第212話 漆黒の笑み

 厳しい目をベルク宰相に向けるダン。

 しかし涼しい顔を崩さないベルク宰相。


「なるほど。グラコート伯爵家臣団にダンが入ったことで私の目論見は全て無駄ですね。承知致しました。これ以上はエクス帝国政府が望まない形になりそうです」


「ジョージ様はエクス帝国から離れるつもりはありません。あくまでも現時点・・・では」


「これは手厳しい言葉いただきましたね。グラコート伯爵家の意向は承知致しました。それではこの辺でお開きにしますか。では明日の午前にジョージさんの提案された会合を開きます。よろしくお願いします」


 よくわからんけど、ベルク宰相とダンは結構バチバチだったな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 グラコート伯爵邸に着いてからダンに確認を取る。


「今日のベルク宰相との話の内容について、俺がついていけてなかった。ダンとはしっかり意思疎通をさせておきたい。説明してくれるかな?」


「結論から言えば、ベルク宰相はジョージ様とアリス皇女の婚姻を画策していますね。ジョージ様がアリス皇女の色仕掛けに引っ掛かって性的関係を持たせようとしています。そうなったらジョージ様の性格上、責任を取ると思いますから」


 性的関係!? 確かにそうなったら俺は責任を取りそうだ。


「でもベルク宰相は俺がスミレ以外と結婚するつもりが無い事を知っているよね。オリビアの側室の話でもタイル公爵に注意していたしさ」


「既成事実を作ってしまえば、あとはどうとでもなります。ジョージ様を公爵にしようとしたのもそのためです。アリス皇女と婚姻するのなら伯爵では些か厳しいですから。それにジョージ様を公爵にさえしてしまえば、ジョージ様とアリス皇女との結婚に大義名分を与える事になります」


 結婚に大義名分? 何をダンは言っているんだ? そんなもん聞いた事もないぞ。


「結婚の大義名分ってなんなの? 意味がわからないよ」


「公爵家とは皇室の血を継いでいる必要があるのです。これが原則なんですよ」


 なんとなく理解したよ……。そういうことか。


「グラコート伯爵家が公爵家になった場合、皇室の血が入っていません。その為、ジョージ様がアリス皇女と婚姻をし、グラコート公爵家に皇室の血を入れるのです。そしてその子供にグラコート公爵家を継がせる感じですか。間違いなく、そのような力学が働きますね」


 だからダンは公爵の件をすぐに断ったのか。ダンがいなかったら了承していた可能性が高いや。


「昨年はそうでもありませんでしたが、今年に入ってからベルク宰相は積極的にジョージ様とアリス皇女を婚姻させようとしていますね。推測するとアリス皇女がかたくなんでしょう。アリス皇女の私室にあるジョージ様の姿絵は有名ですから。本当にモテる男は辛いですね、ジョージ様」


 ダンがしっかりとベルク宰相に釘を刺してくれたから、当分は大丈夫そうだな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後になってザインが騎士団から解放されてグラコート伯爵邸に戻ってきた。取り敢えずザインの話を聞こうか。


「ダン、ザインを呼んできてくれないか?」


「その件についてですが、できれば私に一任していただけないでしょうか?」


「一任ってどういうこと?」


「今のザインにジョージ様と会わせるのは誰も幸福にならないと推測致します。ジョージ様、そしてマリウスやナタリーが悲しむ事になりそうです」


 マリウスやナタリーが悲しむ? なんで? 俺は別にザインが今回の事を反省してくれれば罰は与えないつもりなんだけど。

 俺が怪訝な顔をしているとダンが説明を始めた。


「ジョージ様はザインの処罰はどうなされるか決めましたか?」


「そうだね。結果的は何も被害を被らなかったから、しっかりと反省しているようなら厳重注意かな」


「甘々の裁定ですが、ジョージ様ですから。それでもしザインが反省してなかったらどうしますか?」


 反省していないの? ここまでしでかしておいて? さすがに現状を理解しただろ。


「まともな人なら反省しているでしょ。反省してないなんて有り得ないと思ったから、考えていなかったよ」


「ザインは未だにアメリアを信じております。いや信じたいと言ったほうが正しいでしょうね。ザインにしてみれば今回の件が【魅惑の蜜】と認めるわけには絶対いけないですから。認めるとアメリアのザインに向ける愛情は偽物と認めると同義になります。またそれはジョージ様への裏切りが確定してしまいます」


 分からなくは無いが……。

 ザインの親である家宰のマリウスとメイド長のナタリーの顔が浮かんでくる。

 どうにも救われない。


「それでダンにザインの件を一任するとどうなるの?」


 ニヤリと笑みを浮かべるダン。

 これは黒い笑みだ……。いやこれはただの黒じゃない。そう例えるならば漆黒。漆黒の笑みだ……。


「そうですね。ザインにジョージ様の素晴らしさを教えるだけ・・・・・です。簡単に言えば教育・・ですね」


 ダンは確かに教育・・と発したのに俺には洗脳・・としか聞こえなかった。


「あ、あの、ダンさんや。いったいどういう風に教育をするのかな?」


「あれ? ジョージ様が教育・・に興味がありましたか? そういう煩わしい事に興味が無いと思いましたが」


「いや一応確認しといた方が良いような気がしてね」


「そうですね。ザインに施す教育・・はエクス帝国軍の新兵軍事教練の考え方と新興カルト教団の洗脳法を私なりにアレンジしたものですね」


 新兵軍事教練の考え方!? それって新兵を怒鳴り付けまくってしごきまくるヤツだよな……。

 それに新興カルト教団の洗脳法!? ついにダン自ら洗脳・・って言っちゃっているじゃん!

 これは間違いなくダメなヤツだ。


「さすがにそれではダンに一任できないよ」


「そうなんですか? 合理的に考えればこの方法が一番だと思いますが。ザインがジョージ様に心から・・・忠誠を誓うわけですから。それは間違いなくザインのためでもありますし、マリウスやナタリーも喜ぶでしょう」


 あ、ダンが暴走しているわ。

 ダンは俺の事になると見境が無くなるところがあるよな。


「そんな作られた忠誠はいらないよ。ザインには自分で考えさせてあげて。明後日からエルフの里に出発するから、帰ってきてからザインの返事を聞くよ。2ヶ月あるからザインも冷静になれるでしょ」


「了解致しました。それではそのように対処致します」


 ダンは少し不服そうな顔で退室した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 どうも葉暮銀です。


 七ヶ月間も書いていなかったですね。去年の11月に転職したため、慣れるまで時間がかかっていました。

 疲れていたため執筆意欲が湧かなかったっす。


 現在は仕事も少し落ち着いて気持ちの余裕ができました。執筆意欲は65%くらいですかね。


 4/27から続きを書き始めました。現在、20話(4万7千文字)のストックができました。

 カクヨムでは今日から毎日一話ずつ更新していく予定です。

 今回はどこまで更新が続くかわかりませんが取り敢えず6/7(20日間)までは確定ですwww


 どこまで伸びるかは私のモチベーション次第なんでしょうね。私は単純なんで、ランキングが上がったり、応援メッセージをいただけると執筆意欲が上がりまくる性格です。


 それでは【ジョージは魔法の使い方を間違っていた!?】をお楽しみください。


2024/5/19 葉暮銀

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