第251話 全ての能力を駆使して

 いつもは広く薄く伸ばしていく魔力ソナーだが、今回は対象である人型の魔力にだけ伸ばしていく。対象の魔力の深いところにどこまで迫れるかが勝負だ。

 ゆっくりと呼吸を整え、魔力の周波を合わせていく。


 この人型の魔力は何かを発している。瞑想する事によって、それを確信した。間違い無く俺に念を送っている。

 しかしその念が鮮明になったり、ボヤけてしまったりしてしまう。これは相当に難しいぞ……。

 試行錯誤を続けるが、ある一定のところから全く先に進まない。まるで見えない壁に阻まれているようだ。


 さて、どうするか? このままやってもこれ以上進まない。これは何かしらの突破口を見つけないと無理だな。

 魔力を外に伸ばして人を感知する魔力ソナー。今回はそれの応用で外に伸ばした俺の魔力を対象の魔力に同調させようとしてみた。結構繊細な魔力操作がいるから難しいんだけどね。もう少しなんだが上手くいかない。

 できる事からやってみるか……。


 魔力ソナーは体外魔法。それでアプローチしたがあと少しだ。

 それなら今度は体内魔法でアプローチしてやる!


 俺は眼をカッと見開いた。

 エクス帝国魔導団第三隊秘奥義【嘗め回すような視線】発動!

 【嘗め回す視線】は自分の妄想を相手にぶつける最高峰のコミュニケーション法。そしてその真価を発揮させるには、相手の心情を汲み取る事が必要になる。双方向の密なコミュニケーションがあって、はじめて目だけで女を抱く事が可能となる。

 俺は【嘗め回すような視線】を発動しながら、魔力の体内循環を眼球に集中させる。先程開眼した魔力を見る能力。それを最大限に発揮できるように繊細に魔力を制御する。


 お、対象のボヤけていた輪郭がハッキリしてきた。そして周りの木々が光っている。


 あぁ、世界ってこんなに美しかったんだ……。

 魔力が視認できるって凄いな。スミレの魔力を早く視認したいや。やっぱり清らかなんだろうなぁ。


 しかしここまでやっても、やっぱり見えない壁に阻まれる。もう少しなんだけどな……。スミレに寸止めを食らった事を思い出してしまい気持ちが萎えてくる。

 負けるな! 俺は男の子! ハッキリ否と言えないおとこでも、壁をブチ破るんだ!


 最初は体外魔法の魔力ソナーの応用。次がエクス帝国魔導団第三隊秘奥義【嘗め回すような視線】と体内魔法で強化した魔力視の併用。

 それでも壁が破れなかった。


 それなら体内魔法と体外魔法の併用では?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「本当に聞こえるのですか? 嘘では無いんですね」


 頭の中に心地良い声が響く。これは念話なのか?

 ボヤけていた輪郭は既にハッキリして顔の造形が確認できる。尖った耳からエルフなんだろう。外見の年齢は28歳前後くらいか。そして俺は失礼ながらゾッとした。恐ろしいまでの美人だ……。俺にとってスミレが完成品の容姿だと確信していた。

 しかしこれはそういうもの・・・・・・では決して無い。

 俺は動揺を隠して頭の中で会話を始めてみる。


「こちらの言葉は通じているかな? やっと君と話ができるね。魔力ソナーと魔力視、エクス帝国魔導団第三隊秘奥義の併用でやっと上手くいったよ。俺はジョージ。君は?」


「私はハイエルフだった者。今は世界樹と呼ばれています」


 正体不明の存在が意味不明な事を言っている。そして少し挙動不審になる俺……。

 どんな状況だよ、助けてダン……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 小休止が終わり、俺は服を着て歩き始めた。壁を破った俺は既に世界樹と呼ばれている存在と頭の中で会話が可能になっている。それでもある程度の集中力は必要だ。

 俺は念の為シーファに周囲の警戒をお願いする。

 喜んで猫耳敬礼をするシーファ。なんか可愛くなってきたよ。本当に飼おうかな。



 取り敢えず世界樹と呼ばれている存在の説明を歩きながら聞く。

 どうやらこの存在は世界樹と繋がっているようだ。魔力の実体化、世界樹の精と言っても良いかもしれない。


 そこで世界樹誕生の話を聞いた。そして今の現況……。

 俺がやる事は理解した。あとはそれをやるだけだ。


 さて、それでは世界樹を切り刻んで焼きに行くか。

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