第219話 罰ゲームの予感
「怒っていないの?」
小首を傾げこちらを見るスミレ。
「何で私がジョージに腹を立てないといけないの?」
「だってバラス公爵家との仲を悪くするような事しちゃったし……」
「まぁコールド・バラスがやった事は通常の貴族の社交の範囲内に収まるわね。マウント合戦は当たり前だから」
そうなのか? まぁそうだよな。じゃムカついて帰ってしまった俺は空気も読めないイカれた人なんじゃないか?
「やっぱり帰宅したのはマズかったかなぁ。最近、我慢がきかなくなっているような……」
「あら、そんな事気にしていたの?」
「そりゃ気にするよ。増長していないか? 横柄になっていないか? 英雄なんて持て囃されて俺はおかしくなっていないか……」
「ジョージは自制が効いてる方だと思うけど。普通の人ならもっと好き勝手やるんじゃないかしら? 今日の件だってグラコート伯爵家には何も不利益は生じないでしょうね」
「そんな事言っても、ダンからバラス公爵家と友好を深めておくのは良い事と言われていたのに、結局友好を壊してきたじゃん」
「ジョージが思っているよりもダンは切れ者よ。今日のジョージの行動もダンに取っては想定の範囲内だと思うわ」
「いくらなんでもそれは無いだろ。俺はタイル前公爵も苦手だったけれど、コールド・バラスは本当に生理的に受けつけないんだ。俺自身が不思議に思うほどだよ。声を聞くとイライラするし、顔を見るとブン殴りたくなるもんな。さすがのダンでもこれは予想できないだろ」
「そうかな? ダンだったらジョージがバラス公爵邸を破壊するのも想定している気がするわ」
俺はどんな人間なんだよ……。いくらなんでも今日エクス帝国政府の前で友好を確認した相手貴族の邸宅を破壊はしないだろ。そんな奴を放し飼いにしちゃ駄目だよな。
「それなら答え合わせをしようか。明日からのエルフの里に行く件についてもいろいろと確認しないと駄目だしね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほど、スミレ様とそんな事を話し合っていましたか」
「それで実際はどうなの? スミレの言うように俺がコールド・バラスに苛ついてジャイル・バラス公爵の御披露目パーティを欠席したのは想定の範囲内だった?」
涼しげな笑みを浮かべるダン。
う、ナニコレ? 男が見ても見惚れる顔じゃん……。
「残念ながらジョージ様もスミレ様も不正解ですね。今回、私は何の想定もしてないですから」
「想定してないってどういう事? 何の予測もしてなかったの? それって参謀として問題じゃない?」
涼しげな笑みを全く崩さないダン。
「全く問題ありませんね。私は自分で言うのもなんですが合理主義の塊です。無駄な事に思考を使いたくないんですよ。どんなにバラス公爵家と拗れようともジョージ様の戦闘力があれば切り抜けられます。ましてやスミレ様もおられますから」
「じゃ、何で今日はジャイル・バラス公爵の御披露目パーティに出席を勧めたのさ。ダンはバラス公爵家と友好を深めておくのは良い事って言ってたよね」
「今回の目的は生きた情報収集ですね。この度バラス公爵家の当主となった
「情報収集? 確認?」
「ジョージ様に対してジャイル公爵とコールドがどのような対応をするのか? またそれに対してジョージ様がどうするのか? それを確認して今まで収集した情報と照らし合わせて修正をおこなっていきます」
「俺がどうするかって、俺の情報収集も入っているの!?」
「ジョージ様に対してはジャイル公爵とコールドとの相性の確認ですね。こればかりは直接絡んでみないとわからないですから。実際にジョージ様とコールドの相性が最悪とわかって良かったです。今後はその点を踏まえて思考できますから」
確かにコールド・バラスの顔を思い出すだけで何故かイライラしてくるわ。そんなに酷い事された訳じゃないのに。相性は最悪なんだろう。
「まぁ今後も考える事はダンに任せておけば良いって事だな。それよりも明日のエルフの里の旅程について確認しておきたいんだけど。誰を連れて行けば良いかな? 俺とスミレは確定だけど」
「誠に申し訳ございませんが今回はスミレ様には帝都に残っていただきます」
え、何を言ってるの? 片道馬車で1ヶ月、往復で2ヶ月だよ? そんな長い期間スミレと離れ離れなんて有り得ないわ。
「ダンの意見でもそれは受け入れられないよ。俺とスミレは一心同体だ。そりゃ無理ってもんだ」
「それは理解しておりますが、今回は我慢してください。そろそろエルバト共和国の外交使者が帝都を訪れると思われます。ジョージ様が帝都を離れている中でスミレ様までいないとなるとエルバト共和国に与える圧力が下がり過ぎます。またグラコート伯爵家の当主代理はスミレ様にしか務まりません」
「別にエルバト共和国への圧力なんて関係無くない? ベルク宰相が上手くやるでしょ。それに当主代理はダンに任せるよ」
「残念ながら私には当主代理が務まりません。私は平民ですから。対外的に当主代理が務まるのは、一般的に当主の奥様、跡取り、後は親戚の貴族ですね」
なぬ!?
