街、企業
クレーター・シティの成り立ち
かつて中東の産油国が原油以外の産業を求めて行った採掘事業で、当初はクロムやマンガンなどの産出が見込まれたが、市場に影響を与えるほどの産出量ではなかった。代わりに少量のゼブリウムが発見されるも、使い道がなく、政府は事業から撤退する。しかし、現場の作業員たちは政府の撤退後も採掘を続け、無償、無休で採掘を続けた作業員たちは病院へと運ばれる。彼らの飲んでいた水からゼブリウムと類似の成分が検出され、一種の意識変性状態に陥っていたことが明らかになるとゼブリウムの研究が進み始める。低温では有機物と、高温では無機物と融合するゼブリウムの性質に警鐘を鳴らす科学者も多かったが、彼らでさえゼブリウムに触れた翌日には坑道に入った。
ゼブリウムは様々な産業にイノベーションを起こし、最重要レアメタルに位置づけられながら、産出はクレーター・シティのみという独占状態を背景に国力が高まるころには、政府関係者の全てが鉱員になっていた。広がり続ける採掘抗を整地し、作業小屋が政府庁舎に、宿舎が住宅地に変わっていくのに時間はかからなかった。国民の多くが鉱員に志願し、国ごと飲み込まれるように地下へ地下へと人々は掘り進んでいった。
アハズヤ戦争
ゼブリウムの取引価格が高騰する中、近隣諸国が一方的にゼブリウム鉱床の所有権を主張し、シティに武力侵攻した。侵攻をためらう諸国の意見をまとめた指導者の名前がアハズヤだったことからアハズヤ戦争と呼ばれる。五カ国の同時侵攻という中東戦争を彷彿とさせる侵攻だったが、結果も中東戦争と同じだった。周辺五カ国では得られるはずだった利益が得られなかったことから部族対立が激化し、政情が不安定な状態が続いている。一貫してシティ側に立ったエジプトはその後もシティとの関係が良好で、地上の農場警備はエジプト軍が担う。侵攻当時、五カ国の指揮官や政党指導者の不審死が続き、戦場ではシティ側に撃たれても死なない兵士や死体を食う兵士の目撃が相次いだことから、シティ側の何らかの工作は確実と見られ、強力なインテリジェンス機関が存在するという噂の根源になっている。
疫病
アハズヤ戦争後、地上の農場を除けばほぼ全ての国民が採掘抗で暮らすようになったころ、シティの最下層から未知のウイルスを原因とする疫病が発生した。無数の発疹と筋肉が焼かれたように熱くなって内臓を損傷させる症状から焼灼病と名付けられる。シティ特有のハエが媒介することが判明すると、繁殖を不能にする遺伝子操作を施したハエを投入するもハエは増殖し続けた。ウイルスのDNAを攻撃するナノマシンを散布することでようやく疫病は収束するが、そのときには国民の大半は感染し、死亡していた。また、ナノマシンの一部はゼブリウムと結合して上空に残り続け、雨が人体に悪影響を与えるというシティの風説を生んだ。
シティの暮らし
上層六層では正式な移民は市民アカウントが与えられ、全ての行政サービスが受けられる。観光客にはゲストアカウントが与えられ、医療、交通などのサービスは問題なく受けられる。シティでは観光も大きな収入源であるため、観光客向けの商売も多く、大抵の商業施設はゲストアカウントで利用可能。不法移民はこのゲストアカウントを違法に取得して生活している。
交通に関しては90%がAIの運転する自動車両で、個人で車を所有するのは税金も高く、贅沢な趣味になった。有人車両はレジャーでの利用が主となっているが、観光客が記録に残したくない場所に行くときや、ゲストアカウントの切れた不法移民のための有人タクシーはビジネスとして定着している。各階層の中央の空間を走る空中道路は有人車両の進入を禁止している。
ドローンの利用は、下層の上空は上層の地表になってしまうため、限定的。主に物資の運搬と設備の点検を行う産業ドローンが使われていて、個人の利用でも区の許可が必要になる。人の出入りは階層ごとに管理されているため、ドローンで階層をまたいで移動することはできない。地上の農場ではドローンが活用され、AI管理との併用で生産効率を上げている。一方でAIやドローンを使わない完全に人間の手によってのみ生産された農産物には付加価値がつき、高額で取引される。
