第260話 神に捧げる舞

 ウィンミル家の屋敷の裏は森に囲まれた広場があった。

 広場の中央には木造の舞台が作られている。

 その舞台を真正面から見える場所に豪華過ぎる椅子が……。尚且つ足置き台まで設置されていた。

 椅子の側には白いワンピースの薄着の女性のエルフが3人待機している。まだ寒い季節なのに。

 あれ? これ下着着てないよ。全部透けてるやん!


 もしやこれって……。


「アマルさん。聞いているとは思いますが俺に【魅惑の蜜】を仕掛けるのなら敵対行為と見做しますよ。ちょっと露骨な衣装じゃないですか?」


「あ、これはそういう物ではございません。救世主様を神と見立て、舞を奉納する儀式なのです。エンヴァラでは最高位の神聖な儀式となります。その為、この場にいるエルフは身を清める必要がございます。本当ならば何も着てはいけないのですが、ジョージ様へ配慮した結果、薄手の白のワンピースを着ることに致しました。どうぞ神に奉納する儀式ですので、ご理解いただけますようお願い致します」


 神聖な儀式って言われると納得しなきゃいけない圧力をヒシヒシと感じてしまう。

 神聖な儀式にエロ脳は不謹慎だよな。邪推した事に罪悪感すら感じてしまう。


 アマル姫は豪華すぎる椅子に俺を案内して頭を下げる。


「それではもう少しで儀式を開始致します。私もジョージ様とご一緒したいのですが、この儀式に参加できるのは救世主様と穢れなき乙女のみとなります。どうぞジョージ様は私達エンヴァラの心をお受け取りください。後の用事はこの三名にお申し付けください。それでは私は失礼致します」


 アマル姫は屋敷に帰って行った。

 俺は豪華過ぎる椅子に悠然と座り、靴を脱いで足台に足を投げ出す。


 あぁーー! ゆったりできるーー!

 これはこれで人生の勝利者だな。


 投げ出した俺の足を揉み出すエルフの二人。


「あ、そんな事しなくて良いよ。悪いから」


 微笑みを返すエルフ達。


「この儀式はジョージ様が神様なのです。神様であるジョージ様にどれだけ安らいでいただけるかが重要なのです。私達の事は気にせず、緊張を和らげてください」


 三人のリーダー格のエルフが一人のエルフに目線で合図を送る。

 それを受けたエルフが温かい濡れ手拭いで俺の目を覆う。


 あぁ……。気持ちが安らぐわぁ……。


 俺の視界を手拭いで塞いだエルフが、そのまま俺の頭を揉み始める。


 おぉ……。これは気持ち良過ぎるよ。一度は神になってみるもんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ジョージ様、お眠りのところ申し訳ございませんが儀式が始まります」


 あ、寝ていたか……。気持ち良過ぎたもんな。


 視界を塞いでいた手拭いが外される。

 夕闇か、日が落ちたんだな。


 辺りはすっかり暗闇に包まれていた。

 広場と舞台の周囲に設置されたかがりに火がつけられる。

 その火の灯りで周囲は柔らかな赤色に染められた。


 ハッ!?

 寝ぼけていて頭が働いていなかったし、目がボヤけていて気がつかなかった。

 俺の頭と足を揉みほぐしてくれていた三人の女性のエルフが先程まで来ていた白のワンピースを脱いでいた。


 またか……。エンヴァラの前線の砦に入ってから性的な試練が次から次だよ。

 我慢ばかりでさすがに溜め息が出ちゃうよ……。


「ジョージ様、悲しくなりますから、そんな顔をしないでください。裸になったのは神に舞を捧げるために必要な事なのです。服を着る行為は神に隠し事をする事に繋がります。今宵は神であらせられるジョージ様に我等エンヴァラの民の感謝の心を受け取っていただきたいと思います」


 そんな事を言われたら気持ちが引き締まってしまうよ。


「これは悪かった。真剣にやっている君達に対して邪推してしまったよ。神聖な儀式を性的な目で見るなんて失礼だね」

 

「そんな事ありません。男性が女性を性的な目で見るのは当たり前です。ましてや裸なのですから。それにこの儀式は救世主様に未来永劫この地に留まって欲しいエンヴァラの民の願いを表現しております」


 未来永劫この地に留まる?


「あ、始まりましたね。それでは我等の舞をお楽しみください」


 笛の音が聞こえてくる。舞台に11人の女性のエルフが登場した。全員が裸であるがそれはもう突っ込まない。

 中央にシーファ、その隣りには究極の痛い子プリちゃんがいる……。

 そういえばプリちゃんは先にエンヴァラに帰還していたな。


 緩やかな笛のに合わせて一糸纏わぬエルフの美女達が一糸乱れぬ舞を舞う。


 こうやって見ると、やっぱりエルフの容姿ってずば抜けて優れている。この舞は至高の芸術作品だ。愛してやまない女体の曲線が俺の視界いっぱいに次から次と飛び込んでくる。

 桃源郷ってあるんだなぁ。


 ゆったりとした笛の音から太鼓の音に変わった。軽快な太鼓の音だ。手で叩く太鼓と思われる。

 エルフの舞姫達は太鼓のリズムに合わせて舞い始める。優雅な舞が情熱的な舞に変化した。


 おぉ! 揺れる、揺れる、又揺れる!!


 舞姫11人、22個のお山がこれでもか!ってほど揺れる!

 

 揺れるお山に釘付けになる俺。これは男の本能だからしょうがない。

 太鼓のリズムと音がどんどん激しくなっていく。それに合わせて舞も激しくなる。

 最初は揺れるお山に目線を奪われたが、気がつくと圧倒的な舞の迫力に引き込まれていく……。


 篝火の火で照らされる女体。

 激しい舞に飛び散る汗。

 太鼓のリズムが腹に響く。そして心臓を叩く。

 心が震えてくる。心が揺さぶられる。


 夕闇の森、炎、裸体、太鼓のリズム……。

 これは原初を感じさせる舞だ。

 人間の根源は自然から生まれ、自然に帰ること。何故かそんな事を考えてしまった。


 そして舞姫達の感情が舞を通して伝わってくる。

 幾星霜いくせいそうの時を経て、遂に現れた救世主。

 歓喜に満ち溢れた舞。


 あぁ、確かにこれは神に捧げる舞だよ。


 そして舞と太鼓のリズムは最高潮に達し、終了した。

 まさに圧巻の舞。

 俺は完全に心を奪われてしまっていた。心が揺さぶられたせいか茫然としてしまう。


 夕闇の森には再び静けさが訪れていた。

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