第248話 忠告を覚えたジョージ
取り敢えずシルファさんの申し出は保留にしておいた。シルファさんを飼うだなんて俺の許容量を超えているわ。
しかしダンから絶対の忠誠心の人材が必要って言われたもんな。それにしても愛玩動物って絶対の忠誠心があるのか? シルファさんの件はダンに丸投げするしかない。
俺は夕日が落ちる光景を見ながら溜め息を一つついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2月21日【赤の日】
エンヴァラに与えた猶予は3日。その2日目。
俺はのんびりと砦で過ごした。シルファさんがずっと俺の横に控えているけどね。これだけ一緒にいると雑談を結構してしまう。心の距離が急激に縮まるのを感じる。そして当たり前のように風呂にも付いてきた。さすがにそれにも慣れてきたよ。
砦に残った親衛隊の隊員も時間があれば俺に話しかけてくる。目から憧れを感じるわ。ムズムズする感覚を背中に覚えてしまう。
英雄ってこんな感じなのか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2月22日【黒の日】
昨晩の夜遅くに周辺を確認に行った部隊が砦に帰還したようだ。
当たり前だが、何も発見されなかったみたい。
昨日は朝からシルファさんが俺を起こしに部屋にやってきたが今日は来ていない。魔力ソナーで確認したところ、見張り以外の親衛隊が砦の食堂に集まっている。シルファさんの魔力反応もあるな。お腹も空いたし食堂に行くか。
食堂に入った瞬間、目に入った光景に衝撃が走った。
「「「おはようございます! ご主人様! 今日もよろしくニャン!」」」
食堂にいるエルフ全員に一斉に挨拶される。全員が頭に猫の耳を模した髪飾りを付けている……。そして毛皮のビキニ!? お尻には尻尾も付いとる! お、俺が寝ている最中に何が起きた!?
「あ、あの、何の真似でしょうか?」
圧倒され丁寧な言葉になってしまう……。
シルファさんが一歩前に出て腰をくねらせる。
「今日は2月22日ニャン。ニャンニャンニャンで猫の日ニャン。ご主人様は猫が大好きみたいだから、喜んで欲しいので皆んなで考えたニャン!」
こ、これは壮観だわ……。
実は俺に猫属性は無い。シルファさんの謝罪に猫属性を組み込んだのは真剣な謝罪の場とお
でも美人揃いのエルフにこんな演出をされたら、猫属性に目覚める可能性も否定はできんな。
「ありがとうね。その気持ちはとても嬉しいよ。ただ、少し刺激的過ぎるかも」
「喜んでいただけてとても嬉しいニャン。今後とも可愛がって欲しいニャン!」
なかなか堂に入ったシルファさんの猫の擬態。他のエルフ達は少し恥ずかしがっているか。
まぁこれはこれで面白いか。そうだな、気にしたら負けだ。平常心で行こうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕方にエンヴァラから来た軍の部隊が砦に到着した。
シルファさんがその出迎えに砦の門に向かう。俺は自室で待機中。
少し経ってからシルファさんが俺を呼びに来た。既に猫の装いから親衛隊制服に着替えている。下はボトムスだ。
「ジョージ様、作戦本部室までご足労お願い致します。エンヴァラ軍
ウィンミル? 確か長老の家がそんな名だったな。
「元帥は長老の家の人?」
「そうです。長老の長男になります。エンヴァラ軍のトップになります」
ふーん。どんな人なのかな? まぁ会ってみてだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
作戦本部室に入ると一番奥に踏ん反り返っている男性のエルフがいた。
何か睨まれているんだけど。
「お前がジョージとかいうふざけた人間か。馬鹿なライドや親衛隊は誤魔化されるかもしれないが、エンヴァラ軍元帥の俺を
あ、コイツ面倒な奴だ。
クロル・ウィンミルは勝ち誇ったような顔を俺に見せてくる。
成る程、さすがはエルフ。顔は整っているよ。喋らなければ女性にモテモテだろう。しかし表情が動くと心根が顔の表面に滲み出てくるわ。
どうすっかな。たまには適当にあしらっておくか。
「エクス帝国のジョージ・グラコートです。まぁ貴方の感想はどうでも良いです。それより結論を教えてください。エンヴァラは俺を迎え入れるのか否か?」
「俺は絶対に認めん! 伝説の魔導師を騙る詐欺師を受け入れるわけが無いだろ!」
うん? 何か違和感があったぞ……。あ、そうか。
「別に元帥
「認めんと言ったら認めん! どこの馬の骨だかわからん奴に何故シルファが付いていくんだ! お前は生粋の詐欺師だ!」
何か激昂しとるわ。俺の嫌味をしっかりと感じてくれたみたい。
「元帥。少し黙っていていただけますか。話が進みません」
クロル・ウィンミルの隣に座っていた男性のエルフが冷たい声を発した。
怯えた顔で口を閉じるクロル・ウィンミル。
なるほど、この男性が本当の交渉相手か。
「失礼致しました。エンヴァラ親衛隊の隊長をしておりますマルス・ウィンミルです。長老よりジョージ様への言葉を預かってきております。世界樹とエンヴァラの民に害をもたらさないと約束されるのであれば迎え入れるとの事です。また万が一に備えてエクス帝国騎士団を名乗るギュンター・カスケードとボード・サバット、それにエクス帝国魔導団を名乗るカタス・ドラムバードはこちらで軟禁させていただきます。丁重に扱っておりますので、この件についてはご了承の程よろしくお願い致します」
うーん。どうしようかな? 交渉のテーブルを蹴っ飛ばしても良いんだけど、ギュンターさん達に何かあったら困るよな。カタスさんが死んだりしたら妹のエルに恨まれるわ。
要望は飲むが脅しは必要だよね。
「そちらが敵対しないのなら世界樹とエンヴァラの民に害をもたらさないと約束しましょう。しかしギュンター・カスケード、ボード・サバット、カタス・ドラムバードの三名が少しでも怪我などをしていた場合にはそれなりの代償を求めます。また今回のエンヴァラの対応に俺は少しイラついております。残念ながらエンヴァラの俺への要望は落第点ですね。エンヴァラは間違い無く後悔する事になるでしょう。これ以上の譲歩は今後一切無いと肝に銘じておくように」
スッと目を細めるマルス・ウィンミル。
「それは脅しですか?」
「ははは、忠告ですよ。それではエンヴァラへ向かうのは明朝で良いですかね。今日は日が落ちましたからね」
俺は警戒をしながら作戦本部室をあとにした。
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