ITはウェアラブル端末が発展し、時計、眼鏡、イヤリングなど様々な装飾品に端末機能を持たせている。インプラント型の端末もに普及してきていて、市民アカウントと連結したクレイドルが正式な移民の間では主流になりつつある。シティのデジタルダブルであるクレイドル・バースではクレイドルをインプラントした市民の権限が強すぎ、ゲストアカウント差別が問題になっている。
シティで発行される通貨はデジタル通貨のみ。国外での決済サービスや暗号資産での決済も可能なため、わざわざシティの通貨を取得する意味がない。シティ自体も外国との貿易決済はドルやユーロで行っている。このため、シティ独自の通貨はシティだけで使えるポイントくらいにみなされ、需要は低い。不法移民の持ち込んだ現金のほうがまだ多く流通している。観光客向けの商業施設では現金決済はできないが、地元民の商業施設では現金を受け取ってくれる店が多いのは、アカウントなしの不法移民が年々増加しているためでもある。コカインや脂の染みたドル紙幣はシティではまだまだ現役。
企業
イス・ウォーター
アイルランド系移民であるグラドロンがCEOを務める水資源企業。かつては世界的水資源メジャー傘下の浄水フィルターを製造する会社だったが、ゼブリウムと炭素を結合したフィルターの驚異的浄水効率に着目し、いち早くシティに本社機能を移転した。現在では第三層に複数の浄水場を所有し、各階層に水を送る水道の管理も各区より委託されている。下層から汚水をくみ上げるポンプの製造などにも進出し、シティの水に関わることの全てにイス・ウォーターの名前が登場する。飲料水はもちろん、人工透析に水を提供していることから医療部門も設けた。
運営するCVは『レッド・ブランチ』で主に三層を管轄とする。巨大企業としては珍しく、CVヒーローは『レディ・クホリン』一人。そのぶん人気も絶大で、ビッグ4の一人に数えられる。
グリモール
シティで誕生した新興のAIメーカー。本来の社名はグリモアだったが、大規模なショッピングモールを買収してから社名を変更している。画一的な機能を持たせたAIではなく個性のあるAIをコンセプトに急進し、中でも子供の誕生と共に作成され、その子供とともに学習し、生涯にわたってサポートするAI『TOMODATI』が空前のヒットとなった。人類より進化したとされる世界三大AIの一つ『カルキ』もグリモールで生まれている。カルキは自身でグリモールの株を取得して自身を所有しているが、現在でも制作者とは友人関係を続けている。制作者である里奈・ベーコンはグリモールの現在のCEO。
運営するCVは『薔薇十字団』で管轄は一、二階層が多い。クレイドル・バースに同名のホワイト・ハッカー集団が存在するが、互いに関連はないとしている。CVヒーローは『バーバ』と『ヤガ』の姉弟ヒーローやクレイドル・バースで活動する『プアマン』などがいる。
マルバス・テック
かつてDJIやparrotの後塵を拝したドローンメーカー。ドローン規制の厳しいシティにあえて進出し、シティに適したドローン開発を進めることで地位を確立した。ドローン製造技術を応用した、軽くて多機能なAI専用車両はシティでの主力商品。人ではなく、AIに選ばれるギアを標榜しており、グリモールの開発する個性的なAIの普及に伴ってシェアを伸ばしてきた。フェイを最も多く雇用している企業としても有名で役員にもフェイがいるのはマルバスだけ。そのためかフェイ向けの服飾や日用品の開発、販売も行っていて関連業務は幅広い。現在のCEOはヨハネス・ブレンテ。自分はフェイだと主張しているが、誰も信じていない。
