第239話 エクス帝国魔導団第三隊秘奥義

 俺は新しく用意された部屋でベッドに寝転んで考えていた。


 そういえば久しぶりに秘技【嘗め回すような視線】を使用したな。第三隊の同僚だったカフスと随分と会っていないや。元気にやっているかな? でもカフスとは友達じゃなく同僚だからなぁ。だから魔導団を俺が辞めてから会わなくなってるんだよな。本当に俺には友達がいないや。


 俺はカフスと飲み歩いていた日々をふと思い出した……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 18時の鐘がなる。

 終業の合図だ。またそれは始まりの合図でもある。特に毎月の給料日は。


「ジョージ、早く行こうぜ!」


 俺は同僚のカフスと連れ立って夜の街に繰り出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お前は相変わらずスミレさん一途なんだな。侯爵家の令嬢で魔導団第一隊のエリートは第三隊の平民上がりの魔導爵の俺達には高嶺の花だろ。そんな別世界の女性なんかに懸想して無駄な時間を過ごしてどうする? 手っ取り早く平民の娘を彼女にしたらどうだ?」


 カフスはそう言ってジョッキに注がれている酒を飲み干した。


「わかっているさ。ただスミレさんが結婚すれば心の踏ん切りが付くと思うんだ。スミレさんを思いながら他の女性と付き合うのは流石に失礼だよ。それよりカフスはどうなのさ?」


 苦虫を噛み潰したような顔をするカフス。


「当分女性は信じられない。奴等は俺がエクス帝国魔導団隊員って事にしか興味が無いんだ! 誰も俺自身を見ていないからな」


 平民から見たら俺たちエクス帝国魔導団隊員はエリートだもんな……。安定収入に最下層ながら一応貴族。平民の娘にしたら優良物件だ。


「取り敢えず飲め飲め! 飲めば全てが解決するのさ!」


 俺はアルコールで鈍くなった脳味噌を、さらにアルコールで鈍くさせる。ある一定レベルでどうにでもなれ!って気持ちに変わっていく。

 人生のモヤモヤをアルコールにぶつけてるだけの行為。無意味な行為だが意味がある。そう自分に言い聞かせて今宵もアルコールで満たされたジョッキを煽り続けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 大衆酒場で安酒をシコタマ飲んだ後は御決まりのコースだ。

 最近、帝都の夜の街で流行っているおさわりパブ。通称、オッ◯ブ。上半身裸の女性がお酒の相手をしてくれる。直接的な性行為は無く、女の子の下半身に触るのは御法度だ。またこちらの股間を女の子が触ってくる事もない。手頃なお金で女性の柔らかさを楽しめる形態、それがオッ◯ブ!


「どうも! リナです。こちらは初めての人かな?」


 俺は酩酊した頭でリナの柔らかさを黙々と堪能する。


「あら、だいぶストレスが溜まっているのかな? お話よりも揉む事で精一杯みたいね」


 オッ◯ブで働いている女の子はこちらの行為で性的な反応はしない。そりゃ毎日何人もの男性に揉まれているんだから、そうなるわな。

 こちらは娯楽、あちらは業務。この溝は驚くほどに深い。

 俺は女性の柔らかさだけを求めているので、ただ機械的に揉むだけだ。

 そんな俺の耳に衝撃の言葉が入ってきた。


「今日、俺はミルちゃんのオッパイを触らないよ」


「えっ、何を言ってるの?」


「だから触らないないんだよ。見てるだけにするよ」


 向かいのボックス席のカフスだった。


 オッ◯ブに入って、オッパイを触らない!? 飲食店に入って飯を食べない、将又はたまた、床屋に行って髪を切らない。そんな行為だ……。


 俺はリナちゃんの柔らかさを堪能する事をやめ、酒を飲みながら向かいのボックスのカフスに集中し始めた。

 俺の変化にリナちゃんが気付いたが、気を遣ってくれたようで横で大人しくしている

 引き続きカフス達の会話が聞こえてきた。


「ねぇ、本当に触らないの?」


「触らないよ。それにしてもミルちゃんは瞳がきれいだね」


「触らないなんて何しにオッ◯ブに来たの? ミルを馬鹿にしているの? ミルの身体は魅力的じゃないって事?」


「そうじゃないよ。魅力的だから触らないんだ。今日はゆっくりとミルちゃんの身体を目で感じたいんだよね。それよりもっと俺を見て。そしてその綺麗なミルちゃんの瞳を見せてくれ」


「ちょ、ちょっと危ない人なの? べ、別に良いけど……」


「やっぱり綺麗な瞳だ。そして魅力的な唇だね。とても柔らかそうだ……。そろそろ本格的にミルちゃんを堪能して良いかな? 会話はもう不要だね。俺の視線だけを意識して。目は口ほどに物を言うってね」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「カフス、あれはいったい何だったんだ?」


「あぁ、さっきのお遊びの事かい?」


 現在、オッ◯ブを出て、俺とカフスは酔い覚ましにしめの飯を食べている。

 肉を頬張りながら薄く笑うカフス。


「なかなか面白い光景だっただろ? 性を仕事にしている女性は、仕事中は反応が薄いだろ。それをなんとかしたくてな」


 確かに凄い光景だった。カフスは間違い無く視線だけでミルちゃんを抱いていた……。


「大事なのは相手の切替えのスイッチを押す事だ。そうじゃないとミルちゃんはいつもの流れ作業で俺の相手をするだけだからな。オッ◯ブで胸を触らないと宣言する事で間違いなく困惑する。そして時間をかけて見つめ合うんだ。お前を抱きたい。お前をヒーヒー言わせたい。お前を昇天させてやる。真剣に心を込めて目で訴えるだよ。そしてやるせない俺の性欲を目に込めて全身を視姦してやるんだ。ガンガンに妄想を伴ってな。女性はそういう視線に敏感なんだよ。ミルちゃんの頭の中では俺に犯される感じになっただろうよ。そうなったら女の子は勝手に妄想を膨らませていくのさ。あとは見ての通りさ」


 こりゃ凄いや。俺も試してみるかな。俺はカフスの視線で腰砕けになったミルちゃんを見て興奮しちゃったもんな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 それから俺とカフスは試行錯誤をしながら改良を加えていった。

 そのうち他の第三隊の隊員も加わり、悪ノリが酷くなっていく。

 夜の街の界隈ではエクス帝国魔導団第三隊は変態と噂されるようになってしまった。


 そして俺とカフスが行き付けのオッ◯ブから出禁を喰らった頃に秘技【嘗め回すような視線】は完成した。

 今後も秘技【嘗め回すような視線】はエクス帝国魔導団第三隊秘奥義として受け継がれていく事だろう。

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