じゃ俺がいない間、グラコート伯爵家はお休みにしちゃえば良いんじゃない。……それは無茶だわな……。俺でもわかるわ。
「ジョージ、あまり無理を言ってもしょうがないわよ。私も寂しいけど我慢するから」
優しく俺を諭すスミレ。確かにしょうがない。されど
「タイミング良くポーラを専任侍女に抜擢できたのが
にこやかに話すダン。残念ながら俺はポーラに性欲をぶつけるつもりはさらさら無いんだよ。
ヤレる女性を伴った2ヶ月……。より酷い罰ゲームになってきたな。しょうがない腹を据えるか。
「了解したよ。後の人員はどうする?」
「そうですね。最少人数で考えています。その方が移動が早いですから。まずは茜さんは絶対です。茜さんにはスミレ様の代わりにジョージ様を守っていただく予定です。また茜さんはエルバト共和国から指名手配がされております。エルバト共和国の使者が来た時に本人がいない方が都合が良いと推測します」
茜師匠かぁ。茜師匠なら安心して背中を任せられる。それにエルバト共和国の使者が来た時も茜師匠がいない方が問題が少ないのも理解できる。でも今は保留中だけど、茜師匠は俺の子種の提供を申し出ている女性だった……。安心はできない。茜師匠ってクールな美人さんだもんな。楚々とした雰囲気で綺麗な黒髪を後ろでまとめている。あのうなじに欲情しない男は不能のレッテルを貼られるわ。
なんか加速度的に罰ゲームの厳しさが増しているように感じる。想像すると背中に冷や汗をかいてきた。
「先程も言いましたがポーラにはジョージ様の専任侍女として付き添ってもらいます。後は志願者が2人です。この2人には馬車の
志願者? そんな人いるの?
「1人目がオリビアです。ポーラがジョージ様の専任侍女になったと聞いたその場で志願しました。現在オリビアはグラコート伯爵家で保護をしております。また皇室侮辱罪の件でオリビアは騎士団を除隊させられています。オリビアはエルフの里の同伴以外にグラコート伯爵家臣団への入団希望を申し出ております」
え、あの
結構気が強そうだし、軋轢が生じないだろうか?
「オリビアの家臣団への入団は確定なの? 周囲と衝突は生じないかな?」
「オリビアの騎士団での評価は相当高いです。戦闘力は当たり前ですが、情意評価がおしなべて高いのです。規律性、積極性、責任性、協調性の全てで最高評価となっております。オリビアは間違いなく得難い人材です。あとはジョージ様との相性ですね。それでオリビアには2ヶ月間の試用期間を設けると伝えております。エルフの里から帰還後正式採用するかどうかを決める予定です」
なるほどね。ダンっていろいろ考えているわ。楽なんだけど、このままダンに頼っていたら、俺は思考をやめてしまってボケちゃうんじゃないか。ちょっと心配になってきたぞ。
「了解したよ。もう一人は誰?」
「ジョージ様も良くご存じの方です」
俺が良くご存じの方?
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