第261話 不機嫌なエヴィー

 感動したよ。本当に素晴らしかった。

 まだ頭が働いていないな。身体も脱力してしまっている。


 舞姫達が俺に近づいてくる。舞台ギリギリまでの前方に位置に並ぶ。

 身体を俺の正面を向けて整列する。一人一人順番に一礼し、ゆっくりと身体を一回転させていく。


 正面、横、後ろ姿を俺に鑑賞させている!?

 い、いかん! これは超高級娼婦街でお相手してくれる女性を選ぶシステム!

 籠絡される!


 しかしおとこの本能がこの場を動く事を拒否している。マズいと思いながらも裸体を凝視する俺。

 混浴で見た裸とは全く違う。相手は俺に品定めされている事を理解している。つまりは俺に抱かれる事が前提だ。

 これはお見合いに似ている。結婚を前提にして知らない異性同士が会う。

 相手の家柄や年収、仕事等を考慮されてお見合いをするが、当事者本人は当然だが、周囲の人達も2人の性行為を想像しているだろう。

 恋愛結婚には無い、ときめき・・・・が見合いにはある!

 これは普通の男女の出会いではない。性行為前提の出会いなど、他では娼館でしか有り得ないだろう。

 うん? やっぱりこれは見合いじゃないな。完全に娼館じゃん。

 頭がおかしくなっているわ。


 プリちゃんが一礼をして俺を見つめる。情感がたっぷりこもった視線だ。ゆっくりと横を向く。横から見る女性の裸体って、本当に綺麗な曲線だよな。プリちゃんのお尻のプリプリ度が良くわかる。これは国宝に値するお尻だろう。

 後ろを向くプリちゃん。


 ふむ、やっぱり極上のお尻だな。国宝に指定されないのなら俺がこのお尻を保護する必要があるかもしれない。


 後ろを向いたプリちゃんが止まっている? なんだ? どうした?

 

 その時プリちゃんがお尻を少し上に突き出した。


 あぁ、参った、負けだよ……。

 プリちゃん、君の勝利だ……。


 俺は敗北を認めてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「これはどういう事? 神聖な儀式じゃなかったの?」


 先程、俺をマッサージしてくれた三人組のエルフのリーダー格の女性に話しかける。

 しかし俺の詰問調の言葉をリーダー格の女性は柳に風と受け流す。


「そうですよ。神聖な儀式です。神様に見立てたジョージ様に奉納する舞です」


「舞は別に良いよ。確かに素晴らしい舞だった。でもその後のアレはなんだ。俺に女性を選ばせる行為じゃないか」


「ですから説明させていただきました。この儀式は救世主様に未来永劫この地に留まって欲しいエンヴァラの民の願いを表現しておりますと。エンヴァラの民と致しましてはジョージ様にエンヴァラのエルフを見初みそめていただいて、この地に残って欲しいのですから」


「百歩譲ってそれは受け入れよう。だけど俺は神聖な儀式って聞いたんだ。それにしては性的過ぎないか?」


「ジョージ様、御言葉ですが、神聖な儀式は性的な色合いが強くなります。男女和合和合は神聖な行為です。男性の性器や女性の性器を神と見立てている地域もあります。エンヴァラの民は森と共に生きています。自然信仰がなのですよ。ありのままを受け入れます。その為、男女の性的行為は神聖な儀式と捉えています」


「まぁ、悪気は無い事はわかったよ。それに良いものを見せてもらったって思えばよいか。禁欲生活が長くてちょっと神経質になっているんだ。我慢するのも精神的に疲れてきていてね」


「あら、我慢なんてしなくては良いのでは? 今日の舞姫から気に入った娘を選んでいただいて問題ありません。一人で満足できないのならば、11人全員を選んでも良いですよ。それに私達三人の中から選んでいただいても大丈夫です」


「いや、止めておくよ。これは俺の意地だな。いや既に矜持にまで昇華しているよ。最愛の人を裏切らないって決めたんだ。それに俺には最愛の恋人がいるからさ」


 そう言って俺は自分の右手を見つめた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 天国のような地獄の儀式の後は大広間で食事会が開かれた。

