エンヴァラへの道中編
第220話 天邪鬼ジョージ降臨!!
1月21日【赤の日】
「ジョージ伯爵。どうぞよろしくお願い致します」
もう1人の志願者はカタスさんだった。一緒にロード王国まで行った仲だから気楽だね。それに4月からは義理の弟になるしな。
「伯爵はやめてくださいよ。いつもどおりでお願いしますね。それとエルとは上手くいってる?」
「はい! エルとは仲良くさせていただいております。今回、私はエクス帝国政府の使者としてジョージ伯爵に随伴させていただきます。その為、公的な言葉を使う必要がございまして。いつものようにさん付けでは呼べないのです」
なるほど、公的と私的は分ける必要があるのか。堅苦しいけどカタスさんの立場もあるもんな。
「了解したよ。それならしょうがないね。でも道中は楽しく行こう!」
「かしこまりました。私もジョージさんと遠出ができるのを楽しみにしてましたよ。あ、ジョージ伯爵とです」
慌てて言い直すカタスさん。
「あはは、やっぱりさん付けで良くない?」
「いや、気をつけます。ジョージ伯爵でお願い致します」
カタスさんはすぐに真面目な顔になる。しかしすぐに顔が綻んだ。
「やっぱり無理ですね。諦めましたよ。いつものようにジョージさんで行きます。その代わりベルク宰相には黙っておいてくださいね。念押しされてますから」
あら? ベルク宰相に念押しとな? ベルク宰相はあんまりそんな事を気にする人じゃないと思ったけど……。確か、以前ロード王国に行った時はカタスさんは俺をさん付けで呼んでいたけど、ベルク宰相は注意とかしてないよな? まぁ良いか。この辺の匙加減はダンの領域やね。あ、こんな考えがボケを進めてしまうのかも。
「おい! 用意ができたから出発するぞ!」
振り返ると不機嫌そうなオリビアが立っている。何か朝から戦闘モードだな。先が思いやられるわ。
結局、エルフの里に向かうメンバーは俺と専属侍女のポーラ、護衛役の茜師匠、カタスさんとオリビア、そしてサイファ魔導団長の兄のライドさんの計6名だ。
4人乗りの馬車に馭者1名、ライドさんは1人で馬に乗り先導してくれる予定だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
4人掛けの馬車の座席を決めるのにローラとオリビアの親子が揉めだした。
「普通に考えればコイツの隣りは護衛の龍闘殿だろ!」
「何を言ってるのオリビアちゃん。護衛だからこそ茜様はジョージ様の全体が把握できる真正面、向かい側の席でしょ。当然ジョージ様の隣りはジョージ様のお世話をする専属侍女の私になります」
オリビアちゃんって。こりゃオモロいネタを仕入れたわ。
俺が心の中で笑っていると、オリビアちゃんからキッと睨まれた。これはご褒美かしら?
「お前もなんとか言え! お前の隣りの席は護衛の龍闘殿だよな!」
茜師匠が隣りかぁ。結構良い香りするんだよね、茜師匠。それはそれで良いけど、俺の選択は違う!
「やはり護衛の茜師匠は俺を視界に入れておく必要があるから、俺の向かいの席だな」
「なっ! そんな馬鹿な話があるか!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
帝都から東に馬車が走る。外の景色を眺めながら馬車に揺られていると睡魔に襲われる。昨晩、スミレを満喫したからなぁ。スミレの朝の日課の瞑想中にも俺が乱入したもんな。
そういえば夜中にバラス公爵家から使者が来ていたな。ダンが応対してくれた。コールド・バラスの件で謝罪したいって言ってたみたい。ダンの返事は今日は夜が遅く俺が既に就寝している。明日はエルフの里に向けて出発するから慌ただしい。エルフの里から俺が帰還してから改めて謝罪を受けると。こりゃ俺が帰還するまでコールド・バラスは針の筵だな。思惑通りだけど悪いことしたかなぁ。まぁいいや。【反省はするが後悔しない】のが俺の座右の銘。あ、また座右の銘を浮かべている。長年の習慣は抜けないなぁ。
「ジョージ様、是非私の肩に頭を乗せてください。よろしかったら膝に頭を乗せますか?」
船を漕ぎ出した俺にポーラはにこやかな顔で語りかけてきた。
「いや、大丈夫かな」
「道中は長いですからジョージ様にはゆったりとして欲しいんです。遠慮しないでくださいね」
グイグイと勧めてくるポーラ。毅然と断ろうと思っていたら視界の隅に俺に憎悪を向けるオリビアちゃんの顔が見えた。
「そっか、そうだよね。せっかくだから甘えさせてもらおうかな」
そう言って俺はポーラの膝に頭を乗せる。
柔らかいなぁ……。
馬車の窓からは冬の日差しが差し込んでいるが、まるで春の日差しのように感じる。
こ、これはポーラマジック!?