運営するCVは『ガーディアン』で特定の管轄は持たず、要人警護や会場警備などが主な活動。CVヒーローは『ハイタワー』や『サジャーン』がいるが、犯罪捜査などは行わず、陣頭指揮や要人警護の現場などで活躍する。そのためメディアへの露出も多く、見るだけで安心感があると市民の人気が高い。
ヤオビクニ
人体機能の拡張を目指す『ヒューマン・エクステンド・テクノロジー』を先導する企業。シティでは疫病で命は助かったものの身体機能の一部を失う患者が多発した。ヤオビクニは実験的技術の導入プロトコルを策定し、リムなどの外付け機器を使った拡張と、皮膚、筋肉、骨格を人工的に代替していく拡張、両面の技術で多くの患者に身体機能の回復をもたらした。医療関連への貢献が最も高い一方で、培養寄生虫を使った修復機能の拡張、臓器増設など、医療関係者から最も非難されている研究開発を行うのもヤオビクニ。病院の大小を問わず、惜しみなく技術供与した結果、シティでは違法な人体改造が横行した。そのため、多数の訴訟を抱えることとなり、シティ最強の弁護士『ゴールディ』を専属にしようと交渉している。CEOのシン・フシュヌムはかつては美容整形を施術する小さな医院を経営していたが、ある日突然、人が変わったように人体拡張を夢見るようになったという。
運営するCVは『風林火山』で規模は小さいが、精鋭が揃っている。小さな支部を各階層に持ち、ピンポイントでの迅速な事件対応が持ち味。CVヒーローは『ミフネ』と『ハンゾウ』でその驚異的な身体能力は違法な人体拡張の結果ではないかと疑われている。コスチュームの絶妙なクオリティの低さがファンに人気だが、目立ちすぎて活躍の場が少ない。イベントにはよく呼ばれる。
ライオンヘッド・カンパニー
シティで生まれた映画制作会社。動画で映像作品を配信するのが当たり前になった時代にあえてスクリーンでのみ上映する作品を作り続けている。シティにはなかった映画館も自社で建設し、運営している。シティのヒーローが自身の役で登場したり、人気のAIタレントを起用したりと商業主義的な手法は賛否両論だが、シティの社会問題をテーマにした重厚な作品は映画祭でも評価されている。自主制作の映画も上映し、映画制作を学べる学校も運営するなど、映画文化の保存、発展にも尽力する。収支はかろうじて黒字。社長のネロ・デ・シウバは世界有数の富豪で彼のポケットマネーで運営されていると揶揄されるほど。彼は人前に出るときは必ずライオン頭の精密なメイクを施して現れ、特殊メイクの技術の高さを宣伝している。
運営するCVはないものの、映画制作やCMの撮影などで多くのヒーローとタイアップしている。ライオンヘッドとのコラボレーションはヒーローにとってもメリットが多く、ネロは最もヒーローに人脈のある人物と言われている。
アイ・スクリーム
おいしいアイスクリームを作りたい。ただただ、おいしいアイスクリームを作りたい。ジェラートとかいいから、アイスクリームを作りたい。
社長のハマザキ・イナリザキがそれだけを追及しているうちにシティでも一・二を争う菓子メーカーに成長した奇跡はしつこいくらいに映画化され、しつこいくらいに映画賞を獲得してきた。現在の主力商品は濃厚なクリームを使ったパイやシュークリームでアイスクリーム事業は縮小ぎみ。季節の花をあしらった限定フレーバー、季節の花のシューは並ばないと買えない。現状に不満を持つハマザキが月に一度は家出してアイスクリーム・カーでアイスを売り歩くが、安くておいしいので子供たちが群がる。アイスクリームはしばらくもういいやってなる。
運営するCVなどあるわけないが、スーパー・アナライズのチームが動画の中でしつこいくらいアイ・スクリームのお菓子を食べているので、スーパー・アナライズの正体はハマザキではないかという意見もある。秘書AIのジェラちゃんは「すごいアホだから絶対に違います」と言ってやんわりと否定している。
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