 しかしこの大広間には、俺とエンヴァラとシーファ、マルス・ウィンミル親衛隊長の四人しかいない。

 エンヴァラが一緒だと食事が喉を通らないってギュンターさん達が言っていた。ウィンミル家の人達は何か言い訳を言っていたが、同じ理由だろうな。エンヴァラの神々しさって凄いわ。


 エンヴァラは終始無言。誰からも声をかけられないようにしている雰囲気が感じられる。

 一度マルスが話しかけようとしたが、ギロリと睨まれて口をつぐんでしまった。

 大広間にはシーファの声だけが響いていた。


「ジョージ様、これも食べてください。ここの名産なんですよ」


 俺は勧められた山菜の漬物を齧りながらシーファに確認をする。


「シーファはエンヴァラに畏怖を感じないの? 他のエルフは怯えているけど?」


 軽く首を傾げるシーファ。


「そうですね。少しだけ圧力を感じますが、平気です」


 何でだろ? 不思議だな。エンヴァラならわかるかな?


 澄ました顔で食事をしているエンヴァラ。こちらの話題は聞こえているだろうに……。


「エンヴァラ、どうしてシーファはエンヴァラをあまり怖がらないの?」


 俺の質問に無言で顔を背けるエンヴァラ。


 なぬ!? 何か機嫌悪い?


「どうした、エンヴァラ? 俺が何かしたか?」


「ズルいのじゃ。おかしいのじゃ。ジョージ様は我をないがしろにしている。ジョージ様の筆頭下婢かひは我じゃぞ!」


「別にエンヴァラを筆頭下婢かひにした覚えは俺には無いよ。勝手に自称しているだけでしょ。人聞きの悪い事を言われると困るんだけど」


「な、な、何を言ってるのじゃ! ジョージ様は私の脳と心臓を縛鎖荊ばくさけいで縛っておられるじゃないか! 我の魂を縛っておるのじゃぞ! そんな所業をしておいて、我を放置する気か!」


「そう言われてもね。縛鎖荊ばくさけいは初めて使用した魔法だし、エンヴァラには剣の攻撃も他の魔法も効きそうになかったから、一か八か使っただけだから」


「なんじゃその、【気が付けば男根が入ってました】バリの言い訳は! そんなの通じるわけなかろうが!」


「まあまあエンヴァラや。取り敢えずその件は後で話し合おう。それより何がズルいの? 機嫌を曲げた原因を教えてよ。機嫌が悪い人と一緒にはいたくないからさ」


「むぅ……。ご主人様は乙女心、下婢心がわかっておられぬ。これでは先が思いやられるのじゃ」


 ふーっと溜め息をつくエンヴァラ。


 何かムカつく奴やな。基本的に上から目線の言動が多いよな。でも面倒だから今のところはほっとくか。


「鈍くて悪かったね。俺は乙女でも下婢でもないからわからないよ。だから教えてくれるとありがたいな」


「しょうがないのぉ。ジョージ様がそこの女をシーファって愛称で呼ぶのが納得いかん。筆頭下婢である我も愛称で呼んで然るべきじゃ」


「エンヴァラを愛称で? 別に良いけど。エンヴィー? それともエヴィー?」


「エヴィーが良いのじゃ! 今から我はジョージ様のエヴィーじゃ!」


 食い気味に返事をするエンヴァラ改めエヴィー。

 見ている方が嬉しくなるくらいのニコニコ顔だ。見る者に恐怖を覚えさせるほどの美貌を持つエンヴィーだが、笑うと人間味が溢れてくる。

 やっぱり笑顔って素敵だな。


「それじゃエヴィーに聞くけど、なんでシーファはエヴィーに対してあまり恐れを抱いていないの? 他のエルフはビビりまくりじゃん」


「それは我がジョージ様の下婢になったからじゃ。そこのシーファとかいう奴は魔力を見ればすぐわかる。ジョージ様に真の忠誠を誓っておるわ。ジョージ様の愛玩エルフ・・・・・に対して、我が威圧するわけが無いじゃろ」


 エヴィーの言葉に頬を赤らめるシーファ。

 なんで喜ぶ……。

 何かし崩し的にシーファを飼う事になりそうだ。

 捨ててきなさいって怒られないかな?

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