なんて事だ。ポーラは季節を操れる魔術師なんじゃないか!
アホな思考をしていたが、薄目でオリビアちゃんの様子を窺う。
凄い形相だよ。奥歯を噛み締めている。まるで歯軋りが聞こえてくるようだ。
これは煽り過ぎた?
しかしここで止められないのが
腕をポーラの腰に回し、抱きつくようにポーラのお腹から股にかけて顔を埋める。
「あらあら、ジョージ様は甘えん坊なんですね」
優しい声をかけ、俺の頭を撫でるポーラ。
あぁ、幸せだ……。
母親に捨てられた俺は母性に飢えているのか? ポーラのぬくもりが心に染み渡る。
しかしそんな幸せの中、すぐ近くで殺気を放っている奴がいる。オリビアちゃんだ。俺の魔力ソナーにビンビンに反応しているわ。ドラゴン並みとは言わないがオーガ並みだなこりゃ。破壊の権化並みの殺気って……。雇い主に向けるものではないよな。
「なるほど、貴女は剛の剣の使い手ですか。名前は確かオリビアでしたか」
透き通るような声でオリビアちゃんに話しかける茜師匠。
「そうだが、それがどうした」
不機嫌な事を隠す気も無いオリビアちゃん。そのオリビアちゃんに表情を変えずに話しを続ける茜師匠。
「私の護衛対象であるジョージ様にそのような殺気を向けられるのは困ります。どうやら貴女は元気が有り余っているようですね。少しその元気を発散させますか?」
「どういう意味だ?」
「すいません、私はエルバト共和国出身なもので意味が通じませんでしたか。それならばエクス帝国の人にもわかるように言いましょう。不敬な殺気をジョージ様に向けるのを今すぐやめろ。ボコボコにしてやるから表に出ろ」
茜師匠の言葉にさらに殺気が増したオリビアちゃん。ただしこの殺気は茜師匠に向けられたものだ。
茜師匠はその殺気を柳に風のように流している。怒りで凄い形相のオリビアちゃんと涼しい顔の茜師匠。対比が最早芸術だ……。
異様な状況に俺も身体を起こす。
茜師匠は自然な所作で馭者側の窓を開け、カタスに話しかける。
「すいません、カタス様。馬車を一度停めてください。野暮用ができました」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カタスが馬車を停めるとオリビアちゃんが勢いよく馬車を飛び降りた。
茜師匠は俺に顔を向ける。
「ジョージ様、すいません。少しオリビアを矯正してきます。オリビアはグラコート伯爵家臣団に入団しようとしております。現在試用期間ではありますが、主に殺気を向けるとは言語道断です」
こ、怖い。静かに怒っている。
これは
ヤ、ヤバい、
馬車の外からオリビアの怒声が聞こえてきた。待ちきれない様子だ。
俺は祈りを込めて茜師匠にお願いを試みる。
「あ、あの、お手柔らかにしてあげてね」
「どうでしょうか? オリビア次第ですね。あとオリビアが不憫ですから、ジョージ様は私がオリビアを矯正をしているところは見ないでください」
茜師匠はまるで近所に買い物に行くような雰囲気で馬車を降りて行った。
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