世界樹編

第250話 エロの妄想、真実を突く

2月23日【白の日】


 早朝に砦の守備人員を残してエンヴァラに向けて砦を発った。

 先頭にはクロル・ウィンミル元帥。その横にマルス・ウィンミル親衛隊長がいる。その後ろにエンヴァラ軍。俺とシーファはその後ろ。最後尾がエンヴァラ親衛隊だ。


 今日は快晴だな。エクス帝国の帝都を発ったのが1月21日。既に一ヶ月以上経ったよ。帰路の日程を考えるとあまりエンヴァラに滞在ができないか。


 昨晩の遅くに数名のエルフが東のエンヴァラに向けて移動していた。

 たぶんマルスの命令なんだろうけど、果たしてどうなるか? 罠を仕掛けてくる可能性も否定はできない。襲撃を感じたらすぐにそこを離脱して、距離を取ってから魔法の詠唱でいこう。【黒月】があるから近接戦をしても良いけど、多勢に無勢だから万が一があるからな。

 ついでに念入りに魔力ソナーを前方に広げておくか。


 俺は進行方向の東方向に魔力ソナーを広げた。


 お、ここからそれなりに離れた場所に魔力反応があるぞ。たぶんここがエンヴァラの集落だな。結構な人数がいるや。

 なっ、……!?


「どうしました、ジョージ様? 急に立ち止まって?」


「いや、これはなんだ……。なんなんだ!」


「な、何をおっしゃっているのでしょうか?」


 困惑しているシーファ。しかしそれよりも困惑しているのは俺の方だ……。

 エンヴァラの集落と思われる中心から感じられる莫大な魔力反応。ドラゴンの魔力を軽く超えているわ。これは間違い無く世界樹の魔力なんだろう。


 しかしあり得るのか? 確かに植物も魔力を帯びている。しかしそれは魔力ソナーにも引っかからない微量な魔力だ。俺ですら意識をしないと感じる事ができないほど微量な量。世界樹って植物だよな? それにこの魔力の質はあまりにもいびつだ……。


 俺は世界樹を見るのを楽しみしていた。世界一有名な木だからな。しかし今は恐怖を感じている。歪過ぎる魔力の質。これはこの世に存在してはいけないものではないか? エンヴァラとの約束を反故にするかもしれないが最悪世界樹を燃やす必要があるかもしれない。

 しかしそれは俺とスミレの子供を諦める事に繋がる行為……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 進めば進むほど世界樹の魔力を鮮明に感じてくる。断末魔の叫びが聞こえてくるようだ。

 こりゃ酷いや……。早く何とかしてあげないと。


 世界樹の魔力に意識を集中させていたら不思議な物が見えてきた。

 前を進むエルフ達がぼんやりと薄く光っている。薄い緑色だ。ストームブレードの風の刃と同じ色。

 横を歩くシーファは明らかに強く光っている。濃い緑色。


 俺は魔力が見えるようになったのか……。

 なぜそうなったのかはわからない。ただこれが魔力だとは確信できる。体内循環させている魔力のせいなのかな? ストームブレードの風の刃を見えていたから、その前兆はあったんだな。なぜ今、その能力が完全に覚醒したのかはわからない。でも世界樹の魔力に意識を集中させていた事が関係してそうだけど。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 マジか……。マジですか……。マジだよね?


 世界樹に近づけば近づくほど理解した。これは本当の断末魔の叫びだわ……。

 世界樹が苦痛にさいなまれている。


 そして俺の目の前には輪郭がボヤけた人型の魔力が浮かんでいた。

 薄い緑色の人型。どうやら俺が認知したのに気が付いたようで纏わりついてくる。そして意味のわからない念?みたいなものを発しているわ。

 俺と意思疎通を図りたいのか?

 悪霊じゃないよな。こちらへの害意は全く感じられないもんな。


「シーファ、小休止をお願いできるかな?」


「これは気が付きませんでした。すいません。おーい! 小休止にしてください!」


 シーファの声に右手を挙げて応えるマルス。全体に小休止の指示を出す。


「シーファ、君にお願いがあるんだけど良いかな?」


「本当ですか! ジョージ様! 良いに決まっているじゃないですか! お疲れで足が棒になりましたか? マッサージ致しますよ。固くなった足を揉みほぐします。ついでに真ん中のご立派な足も揉みほぐしさせていただきます!」


 コイツは何処に出しても恥ずかしく無いほどの立派なエロフや。自制していかないとし崩しにされてしまうわ。


「マッサージは間に合っているよ。あそこの大木の根本で少し瞑想するから、その間俺を守ってくれるかな?」


「ジョージ様を守る? 四六時中魔力ソナーを展開し、規格外の身体能力向上をしているジョージ様を? 必要無いと思いますが?」


 へぇー。俺が四六時中体内で魔力循環をさせているのを感じ取っているんだ。なかなかやるねぇ。


「いつもはそうなんだけど、今回は特別だ。瞑想に集中したいんだ。そうするとどうしても無防備になってしまう。俺の命をシーファに預けるよ」


 目をパチクリされるシーファ。

 そして涙が溢れる。


「まさかこの短い期間でジョージ様からこれほどまでの信頼をいただけるとは……。このシーファ、命をかけてジョージ様の瞑想を誰にも邪魔させません!」


 めちゃくちゃ感動しているなぁ……。

 魔力が見えるように覚醒してから、魔力の質をより一層感じられる。

 それと共に俺へ向けられる感情もハッキリと認識できるようになった。

 シーファの魔力を見れば俺に害意が全く無い事がわかるわ。


「よし! 任せたぞ! シーファ!」


「任されました! 不肖ジョージ・グラコート伯爵の愛猫シーファ! 頑張りますニャ!」


 両拳を頭にやるシーファ。敬礼のつもり?

 ここはスルーやな。


 俺は大木の根本に移動して、おもむろに服を脱ぎ出した。


「あ、あの? 何の真似でしょうか? やはり真ん中のご立派な足のマッサージをご所望ですか?」


「瞑想に集中するって言ったでしょ。全裸になった方が感覚が鋭敏になるんだよ。今回は全身全霊で瞑想したいんだ」


 以前、スミレの全裸での瞑想を見たくて口から出まかせで言った理論。しかし実際にやってみたら効果を感じられたんだよね。まさに嘘から出たまこと。エロの妄想、真実を突く。


 ヒンヤリとした空気が肌を包む。否応無く感覚が鋭敏になる。

 着ていた服を地面に敷き、その上に座禅を組む。


 上手くいけば良いな。


 俺は目を閉じて纏わりついている人型の魔力に集中を始めた。

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