第249話 残念な人……。
大浴場の湯船にゆっくりと浸かっている俺。
横を見ると当たり前のようにシルファさんがいる。今日は親衛隊の女性隊員が大勢一緒に入浴している。
あれ? エンヴァラでは混浴が文化って言ってたけど、男性のエルフは見当たらないぞ?
「シルファさん。エンヴァラでは混浴が文化って言ってなかった? エンヴァラから来た人達に大勢男性がいたよね?」
「あぁ、あれは嘘ですよ。エルフは貞操観念が強いですから。異性に裸は絶対に見せません。見せる相手は愛する人だけです」
全く悪びれずに嘘と白状するシルファさん。
「へっ、じゃ、この状態って何を意味するの?」
俺の周囲には全裸の女性のエルフがおっぱいいる。
いやおっぱいじゃない、いっぱいがおっぱいで、おっぱいがいっぱいだ。
「ふふふ、何を意味するんでしょうね? それにもう隊員には何の命令もしてませんよ」
エルフのハーレムなんて、歴史上の権力者でも実現してないよなぁ……。
俺が独身だったら狂喜乱舞していただろうに。
まぁエルフのハーレムより俺は素晴らしいものを手に入れたんだから悔やむ必要は無いな。
それより情報収集だね。
「エンヴァラ軍元帥のクロル・ウィンミルってどんな奴?」
「猜疑心が強く、虚栄心が強く、劣等感の塊で威張り散らす無能ですね。あ、女性をいつも性的な目で見る変態でもあります。私への求婚がしつこくて本当にウザいですね。ウィンミル家の長男として生まれながら、魔法の技術が平凡で世界樹に魔力を込める事ができない残念な人です」
ざ、残念な人……。男性が女性から言われて傷付く言葉のトップ3には確実に入るだろう。1位は生理的に無理!だろうけど。
「エンヴァラ軍元帥をやっているのも家柄だけですから。現在、ウィンミル家の跡取りは妹のアマル・ウィンミルです。クロルは無視しておいて問題ありません。何の権力もありませんから」
不出来な長男かぁ。劣等生だった俺はほんの少しだけ共感しちゃうよ。
「もう一人の男性もウィンミルを名乗っていたよね? 親衛隊長って言ってたからシルファさんの上司に当たるの?」
「マルスはウィンミル家の分家の出身です。ウィンミル家の養子になったんです。本家の長男であるクロルが不甲斐ないからですね。マルスは私の上司だった人です」
「だった? 過去形なの?」
「はい! 先程、私はエンヴァラ親衛隊の除隊届けを出しましたから。今の私は何にも属しておりません。ジョージ様がエクス帝国に戻られる時に同行させていただきます。それから就職活動を致します。何とかグラコート伯爵家家臣団の筆頭であるダン様の目に叶えば嬉しいですね」
驚きの行動力やな……。俺に飼われる気満々だよ。
サイファ魔導団長の双子の妹であるシルファさんを連れ帰ったらスミレはどう思うのだろう? それも飼うと言ったら……。捨ててきなさい!って怒られるのかな?
それは帰ってから考えようか。
シルファさんがフリーならエンヴァラにいる間は味方にしたほうが得策だよな。
「シルファさんは帝都まで同行する予定なんだね。それならそこまでは俺がシルファさんを雇うよ。その方が世界樹の実を入手できる可能性が高そうだ。その後はダンと交渉してみてくれ。それとマルスをエンヴァラの交渉相手に設定すれば良いのかな? あとは性格なんか教えてくれる」
「ジョージ様に雇っていただけるなんて嬉しいです。是非、次は飼ってくださいね。ジョージ様のおっしゃるとおり交渉相手はマルスで大丈夫です。マルスは長老の右腕ですから。性格は沈着冷静。必要とあらば小を捨てて大を就く事を厭わないです。人によっては冷酷非道に感じるかもしれません。また魔法の腕は現在のエンヴァラでもトップクラスですね。長老とアマル姫が頭一つ抜けていて、その次がライド。私とマルスがその次ですか」
ライドさんってそんなに凄い魔導師なんだ……。知らんかったわ。
マルスの性格は何となく把握したよ。冷静沈着にして冷酷非道なら俺との相性はバッチリだ。
感情よりも理屈で判断するのなら俺と敵対するわけないもんな。
「ありがとうね、シルファさん。それより胸を俺の腕に押し付けるのはやめてくれるかな?」
いつのまにか俺の腕に左胸を押し付けているシルファさん。
「これは失礼致しました。ジョージ様に付けられた刻印が疼いてしまって……。あとお願いがあるのですが……」
「何? できることなら聞いてあげても良いよ。クロルとマルスの情報を教えてくれたからね」
「私はジョージ様に雇われました。さん付けで呼ばないで欲しいです」
「わかったよ。じゃシルファって呼ぶことにするよ」
「あのできればシーファと呼んで欲しいです。私の幼名なんです。ジョージ様といると子供時代の無邪気な自分に戻れるんです……」
湯に浸かっているからじゃないな。シルファさんの頬が赤くなっている。
とても可愛い顔をしているが、一体何歳なんだよ……。ある意味怖いけど……。
「なんか、変な事を考えていませんでした?」
射抜くような目線を俺に向けるシルファさん。
お、さすが双子。歳の事を考えるとサイファ魔導団長と同じ反応が返ってくるわ。そうだね、考えたら負けだよ。
「別に何も考えていないよ。取り敢えず俺が世界樹の実を入手できるように協力してよ、シーファ!」
一瞬で無邪気な顔に変わるシーファ。
「はい!」
シーファの声が浴室に響いた。
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