、捜査員とその家族が犠牲になった。


 事件の捜査を行ったのが『トーチ・ライト』、検察側で裁判に参加したのが『ゴールディ』で、この二人を一躍有名にした事件でもある。有罪判決を受けたエヴィエニスは移送中に失踪し、後に頭部と右腕だけが発見された。


 事件後、大企業に所属するCVヒーローへの信頼感が薄れ、特定の企業に属さずに、提携という形で活動するヒーローが増えた。個人事務所がCVに売り込みをかけるために危険な動画を作ることもあり、法的な規制が求められている。企業側には事件やイメージに合わせて人気や実力でヒーローを選択できるメリットもあり、法的な規制まで必要と考えている企業は少ない。自社でヒーローをプロデュースするコストも削減できるため、企業所属のヒーローは相対的に価値が下がりつつある。

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